異世界転生
ある日帰宅した稔に異世界の神と名乗るものが話しかける。
声の主は自らの体が消えかけており、稔へ助けを求める。
果たしてその目的とは?
「・・・い・・・・お・・る・・・・・・」
・・・誰かが何かを言っている気がする。
「・・・・・きる・・・・おき・・・じゃ」
・・・何だって?何を言っている?
「・・・起きる・・・・・加減に・・・・・・じゃ」
起きる?誰が?
「ええい! いい加減に起きるのじゃーー!!」
突如聞こえた大きな声と共に体に大きな衝撃が衝撃が走った。
「うわっ!?」
突然の大声に目を開けると、そこには頬を膨らませたなんともも可愛らしい女の子の顔があった。
「さすがに眠りすぎじゃ、これでは契約が進まないではないか。」
・・・誰だ?
断じて言うが俺にロリの気は無い。
が、そんな俺でも素直に可愛いと思えるような女の子だった。
「まだ寝ぼけておるのか? いい加減、契約の儀式を済ませたいのじゃが。」
少女はイライラした様子で俺を急かしてくる。
済ませたいと言われても俺には何の事だかさっぱり分からない。
考えても仕方無いので確認してみることにした。
「まず、契約ってなんの話かな? それにここは・・・」
と言い回りの様子に目を疑った。
・・・俺はさっきまで部屋の中に居たはずだ。
なのにあたりは真っ暗で何も見えない。
「・・・ここはどこだ?」
「ここは儂の作った仮の世界じゃ。 今の儂にはこれが限界での。」
「うん?」
仮の世界というのは分からないが・・・俺は誘拐されたのか?
俺を誘拐してどうする?しかもこんな少女に誘拐されたのか?
実家だってそこまで裕福じゃない。
父親は普通のサラリーマンだし、母親は専業主婦だ。
妹もいるがまだ大学生で、まだまだ金がかかる時期だ。
だから俺は自分の給料から親に幾ばくか仕送りをしている。
まあ、ウチの会社は激務の割には薄給なので妹のバスの定期代程度しか出せないが。
まあ、こんな感じで俺には金が無い。
そんな俺を誘拐して大金なんか取れるはずもない。
誘拐犯ってそこら辺調べないのかと、俺が一人で悩んでいるとしびれを切らした彼女が騒ぎ始めた。
「ええい!今度はだんまりか! いい加減にするのじゃ! 儂の話を聞くのじゃーーっ!!」
口調は大人(むしろお年寄り)だが、騒ぐ姿は年相応の子供だ。
そんな子供が俺を誘拐するのか?
そう思った俺は単刀直入に質問をした。
「・・・何が目的なんだ、どうして俺なんだ。」
「なんじゃ、もう忘れてしまったのか?」
俺が質問をすると幼女は呆れた顔で答えた。
「お主はこれから儂と契約をして神となり、儂の元居た世界を導いてほしいのじゃ。」
「・・・は?」
どこからそんな突拍子も無い話が出てくるんだと、俺は呆気に取られた。
そんな俺を畳みこむように彼女は説明を始めた。
「儂は別の世界で儂の声が届く者を探しておってな。 そうしてお主を見つけ、話しかけたのじゃ。 お主は儂の声が聞こえたようなので、世界を導いて欲しいと相談したらお主は引き受けてくれるて言うでな。早速契約をしようと思っておったところなのじゃ。」
この娘は何を言っているんだと思った。
世界?声?導く?契約?
いきなりそんな話を聞かされてはいそうですか、なんて納得できる話ではない。
眠ったらいきなり訳も分からないところに連れてこられた挙句、少女と契約して神になる?
