旅の始まりの始まり
ベリルガットを倒したミノル達と精霊トライア。
ミノルとトライアは精霊契約を結ぶことに。
神になり、世界を救おうとするミノルの長い旅がここから始まる。
ベリルガットを倒したトライアとミノル達一行は森の入り口まで戻ってきた。
「今回は助けて頂き、ありがとうございました。」
トライアはそう言うとミノル達に頭を下げる。
「いやいや、俺たちは何もしてないです。 全てトライアさんのお力ですから。」
ミノルは慌てて首を横に振る。
そんなミノルにトライアは優しく微笑む。
「いいえ、本当に助けて頂いたのですよ。 あのまま森に被害が及んだり魔獣に森を荒らされれば私は今頃どうなっていたことか。」
トライアはそう言うと悲しそうに顔を俯かせる。
「うむ・・・まあ、確かにそうじゃな。」
そんなトライアの言葉にイナも同意する。
「トライアは森の精霊じゃ。 つまり森とトライアは繋がっているのじゃ。 そして森が弱ればトライアも弱まる。 そこにあのベリルガットとかいう魔族が襲ってきたとしたら・・・。」
そんなイナの言葉に「はい」とトライアも頷く。
「実際、突然現れた魔獣に対応できず森を荒らされ、結果として封印されてしまっていたのですから。」
トライアは申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「ええい、それはもう過ぎた事じゃ。 それに元凶もこうして倒せたのじゃ! お主が気にすることでない。」
「・・・はい、ありがとうございます。」
俯いていたトライアさんはイナの言葉に顔を上げ、少しだけ笑みを浮かべた。
「そんな事よりじゃ! クローシェ、お主さっきのヤツは知っておったか?」
イナはベリルガットがクローシェを知っている事が気になっていたのだろう。
今はこうして人間界をお供も連れず歩いているクローシェだが、実際には魔界の姫君だ。
当然、一介の貴族が顔を合わせる事など出来ないし、民衆の前にフラフラと出ることもない。
何かの催しの時だって、姫が出席する事自体少ない。
そして何より、クローシェを良く知る者は皆、悉く殺されてしまったのだ。
「いいえ、私自身は覚えておりません。 恐らく直接会った事も無いでしょう。」
「ふむ・・・」
クローシェの返答にイナは少し考えるような声で唸った。
「・・・とすると、クローシェの顔を知っている魔族は少なくないかもしれん。 おそらく、貴族以上の連中は知っておるじゃろうな。」
「・・・ですわね。」
クローシェもイナの考えに同意のようだ。
イナはクローシェが直に面識が無い相手でも顔が割れていた事から、魔界中にクローシェの手配書をまわし、懸賞金なりを懸けられているとにらんだ。
いずれにしても魔族に遭った場合には警戒しないといけない。
「まあ、気を付けるようにせんとな。 それはそうとトライアよ、お主、精霊契約はどうするのじゃ?」
「精霊契約?」
ミノルはまた新しい言葉が出てきて首を傾げる。
そんなミノルを見て微かに微笑むと、トライアがゆっくりと説明を始めた。
「精霊契約とは、ミノル様のような召喚者と呼び出された精霊が結ぶ契約です。 基本的に私たち精霊は普段は世界の裏側で眠りについています。 ですが、こうして召喚に応じたり、自分の領域が荒らされて世界から警告が来た場合には自動的に目覚め、こちらの世界へ顕現する事ができます。」
ミノルは頷く。
「ですが、その2つの方法には大きな違いがあります。
「違い?」
ミノルが聞き返すとトライアは「はい」と頷く。
「まず、前者の召喚の方法ですが、こちらは私たちを顕現させるのに多くの魔力が必要です。 そして、呼び出された場所に応じて力を発揮する事もあれば制限されてしまう事もあります。」
ミノルは初めてトライアに会った時を思い出す。
確かに魔法陣をイメージしていた。
あの魔法陣は言わばゲートで、そこを通る為に魔力が必要なのかもしれない。
「そして後者の自己顕現ですが、これに魔力は必要ありませんが、顕現した領域から動く事ができないのです。ですからこうして契約する事で眠りにつく事無く、いつでも自由に顕現できるようになります。もちろん、契約者の魔力を借りる事にはなりますが。」
