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願ってたものは裏腹に


人々は生まれながらにしてスキルと呼ばれる特異的な能力を持って生まれる。

それは何も無い場所から炎を生み出すことが出来たり、強烈な風を呼び起こしたりなど千差万別だ。

この力を利用して人類の文名力は大幅に上昇し豊かな文明を築いた。

しかしこのスキルには様々な種類があるが故に大いなる力を使いこなす者とそう出ないものが出現しだした。

また種族の中でも出現しやすい力が別れ、人類は汎用性が高く、良くいえば多種多様な力、悪くいえば器用貧乏というものが多い。その反面、魔族と呼ばれる者たちは種類こそ少ないものの絶大なる火力を持ったスキルが生まれやすかったため、必然と人類は差別され排他的な扱いを受けることが多かった。


「ノト・ライノス!貴様このような所業が許されると思っているのか!」


願うなら許して欲しい。俺だって老録寸前のジジイに触手プレイを痛くてしているわけではない。

だが俺の意思とは反して触手は蠢き、更にジジイの体を弄る。


「私がこんなことに屈するとでも思って・・・!おひぃぃいいい、しゅごいのぉぉおおお!!」


昨今の高潔な騎士が快楽に負けるような状況がそこにはあった。ただし60過ぎのジジイだが。

数十本ある触手は男のありとあらゆる部位に絡みつき、刺激を加えている。


俺は涙した。もちろん男を触手プレイに成功した喜びではなく、散々欲しがっていたスキルが、なぜこれなのかと絶望と葛藤の涙であった。


俺はアストラル帝国で生まれ育った男だ。アストラル帝国は他の国々と比べ特に人種差別が激しく、人類種でなおかつ、スキルの発現が遅かった俺はイジメなどの標的になりやすかった。


「なんぞこれ…?」


幼少期、いつものようにスキル発生の為に身体強化の訓練として筋力訓練、精神統一を町外れにある洞窟で1人寂しく取り組んでいた。

国に伝わる伝承として筋力訓練、精神統一はスキル発生に関与すると告げられていたため純粋無垢に信じ訓練を行っていた。


そしてある程度の訓練が終わったあと、昼を迎えたため昼食を取ってたところ草1本生えないような石で覆われた地面に1本のキノコが生えていた。

色は禍々しい赤と紫のいう組み合わせ。

それに加えてこの世のものと思えないような悪臭が鼻に突き刺さる。

こんなこの世のものと思えないようなキノコが地面から生えていたら場所を変えるか、キノコをもぎ取り匂いの届かないところまで投げるであろう。


「でも何だか目が離せないんだよなぁ」


そう。許容しがたいコントラストと悪臭にも関わらずこのキノコから目を離せない。

むしろこのキノコを口にしたいと思っている自分がいる。

そしていつの間にかキノコを手に取り、口の前まで持ってきていた。


臭い。

とてつもなく臭いがそれ以上にこのキノコからは惹き付けられるナニカが自分を惹きつけて離さない。


「はぐっ!」


襲いかかる刺激臭と舌を焼き切るような味覚、ネバネバと不快な食感が口の中に染み渡った。

これほどまでに不味い物を食べたことがないくらいに不味い。しかし口の動きは止まるばかりか更に増し、数秒も経たないうちにおぞましいキノコを平らげてしまった。


「う、うぇぇええっっ!」


吐き気と共に身体中に染み渡る熱感。襲いかかる倦怠感に堪らず瞼が重くなり、意識が消失する。



「ぶっひゃゃっぁ!」


突如襲いかかる冷感に思わず沈んでいた意識が取り戻され、暗く空に散りばめられた星と共に1人の少女が入り込んできた。


「いつまで寝てるのよ」

木のバケツを片手に声をかけてくれた少女の名はアニス・ナイルト。

赤毛に青色の瞳を呈して、八重歯が特徴の子だ。


「いや、キノコ食ったら気絶してた」


「拾い食いなんてしてるからバチが当たったのよ」


やれやれと頭を掻きながら呆れたように言葉を投げかけた。そしてバケツを持っていた反対の手にあった、サンドイッチを俺に投げてこう問いかけた。


「今日は何の日か分かってるの?」


「何って・・・祈りの日だろ」


祈りの日。それは俺を拾ってくれた聖ミスチュール教会が週に一度行っている、お祈りを捧げる日のことだろう。

毎日行っている食事前や寝る前のお祈りとは違い、教会の人間が大広間に集まり儀式と共に祈りを捧げる大切な日と教えられている。


「あと一時間弱で始まるから早く教会に戻って、体を清めてきなさい。遅れたら寮長のあたしが怒られるんだから」


やや蔑まれながら、伝えられたことを聞くと体を起こし葉っぱを手で払いながら立ち上がった。

そしてアニスの手のひらの上には炎が浮いていた。

自然ではあり得ないと思うかもしれないが、これがこの世界の常識であるスキルの影響だろう。

このスキルは大聖堂で行われる祈りによって与えられる神様からの贈り物とされている。


「悪い悪い。すぐに向かうよ」


月の光に照らされた草木を後にしなが教会へ足を運ぶのであった。

色濃く映った影と這いずりる半透明で粘性を纏ったものを見落とし、これから起こることを知り得ないまま。







歩くこと数分、コンクリートで作られた建物が近づいてきた。

聖ミスチュール教会。俺たちが生活している場所で、コラズン村の奥に鎮座している場所だ。物心ついた頃からこの教会で生活しており訳ありの子供を預かっているらしい。


「早く制服に着替えて大聖堂に集合しててよね。遅刻したらアタシが怒られるんだから」


「悪かったって。アニスも遅刻するぞ」


ふん、と顔を背けながら女性寮へと足を進めていった。聖ミスチュール教会は教会を挟んで左右に女性寮と男性寮に別れている。男女の比率は8対2と女性が割合が多く占めている。

