エピローグ
彼の様子がおかしいと気づいたのは、授業が始まって比較的すぐのことだった。彼は口癖のように面倒くさいというくせに、授業だけはいつも真面目に受けていた。その彼が、だるそうに机に伏せていた。昨日からいろいろあって、精神的に疲れているのだろう。最初はそんな風に考えていた。しかし、二時間目が終わったとき、それは具体的に表面化してきた。そして、三時間目が終わると、彼自身が自覚してしまったようで、保健室に向かい、そのまま早退してしまった。
私は申し訳ない気持ちで、授業をまともに受けることが出来なかった。ここまで迷惑をかけ続けるとさすがに笑えない。後悔しても仕切れない。私の後悔は、放課後まで続いた。
授業はいつもどおり滞ることなく進んでいき、定刻どおりに放課後を迎えた。私はまだ立ち上がることが出来ずにいた。すると、そこに真嶋さんがやってきて、
「岩崎さんは、部活に行くの?」
「ええ、そのつもりですが」
「あのさ、一緒にお見舞い行かない?成瀬の」
そこでようやくお見舞いという言葉が私の頭の中に芽生えた。なぜ今の今まで一切思いつかなかったのだろうか。そうだ、お見舞いに行こう。そのほうが、こうやって後悔して無駄に時間を使うより。よっぽど上手な使い方である。昨日の恩返しもできるし、今の気持ちも幾分晴れるだろう。
「そうですね、行きましょう」
私は真嶋さんの誘いに乗ると、早速麻生さんと泉さんの元に行き、事情を説明した。すると、
「俺も行くよ。何だかんだあいつには世話になっているし、返す恩もいくらかある。何しろ、あいつが風邪引いて学校を早退するなんて滅多に見れるものじゃない。顔を見に行かないと、きっと後悔する」
どう考えも後半のほうが本音っぽかったが、一応心配してくれているのだろうと思い、私は了承した。
「私も行くわ。あいつには散々バカにされたし、やり返さないときがすまないの」
どう考えても心配しているとは思えなかったのだが、きっと素直になれないだけで本当はとても心配しているのだと、勝手に解釈して、私は了承した。
結局同行者四人となってしまって、お見舞いには少し多い人数だと思うが、みんな彼が心配なのだと、半ば言い訳にも似た言葉を盾にして、彼の家に向かった。
今度は彼が魔法にかかる番なのだ。私はとてもいい魔法にかかり、とてもいい夢を見させてもらった。だから彼にも最高の夢を見せてあげられるような、最高の魔法を掛けてあげたいと思う。
「成瀬さーん、来ましたよ!調子はどうですか?」
そろそろ第七弾の連載を始めたいと思っているので、そちらのほうもよろしくお願いいたします。