天使と魔将軍
無事にグリーベルへ着いた一行はミランダという女将のいる宿屋へと到着した。
そこで耳にしたのは魔王軍の将軍が南の大陸で天使を攻めているとの噂。
これからの旅についてミノルは考える・・・
ミノル一行は宿屋を目指し西区を目指して進んでいた。
町の中は幾分蒸気や鉄を打つ火の熱で熱く、少し汗ばむくらいだった。
しかしその熱気も大通りを抜け、西区に入ったところから徐々に無くなってきた。
きっと東の鍛冶区に向かうと逆に熱くなっていくのだろう。
熱気と共に鉄を打つ音なども小さくなり、宿の前に立った時にはほぼ聞こえなくなっていた。
「こんにちはー」
ミノルはそう挨拶しながら宿屋の戸を開く。
「はいはいーい! すぐ行くから待っててねー!」
店の奥から女性の声が聞こえてくる。
しばらくすると少し急いだ足音と共に宿屋の女将であろう女性が現れた。
「待たせちゃってゴメンね! おや、見ない顔だね。」
女性はミノル達を見て驚いた表情を浮かべた。
「あ、はい。 旅の者でこの町には初めて来ました。」
ミノルの回答に楽しそうな笑顔を浮かべた女性はうんうんと頷く。
「そうかいそうかい! ウチに来る人達の顔は全部覚えているからそうだと思ったよ。 しかし、珍しいね。商人なら商会に泊まっていくから違うだろうし・・・この時期は祭りも無いから旅人が来ることなんて滅多に無いんだよね。」
祭り・・・何か有名な祭りでもあるのだろうか。
「ああ、私たちはルーリの町から来てこれから南の大陸を目指そうかと思っているのです。そこで・・・」
「おやまあ! 南の大陸かい! そりゃあ大変だ。 じゃあ長旅になるからしっかりと準備しなくちゃね!」
「え、ええ・・・なので、少しここで買い物でもして準備をととの・・・」
「そうだねぇ・・・ここはなんでも揃うから明日にでも東の加治区にでも行ってみると良いさね! きっと欲しいものも見つかると思うよ! あ、そうそう! アタシはミランダ! アタシの名前を出せば皆良くしてくれると思うから困った時は使いな! なあに、遠慮は要らんさね、あっはっはっは!」
「・・・はい、ありがとうございます。」
凄く人の良さそうな女性だが、少々勢いが強いのか終始こんな感じで会話は女性が主導権を握る形となった。
だが、ミランダさんの話はどれも役に立つものばかりで、特に南の大陸にまつわる話は貴重な情報だった。
「ウワサ程度でしか知らないけど、南の大陸には魔王軍がいるらしいよ。 なんでも魔王軍の将軍が来ているらしく、神の力を狙っているとか何とか。 でも、そんな将軍でも歯が立たない天使様がその力を守っているから未だに魔王軍はその力を手に入れていないらしいよ。」
その話を聞いたイナは少し嬉しそうな笑いを浮かべた。
しかし、イナはそれと同時に心配でもあった。
神の力が失われてから久しく、天使達の力も少しずつ衰えている筈。
そんな中で魔王軍の将軍が攻めてきているのだ。
今は問題が無くてもその内・・・。
そう考えると少しでも早く辿り着きたい気持ちだったが、今のミノル達では流石に魔王軍の将軍相手では分が悪いだろうことも分かっていた。
ましてやこちらにはクローシェがいるのだ、無理はできない。
「ふむ。 まああやつならまだしばらく大丈夫であろう。」
イナはそう結論づけると一人頷くのだった。
「あら、もうこんな時間かい! 引き止めちゃって悪かったね。」
ミランダはそう言うと大きく笑い、宿泊代について説明してくれた。
どうやら1人銅貨2枚、部屋代が1部屋3枚で、3人2部屋合計で銅貨12枚のようだ。
因みに前の町ルーリで得たのは金貨60枚。
金貨1枚は銀貨500枚、そして銀貨1枚は銅貨300枚なので、金貨60枚を銅貨に換算すると銅貨900万枚にもなる。
(そりゃあ、買取所のおっちゃんも驚く訳だ。
そしてそれ以外にもその後に倒した魔獣や魔族の素材も回収しているのでそれを売ったら幾らになるのか・・・うん、しばらくはお金に困る事はないだろう。)
ミノルは宿代の銅貨12枚を支払ながら一人思ったのだった。
ミランダはミノルから銅貨12枚を受け取ると、後ろの棚から部屋の鍵を取り渡してきた。
「食事はどうする? ウチで食べるなら用意しておくけど。」
「では、お願いします。 少し疲れているので。」
その言葉にクローシェもこくりと頷く。
「そうかい、分かった。 一人銅貨1枚さね。」
ミノルは追加で銅貨3枚を支払った。
「はい、確かに受け取ったよ! じゃあ、夕食は七時からだからそれまでは観光するなり部屋でゆっくりするなりしていきな。」
「はい、では部屋でゆっくりさせて貰います。」
ミランダは気前の良い笑顔を浮かべると奥へと戻っていった。
ミノル達はそのまま2階へ上がり、それぞれの部屋に分かれた。
部屋分けはもちろん、ミノルが1人、クローシェとトライアで2人である。
「それじゃあ、またの~。」
そんなイナの声に「それでは」とクローシェが返して分かれた。
部屋に入るとミノルは荷物を壁際に置いて椅子に座り一息ついた。
「お疲れ様なのじゃ。 どうじゃ、肩でも揉んでやろうかの?」
「え、揉めるの!?」
「揉めるわけなかろう、たわけめ。 かっかっか!」
そんなイナのからかいにまんまと引っ掛かったミノルだが、大きく息を吐いてイナに問いかける。
「なあ、イナ。 さっきのミランダさんの話なんだけど・・・」
ミノルがそう言うと笑っていたイナも少し神妙な感じになる。
「うむ・・・天使と魔王軍の将軍の事か・・・かの?」
「うん・・・大丈夫なの?」
ミノルが言わんとしていることも分かる。
きっと天使が負けることは無いか、いつまでもつのかといった事だろう。
あやつは大天使である。
神々に直接作られた存在で、将軍クラスと言えど力の差は歴然である。
例えるなら大人と子供である。
いくら強くとも子供は子供、大人には適わない。
しかし、それが長期となるとどうだろうか。
いくら大人と言えども疲れもするし傷も負う。
それに大して子供はいつも元気いっぱい力いっぱい向かってくるのだ。
長期戦となると神の威光の無い今の大天使では消耗していく一方である。
「うむ・・・まあ、あまり良くはないのう。 流石のあやつも神の補助なくして永遠に将軍を相手取る事はできん。」
「そうか・・・じゃあ、なるべく急いだ方が良いのかな。」
「いや、気持ちは嬉しいのじゃが、今のワシらでは辿り着いても全滅が関の山じゃ。急いだところで何も変わらん。」
「・・・そっか。」
「うむ。 じゃからミノルはゆっくり神としての力をつけてからあやつを助けてくれれば良い。何もすぐにあやつが倒されるなんて事は無いからの。焦る必要はないのじゃ。」
イナはそう言うとミノルに礼を言う。
ミノルも自分に出来る事を少しづつやっていこうと思った。
その時ミノル達の部屋にノックがあった。
そしてミノルがドアを開けるとクローシェ達が立っており、ミノルは中に招き入れ夕食までの時間を皆で過ごした。




