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異世界転生は神様として!?  作者: あるとせるく
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素材の買取と賢者の血筋

無事にルーリ入りできたミノル一行。

しかしミノル達はお金を持っていなかった。

お腹を満たすにも今夜のベッドを得るにもまずはお金。

ミノル達は討伐した魔獣の素材を売ってお金にする為買取所に向かうが・・・

「さて、まずは何をするにも路銀からじゃな!」


イナが元気よく提案する。

確かに、今の俺たちは無一文だ。

先程討伐した魔獣の素材を売れば多少のお金になるかもしれない。

路銀が尽きてしまっては寝るところはおろか、食事もままならない。


「そうだな、入口の案内板には北区に素材買取所があるらしい。 まずはそこで魔獣の素材を買い取ってもらおう。」

「そうですね。 宿に泊まるにもお金は必要ですし・・・その・・・・・・先程美味しそうなお店もありましたので、是非とも寄ってみたいです!」


クローシェちゃんは恥ずかしいのか頬を赤らめてしまう。


(おお、恥ずかしがっているクローシェちゃん可愛いな! 可愛いが・・・クローシェちゃん、魔王なんだよな。)


魔王が頬を赤らめもじもじしているという、貴重な姿を眺めつつ案内板の内容を思い出す。

今俺達が歩いている中央通りは東西南北へ分かれる大きな交差点が存在し、その交差点を北に向かうと商人達ご用達の北区、西に行くと冒険者達ご用達の西区、東に行けば宿が多く立ち並ぶ東区、そして南へ行けば町への出入口がある南区に行けるようだ。

俺たちは大きな交差点をまっすく進み北区に入った。

交差点を過ぎてしばらくすると行き交う人達は商人ばかりとなってきて、道の両端からも威勢の良い取引の声が聞こえるようになってきた。

一口に商人といっても各地を旅して町から町へ渡り商売をする行商人と、商会に属して様々なものを仕入れて販売する商人の2パターンあるらしい。

行商人は旅をする都合上、当然魔獣などと出くわしやすく、危険も大きい。

が、その分自由に動けるので貴重なものや珍しい物を仕入やすく利益率が高いとの事だ。

それに対して商会に属する商人は町の中で商売をするので安全面が高いが、利益率はそこそこと行った感じらしい。

俺たちが町の入口で出会ったデュークはサザール商会に属するので後者のパターンだ。

サザール商会は世界でも3本指に入る商会との事で、東の大陸の商店はほぼサザール商会が占めていると行言っても過言では無いらしい。

・・・まあ、これら全てイナの受け売りだが。


「んで、今から向かう買取所もサザール商会に属するって事か?」

「そうじゃ。 基本的にこの町での飲食や、売買するものは全てサザール商会が取り仕切っていると言っても良いの。」


なんだそれは・・・独占禁止法とか無いのか?


「じゃが、サザール商会の創設者が一般人の出での。 3大商会の中で一番庶民寄りな商会なんじゃ。 じゃから相場も安定しておるし、ぼったくりなんかも無いんじゃ。」

「まあ、素晴らしいお方ですのね。」

「うむ。 しかもその者は商会の他にも支援組合を立ち上げているようでの。 日々の暮らしが難しい人たちに炊き出しやら仕事の斡旋やらをやっておるらしいの。 まったく、仏のような男じゃ。」


(神であるお前がいうのか?)


「なんじゃ、神が仏を語ったらいかんのか?」

「いえ、別に。」

「まあ、それは置いておくとして。 あやつが商会をここまで大きく出来たのもその人徳があるのかもしれんのう。」


そんな話をしている内に買取所の前に到着した。

買取所の中には窓口が3つ程あり、2には先客が座っていた。

俺たちは空いている残りの窓口まで行くと受付の男に話しかけた。


「魔獣の素材の買取をお願いしたいんだが。」


俺がそう言った瞬間、買取所内が静まりかえり、周りの人間が一斉にこちらを向いた。

いきなりの事に辺りを見回すとさっきまで買取の交渉をしていた隣の窓口の人達までこっちを見て固まっている。

・・・なんだ、この空気は。

そんな中、最初に沈黙を破ったのは俺たちの窓口の男だった。


「お客さん、すまない・・・今、”魔獣”って言われた気がしたんだが?」


男は驚きを隠せない表情で俺に問いかける。

ここでは魔獣の買取はやっていないのだろうか?