なるほど。
契約すると召喚者側はいつでも精霊を呼び出す事が出来るようになるし、精霊側も色々な制限に捕らわれず自分の意思によって顕現する事が出来る。
お互いにとって得になるのが、精霊契約なのか。
「私としてはこのまま眠りにつくよりも、ミノル様と契約してご一緒させて頂きたいと思います。 この森の事は後任の子にそろそろ任せようと思っていたところですし。」
「ふむ、ミノルはどうじゃ?」
「俺もそういう事なら是非お願いしたいよ。」
「うむ!では契約する方向で決定じゃな! 早速始めようぞ!」
イナの言葉にトライアも笑顔で頷く。
「ではミノルよ、これから精霊契約を行う。 まずは召喚する時のように耳を澄ませよ。 そしてトライアの魂の音色を聞くのじゃ。」
「・・・魂の音色?」
「そうじゃ。 精霊契約するにあたって、お互いの魂の音色の波長を合わせる必要がある。 まあ、百聞は一見にしかずじゃ! とりあえず集中してみよ。」
ミノルは言われた通り目を閉じて耳を澄ませる。
穏やかな風、そしてその風によって揺れる木々、そしてそれに合わせて歌う虫達の声・・・そして・・・・・・
「聞こえます、ミノル様の音色が。」
トライアが言っているように、ミノルにもトライアの音色が聞こえてきた。
優しく穏やかで包まれるような温かい・・・そして頭の中に現れる魔法陣は美しい緑色をしている。
音の色・・・確かに音色だ。
不思議な感覚だが、聞いているとトライアの魂の形が頭の中に浮かんでくるようだった。
「聞こえます、そして浮かんできます。 トライアさんの温かい魂の色が。」
「ええ、私も聞こえます。 ミノル様の魂の色が。 とても綺麗で、優しい青い色。」
お互いがお互いに魂の音色を掴んでいる事を確認したイナがミノルに告げる。
「よし! ではミノルよ。 これから伝える言葉を一字一句間違えずに言葉にするのじゃ、いくぞ。」
ミノルは小さく頷きイナに続けて言葉にする。
その瞬間、ミノルとトライアの体が光り始めると共に地面に巨大な魔法陣が現れる。
「汝に告げる。 汝、我が契約に応じるのであれば示せ。 我が願いは汝と共に、汝の力は我と共に。 汝の願いは我が願い、汝の寄りべとなって世界との架け橋にならん。 汝が魂は我が魂と共に、ここに契約を結ぶのであれば応えよ。 汝の名を我に示せ。」
ミノルがそう告げると魔法陣が幾重にも重なり、大きな魔法陣となる。
そしてそれと同じものが頭上にも現れ、それらが光、柱のような結界が完成した。
「我が名はトライア。 森を統べ、命を育む緑の精霊。 大精霊シルフィー様の名に誓い、精霊契約を締結することを誓います。」
トライアがそう宣言した途端、大きな魔法陣がひときわ強く光を放つ。
そしてミノルとトライアを繋ぐような光の線が現れて、二人の体も呼応するように光り始める。
そして、その様子にイナが成功したと喜んでいると、やがて光はゆっくりと収まっていった。
「・・・これが精霊契約、か。 トライアさんとの繋がりを感じるよ。」
クローシェが見守る中、ミノルが第一声を放った。
トライアもミノルの言葉に頷く。
「ええ、私もミノル様との繋がりを感じております。 改めて、これから宜しくお願い致します、ミノル様。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。 トライアさん。」
そんな二人の様子にイナは満足げにうんうんと頷き、クローシェは目をキラキラを輝かせて喜んでいる。
「さて、じゃあ町に戻るかの! 明日からはまた新しい旅がはじまるのじゃからな!」
イナのそんな声に皆が「おー!」と返す。
こうして一人の神見習いと神、魔王、精霊の不思議な4人の旅が始まるのだった。
やっとプロローグ的なものを書き終えました。
う~ん・・・そして仕事が忙しく、本当に書けない日々が続いていてつらいです。
時間を見てチョコチョコ書いていくので、宜しくお願い致します。