冒険の朝とトライアの想い
神と神見習いと魔王と精霊。
いよいよ神(見習い)としてミノルの冒険が始まる。
そしてそんな冒険初日の朝、トライアはこれからについて思いを馳せる。
「んっ・・・」
ミノルは窓から差し込む光で目を覚ます。
外では既に商人達が露店の品を広げており、商いの準備をしていた。
「おお! 起きたか!」
窓の外を眺めていたミノルにイナが大きな声をかける。
「ああ。 おはよう、イナ。 朝から元気だね。」
ミノルは朝から絶好調なイナに苦笑する。
「当たり前ではないか! 朝から元気ないヤツは心配になるわ! かっかっか!」
イナは近所のおじいちゃんのような笑い方でミノルのボヤキに答える。
イナの言う通り、朝から疲れ切っていたら心配してしまう。
・・・が、だからと言って起き抜けにエンジン全開にできるかと言われたら答えはNoだ。
「まあ、昨日は色々あったからのう。 お主も疲れが残っておるかもしれん。 今日は無理せんようにな。」
「ありがとう、気を付けるよ。」
「うむ、素直でよろしい。」
イナと軽く話をしていると隣の部屋のドアがゆっくりと開いた。
どうやらクローシェが起きてきたらしい。
「・・・おはようございます。」
瞼をこすりながら挨拶をするクローシェはまだ少し眠たそうだ。
「おはよう。」
「おはようなのじゃ!」
俺とイナは揃って朝の挨拶を返す。
クローシェが部屋を出るとその後に続き、トライアさんが出てきた。
「おはようございます。 ミノル様、イナ様。」
「おはよう、トライアさん。」
「うむ! おはようなのじゃ!」
ミノルは窓から外に目を向ける。
空は青くどこまでも澄んでおり、その空を自由に鳥が飛び交っている。
道には人々が笑顔で出店の準備をしていて、朝餉の美味しそうな匂いが漂ってくる。
今日は良い冒険日和になりそうだ。
「じゃあ、みんな揃ったことだし支度が出来たら朝ごはんにしようか。」
ミノルの言葉に一同は笑顔で頷いたのだった。
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「忘れ物はない?」
ミノルがクローシェに尋ねる。
ミノル達一行は次の町へ出発する為に旅支度をしていた。
「はい、大丈夫です。 元々そんなに荷物はありませんので。」
「クローシェはお主と違って整理整頓ができるからのう、かっかっか!」
「なんでイナが自慢気なんだよ。」
イナがミノルをからかい慌てて否定するクローシェを見ながらトライアは笑顔を浮かべていた。
そんな様子を見ながらトライアは嬉しそうに目を細めた。
精霊属にも魔界の話は聞こえておりました。
そして魔王クローシェのことも。
本当であれば精霊と神、魔王は争う立場であったはず。
ですが、イナ様とクローシェ様は歩み寄り、長き戦いに終止符を打とうと努力しておりました。
ですが、色々な思惑が重なり、努力は報われませんでした。
イナ様jは身体を失い、クローシェ様は追われる身となった。
だからこそ、今度こそは自分も役に立ちたいと願った。
精霊属として、トライア個人として、今度こそ平和な世界になるよう協力したい。
そう思った。
だから精霊契約を交わした。
今度こそ二人の役に立ち、いざとなったらこの身を捧げようと。
「ふふっ。」
ですが、そんな気負いなど不要だったのかもしれません。
今、目の前にいるクローシェ様は笑顔を浮かべていらっしゃいます。
イナ様も本当に楽しそうに笑っているご様子。
平和を願い、努力し、一度は敗れた願いでしたが、互いに手を取り合い笑顔でまた歩み始める。
そんな二人は誰よりも立派で優しい心の持ち主でしょう。
そして、神としてはまだ未熟ではありますが、自然と人を惹きつける暖かい心の持ち主であるミノル様。
イナ様の境遇を知り、ご自身の世界から離れ、見知らぬ世界の困っている者に手を差し伸べられた。
他人の痛みを知り、そっと救いの手を伸ばす事ができるミノル様は・・・少しお人良しすぎる気もしますが、個人的には好ましいお方です。
私はそんなミノル様も支えてあげたいと思います。
そしてそんな皆さんと一緒にこれからの時間を過ごしてみたい。
この人達と居ればきっと素敵な時間を過ごせる事でしょう。
ただ世界の裏側で眠りにつき、再び顕現するその時を待つよりも、皆さんと旅をして皆さんと過ごす。
その方がとても楽しそうです。
ええ、きっと楽しいに違いありません。
「ん? どうかしたの、トライアさん?」
「いえ、なんでも。」
「いや、なんでもない訳ないであろう! お主、今笑っておったではないか。 何か面白い事でもあったのか?」
「本当ですか? 私寝ぐせとか付いてます?」
思わず零れた笑みに反応したミノルとイナになんでも無いと返すトライア。
そんな様子にクローシェはおかしなところが無いかミノルに確認をしている。
「ふふっ。 本当に何でもありませんよ。 さあ、朝ごはんにしましょう。」
まだブーブー言っているイナとその八つ当たりを食らうミノル、そして鏡の前で入念に身だしなみを整えるクローシェと楽しそうに笑うトライア。
こうして冒険の1日目は始まった。
遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたします。
・・・なかなかミノル達を出発させてあげられない(笑)
年末年始、これから夏ごろまで仕事が一気に増えるので書くペースはさらに遅くなるかもですが、楽しんで書いていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。