そんなファンタジーな話はテレビや小説の中のだけで十分だ。
「・・・夢か。」
どうしてもっと早くに気づかなかったのだろう、こんな荒唐無稽な話がある訳ない。
だとしたらこれは夢だ。
まだ俺は夢の中なのだ、そうならば納得できる。
「夢ではない、これは現実じゃ!」
目の前の少女は俺の夢発言を否定するように怒っている。
その目は少し涙ぐんでいるように見えた。
「いや、これは夢でしょ。」
こんな夢を見るという事は、それだけ現実逃避をしたかったんだろうと思った。
やはりストレスを溜めると怖いなと俺は感じた。
だが、俺は夢だと分かり、少し安心したので少女の話に適当に合せる事にした。
するとそんな俺の様子を見た少女は更に頬を膨らませた。
「その表情、現実だと信じておらんな! ならこれが現実じゃとお主に分からせてやるわい!」
少女はそう言うと目を閉じ両手を広げた。
途端、元々真っ暗だった足元に穴が現れて俺は落下した。
「え!?・・・うわああああああああああああ!!!」
落ちていく恐怖と闇に飲まれていく恐怖が俺に襲い掛かる。
本当に落ちてる!間違いなく俺はそう確信した。
夢の中なのにリアル過ぎる感覚にただただ怯える。
「まだ分からんようじゃな。」
どこからか少女の声が聞こえてくる
「次はこれじゃ。」
その声が聞こえた途端、落下していた俺の体が急に止まった。
すると真っ暗に少しづつ何かが浮かび上がってきた。
・・・街だ、しかも俺の知らない街だ。
しかし、建っているのはファンタジーものにある西洋風の作りだった。
「ほれ、右の方を見てみるのじゃ。」
少女の声が聞こえ、右を見てみると人がいた。
女の人だ、走っている。何かから逃げるように。
次の瞬間、その女の人が空から来た何者かに攫われた。
その何者かは凄い勢いで空から落ちてくると女の人を足のようなもので掴み、また空へと上がっていった。
それは所謂ドラゴンのようにも見えるし、とても大きなコウモリのようにも見えた。
少なくとも俺の居た世界では見た事もない生物だ。
その生物は女子供はどこかへ連れ去り、男たちはその場でその生物に潰されて息絶えていった。
なんて悲惨な光景だろう。
あまりにも酷い。
「なんなんだ、これは・・・」
あまりの惨状に俺はそう漏らすしか無かった。
「これが、儂の世界の現実じゃ。 儂の力が衰えたばかりにこのような事が起きてしまっているのじゃ。」
「・・・」
何も言えない。
俺の周りではあり得ない事を見せられて、体の中から不快感がこみあげる。
俺は我慢できずその不快感を吐き出した。
「すまんの・・・。 じゃが、儂の世界の現実を知っておいてもらいたいのじゃ。」
少女は申し訳なさそうに俯き、絞り出すように話した。
「最初からこうでは無かったのじゃ。 最初は小さな違和感を感じた程度じゃったのじゃが、次第にその違和感が大きくなり、巨大な渦となって、気が付いた時には・・・もう・・・・・。」
ふと少女を見ると言葉を続けるのが辛そうに肩を震わせている。
「・・・あとはお主が今見た通りじゃ。 魔が暴れ人間を襲い、また人間同士もまた争う。 そんな恐ろしい世界になってしまったのじゃ。」
少女がそう呟くと見ていた光景が闇に消え、代わりに少女が顔を上げた。
その顔は笑っているが、目にからは光るものが流れている。
「儂自身、力が衰えてしまい・・・どうにも出来なくなってしまったのじゃ。」
こんな小さい女の子が世界を背負っているのだと思うと悲しみとも怒りとも言えない、言葉にできない感情が込み上げてきた。
なんとかしてやりたい、素直にそう思った。
「・・・なんとかなるのか?」
「うむ・・・お主が協力してくれるのであれば、なんとかできるやもしれぬ。 じゃが、お主にもお主の生活がある。 ここまでしてなんじゃが無理強いはしなくない。 お主が断るならまた別の者を探すので大丈夫じゃ。」
先程の勢いはどこへやら、彼女は俯いたまま答えた。
今までの流れからそうそう頼める人物は見つからないのだろう。
それでもこの少女は救いを求めていつまでも探すつもりなのだ。
そんな少女に覚悟を決めた。
「・・・はあ。 分かった、協力するよ。」
俺がそう答えると少女はそのか細い首が折れるかのような勢いで顔をあげ、叫んだ。
「本当か!?」
嬉しいような安心したような、悲しいような、何とも言えない顔があった。
「ただし!」
俺はそんな彼女に1つだけ条件を出した。
俺だってスーパーマンだったり天才ではない、唯の凡人だ。
「・・・な、なんじゃ。」
そんな俺の言葉に少女はまた泣きそうな顔に戻る。
「ただし、俺一人では自信がない。 だからサポートとしてお前も手伝え。それが条件だ。」
俺の条件に少女はあっけに取られたようだが、ようやく理解ができると首を縦にブンブンふって頷いた。
その顔は先ほどの悲しい笑みでなく、本当にうれしそうな笑顔で溢れていた。
「あい分かった! 儂がしっかりとお主を支えるでな! 期待しておるが良い!!」
こうして俺は良く分からない経緯ながらも異世界の神と契約し、唯の人間から神として異世界へ転生したのだった。