俺はそんな事を思いつつも男の質問に肯定で返した。


「ああ、魔獣の素材だ。 ・・・ここでは買取は出来ないのか?」


俺がそういった途端、男が口を大きく開け固まった。


「あの・・・・・・」

「・・・・・・」

「え~っと・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」

「え?」

「えええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇえぇえええええ!!!!???」


沈黙の後、買取所内には驚きの声が響き渡った。


「!!!??」


勿論、そんな状況に俺も驚き軽くパニックになった。


「あ、あんちゃん! アンタ、本当に魔獣の素材を持ってきたのか!? 嘘じゃなくて!?」


窓口の男は信じられないとでも言いたそうな表情で質問してくる。


「え? あ、ああ・・そうだ。 イノシシみたいな魔獣の素材だ。」

「ええええええええええええええええええええええええええ!!!!??」


再び驚きの声が上がる。

ああ・・・耳が痛い。


「あ、あんた! あのベアファングを討伐したってのかい!? どうやって!?」

どうやってって・・・

「えと・・・殴ったり、石を投げて?」

「はぁぁああああああああああああああああああああああああああ!??」


今度は窓口の男だけでなく買取所内の人間達全員から声が上がった。

人々は口々にあり得ないとか、そんなバカなとか呟いている。

・・・そんなに驚く事なのだろうか。


「ちょ、ちょっとその素材を見せてくれないか!」


窓口の男にそう言われて俺は次元ポケットから牙と皮を取り出そうと手を突っ込んだ。

俺からすれば普通と思っていたこの光景も周りの人たちからすれば異様な光景のようだった。


「な、なんだアレ!?」

「魔法か!?」

「あんなの見た事無いぞ!!」

「腕、消えてるぞ・・・どうなってるんだ。」


ああ・・・もう、何をしても驚かれる気がしてきた。

そんな諦めの境地で異次元倉庫から素材の一部を出して窓口のテーブルに置いた。


「え?・・・あ、ああ・・・・・・間違いない。 これはベアファングの牙と皮だ。」


男は素材を確認しそう呟くと呆然としてしまった。

そしてその様子に堪えきれなくなったのか周りの人間達が一斉に近寄ってきて口々に質問攻めしてくる。


「どうやって倒したんだ!? 何か弱点とかあるのか!?」

「どんな武器を使って仕留めたんだ!?」

「何人パーティーで倒したんだ!?」


等など。

その他にも色々質問はあったが一斉に聞かれても聞き取れなかった。

とりあえず、この状況を何とかすべく俺は経緯を説明する事にした。


魔獣は一人で倒した事。

武器は使っておらず、素手で倒した事。

逃げ出した一匹は石を投げて仕留めた事。

クローシェの方が多く仕留めている事。

俺が淡々と説明している間、質問してきた人たちは声にならない声を上げていた。


「さっきの魔法といい、あんたら・・・化け物か?」


話を聞いていた窓口の男が呟いた。


「そんなに驚く事なのか?」


俺は純粋に気になっている事を聞いてみた。


「驚くも何も、到底信じられない話だ。」


窓口の男の発言に周りの人たちも頷く。


「そもそも魔獣一匹倒すには王国の一個師団規模の戦力が必要なんだよ。 さらにあんちゃんが持ってきた素材のベアファングとなれば更に話は違ってくる。 この魔獣は兎に角外皮が硬すぎてそこら辺の武器じゃ歯が立たないんだ。 それこそ王宮直属の剣士が持つ武器か、中級以上の集団魔法攻撃でやっとって感じだ。」


・・・。


「だからあんちゃんが一人で、ましてや素手で倒したとくりゃ驚きもするさ。 しかもそちらの可愛いお嬢ちゃんが一人で何体も仕留めたと聞きゃ・・・信じろってのが無理な話だ。」


(イーーーナーーーーーー!!!)


俺は初めての戦闘相手がそんな危険な生物だった事に驚くと共にイナに怒りを感じた。

しかし、当の本人であるイナは悪びれもせず飄々とした態度をとっている。


「ああ~、そうだったかもしれんの。 まあ、結果的に勝ったのじゃから良かったではないか!」

(良くないわっ!!)


俺がイナの能天気さに頭を痛めていると、今度は異次元倉庫についての質問が来た。


「おいあんた・・・さっきの魔法、ありゃなんだ? あんなの見た事無いぞ。」


先程質問してきた内の1人の男険しい表情で問いかけてくる。

その顔からは俺が何者なのか怪しんでいるといった疑念が見て取れた。


「ああ、この素材を出した魔法の事かな?」


そう言って俺は再び異次元倉庫を開く。


「これは異次元倉庫といって、荷物を出し入れできる便利なスキルなんだよ。 いくらでも入るし、時間の流れれもある程度操作できるから荷物も傷まないし重宝している。」

「・・・・・・」


それを聞いた男のみならず、またもや買取所に沈黙が訪れる。


(ええ~・・・これもなんか凄いものなの?)