村の比率は半々であるがなぜかここでの比率は女性の方が多い。

あまり深くは考えず、俺は男性寮へ向かい、祈りの準備を進めるのであった。



数十分が過ぎたところで俺と同部屋であるダニエル・ウェンストンと一緒に大聖堂へ話しながら向かっていた。


「全く、今日もサボるつもりだったのかい?いい加減説教に巻き込まれる僕の気持ちにもなってよ」


黒髪に獣人特有の耳をピクピク動かしながらジト目で俺を見ていた。


「これには深いわけがあって・・・」


「その言い訳、100回は聞いたよ」


「悪かったって。それより早く急ごうぜ。またダイラス司祭に説教されちまう」


廊下走るべからずと司祭に口すっぱく言われているが、見られていなければ問題ないとやや駆け足気味に歩き出した。



大聖堂の扉を開けると30人弱の寮生と5人の司祭に、白いローブを羽織った1m程度ある子供たちが控えていた。

大聖堂の中は薄暗く、こっそり行ってもバレないだろうと忍足で列に加わろうとすると七面倒くさいダライス司祭と目が会ってしまった。


「遅いぞ!整列には5分前に集まれと規則で決まっておろう!」


蛇も尻尾を巻いて逃げるような眼光と体の芯まで響き渡るような声で呼ばれ思わず直立不動になる俺とダニエル。数秒たったのち首を振って列に加われとジェスチャーを送られ急ぎ足で列に加わった。


「2名多少遅れたが儀式を行わせてもらう。祈りの準備を」


俺らの方に向いていたダライス司祭は正反対に向きを変え、ある遺物が眠っているとされている長方形の棺へ歩みを進めた。

すると司祭らのすぐそばにいた子供達が横一列に並び祈りを唱え始めた。

そして俺ら寮生たちは子供達が唱え始めたタイミングで手を結び、続くように祈りを捧げ、聖歌を歌った。


その聖歌に釣られるように俺の心臓付近が急に強く鼓動した。


「ッッウッ!!」


思わず前のめりになりなりそうになるのをとどめて、毅然とした態度で聖歌を歌おうとするが心臓の鼓動がどんどん強くなっていく。

またそれだけではなく、背中の奥に蟲が這いずり回るような感覚に陥る。

声どころか、呼吸すらままならなくなってきて、徐々に体が前のめりになったことで地面に視線を向けた。

そこには人間の腕ほどある触手が3本ほど畝りながら、地面を這いずり回っていた。

声を出そうにも出せない。周りの寮生や司祭は聖歌に夢中で気づいておらず、呑気に神への祈りを捧げていた。


触手は蛇のように蛇行しながらダイラス司祭に近づいていく。俺は近づこうと歩みを進めようとしたがある違和感に気がついた。

後ろを振り返っても触手の発生源となるものが見つからない。しかし俺からダイラス司祭まで触手は続いているが、俺の後方には触手は続いていない。

まさかと思い、自分の足元を見ると足から腰へ触手は続いている。腰に手を回すとヌメついた触感が伝わり、肩甲骨付近から生えていたことに気がついた。


触手の存在を知らせようとしたが、声も出ず足も動かない。俺が止めようとする裏腹に触手はダイラス司祭の足元に絡みついた。


「ん?何だこれは!?」


時すでに遅く、触手は足元から絡みつき、ダイラス司祭を逆さ宙ずりにした。

周りの司祭も気付き、触手へ近づこうとするが触手から枝分かれした別の触手が近づくのを憚るように地面から鋭利に尖った触手が飛び出した。


「おい!なんだこれは!辞めんか!」


3本だった触手はいつの間にか増殖、分裂しており数十本になりダイラス司祭の四肢に絡みつき地上から数m離れた一から位置で大の字になるように縛り上げていた。

高貴な素材で作られたであろう修道服は無様にも破られ哀れな姿で吊るされているダイラス司祭がそこにはいた。

そしてもがき苦しむダイラス司祭と目が合う。


「貴様かノト!いつかしでかすであろうと思ってはいたが、この清らかな場所でこのようなイタズラが許されるかと思っているのか!」


いや俺ではないと訴えたいが、この触手は確実に俺の体から生えており十中八九俺の仕業だと思うのはしょうがないのも事実だ。

ダイラス司祭の怒声と共に触手は蠢き、四肢を縛り上げていた触手とは別の触手がダイラス司祭の隠されていた秘部に近づき弄る。


そこからは触手に弄ばれたダイラス司祭は白目を剥きながら奇声をあげる


「おヒィぃぃイイイ!!!」


数回ビク付いた後、触手は飽きたかのようにダイラス司祭を地面へ放り投げ俺への体へ戻っていった。

ようやく声が出せるようになった俺は静まり返った聖堂でこう呟いた。


「どないしょ」


頭を抱える俺へ脳内からノイズ混じりに機械音が響いた。


スキルを獲得しました


取得スキル、触手操作。一定時間体から触手が生え、操作が可能になります。

しかしスキル発動から3分間触手の操作は無効となります。3分後に操作が可能になります。


「ふざけんじゃねぇぇぇぇぇえええ!!!!!」


俺の怒号は虚しく静まりかえった大聖堂に響く渡っただけであった。





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