そして、そんな俺の予感は見事に的中する。


「俺が子供の頃に祖父から聞いたんだが・・・」


隣の窓口の男が顎に手をやり恐る恐るといった感じで語り始めた。


「昔、まだ神や魔王と同じ世界だった・・・所謂神代の頃に、一人の賢者が編み出した魔法があったそうだ。 それは世界の”はざまに穴を空ける”魔法だった。 その魔法で入れる空間は時間の概念が無く、どこまでも広がる空間で魔王からの侵攻の際に町の人間を隔離して非難させる為に生み出した古代魔法の一つだって。 俺が夜眠れなかった時に賢者様の話を聞かせてくれたから良く覚えているんだが・・・もしや・・・・・・・」


(ええっ!? これって日常で役に立つ便利スキルとかじゃなかったの!?)


「ああ、そうです。 その魔法です。」


ニコニコしながらクローシェが頷いた。


「確か・・・メギル・・・・・・様、でしたっけ? その方が生み出した魔法をアレンジして改良したものです。  それを私は異次元倉庫パラレルポケットって読んでます! 凄いです、お兄さん! 博識ですね!」


(あ、これ名前あったんだ。)


呑気な俺の思考とは対照的に、クローシェちゃんの説明にこの場にいた全員が凍り付く。


「あちゃ~・・・やってしまったのう。 これだから天然娘は怖いんじゃ。」


イナがため息をつく・・・いや、アナタも大概ですけどね?

だがイナの反応も正しい反応で、本当にこのスキルはその賢者が生み出したもので、それをカスタマイズしてクローシェちゃんが使っていたのだろう。

だとすれば俺が軽率だったのが一番の要因だが、人前でおいそれと使って良いものでは無かったという事だ。

魔王なら当然の事で驚く程では無いが、ここにいる人たちは彼女が魔王という事は知らない。

あくまで見た目は普通の少女なのだ。

だが、素手で魔獣を倒し、更には賢者の魔法をアレンジして使いこなす怪しい二人。

このままでは変な噂が立ち、この町に居られなくなってしまう。

・・・それだけは勘弁だ。

俺だけでなくクローシェちゃんだってお腹も空いているし、あと2,3時間もすれば夜になるだろう。

こんな状態で町から追い出されでもしたら間違いなく野垂れ死にしてしまう。

今度は俺たちがあのイノシシの餌になる番だろう。


(なんとかしなければ・・・)


「ははは。 じ、実はこのス・・・魔法はウチは賢者様の家系になりまして、こうして代々賢者様の偉業を絶やさないように受け継がれているのです。 は、はははは・・・」


(苦しい! 自分でも苦し紛れっていうのは分かってはいるが・・・)

ただ、あまりにも情報が少なすぎて言い訳しようにも何も思い浮かばなかった。

第一、この世界にきたばかりで何が普通か普通じゃないかの判断材料が乏しい。

なんといっても旅仲間の二人は規格外だからだ。

まだ、一般人がパーティーに居れば学習もできよう。

だが、この二人は神と魔王・・・そもそも人では無い。

それはさっきの会話で痛い程学んだ。

この二人を基準に考えるときっと俺はとんでもない人に見えてしまう。


「・・・」


沈黙が続く。

誰も何も言わない。

もうダメかと思い下を向いたその時。


「あっはっはっはっは!!! なぁんだ!そういう事かい!!」


窓口の男を含めて周りに居る男たちが大声で笑い出した。


「はっはっは! なんだ、そうならそうと早く言ってくれれば良いのに。 人が悪いねぇ!」

「それならベアファングを一人で倒しちまったってのも納得だ!」

「賢者様の子孫なら人間離れした力を持っていても不思議じゃあないねぇ!」

「びっくりしちまったけど、賢者様の子孫に出会えたってのも有難い。 今度一緒に酒でもどうだい?」


・・・何とか・・・・・・誤魔化せた?


どうやら人は自分の常識から外れた事が起きると突拍子も無い事でも納得できそうな要素があれば、それを事実として認識したくなるらしい。


見ず知らずの男が複数体の魔獣を素手で倒したという事実より、賢者の血筋である男が何か特別な力で魔獣達を討伐した方が現実味があるのだろう。

・・・まあ、実際には賢者の血筋ではなく、神として転生した訳だが。


「あはは、是非お願いします。 すみませんが、まずはこの魔獣の買取をお願いします。」


俺は周りに合わせて適当に相槌をすると、改めて窓口の男に魔獣の買取査定を申し込んだ。


「おお、そうだったそうだった。 この魔獣の素材は武器や防具に転用出来て重宝してるんだ。 高く買い取らせてもらうよ。」


窓口の男はそう言って俺とクローシェちゃんの素材を受け取って奥に引っ込んでいった。


「はあ・・・これで、なんとか今夜の食事にはありつけるかな?」

「そうですね。 私、もうお腹ぺこぺこです。」

「俺もだよ。」

「ワシもじゃ!」

「いや、お前は腹減らないだろう!?」


こうして俺たちはなんとか騒ぎを乗り越え、魔獣の売却という目標を達成したのだった。


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