森の守護者
2つの影を使役してトライアを攻撃するも返り討ちに。
トライアは下級精霊である為、影が2体であれば負ける筈が無いというベリルガット。
そして影が2体でダメなのであれば3体に増やし・・・
森の守護精霊トライアとベリルガットの最終決戦となります。
2つの影がガリルベットの命によりミノル達に襲い掛かろうとしたその時・・・
「そこまでです」
凛とした声と同時に影とミノル達の間にトライアが現れた。
「ト、トライアだと!? なぜ、森の守護精霊がここに!?」
ガリルベットは突然の訪問者に驚いている。
当然、森に良くない事が起きると守護精霊であるトライアも目を覚ますハズだったが、それを見越してガリルベットは封印の魔法陣を敷いていたのだった。
「貴様、なぜ顕現できる!? 自発的には目を覚ませない筈だ!!」
「なぜも何も、こちらにいらっしゃるミノル様に召喚されたのです。」
「召喚・・・だと!?」
ベリルガットが再び驚く。
しかし、ベリルガットが驚くのも無理はない。
そもそも召喚できる人間などここ数百年現れる事が無く、さらに封印している精霊の気配を感じ取って召喚するなど前代未聞の話なのだ。
「・・・ふ、ふふふ、ははははは!! まあ、良い。 どちらにしろここで片づけてしまえば関係の無い事。」
ベリルガットはそう言うと改めて影達に命じた。
「行け、影共! まずはトライアから始末しろ!!」
守護精霊と言っても下級精霊。
ベリルガットの呼び出した影は1体では下級精霊には敵わないが2体であれば対応可能だ。
もし、影が足りなければまた呼び出せばいい。
ベリルガットは最大同時に5体まで影のコントロールが可能なのだ。
戦況的に有利なのは変わらない。
「くははは! 下級精霊如きが調子に乗るな!!」
ベリルガットに指示された影がトライアに迫る。
そしてその影がトライアの喉を切り裂き、四肢をバラバラにする・・・筈が・・・・・・
「無駄です。」
逆に切り裂かれたのは影の方だった。
トライアを守るように巻き起こった風によって、影はバラバラに切り裂かれ霧散していった。
「・・・は?」
その光景を見て、一番驚いたのがベリルガットだろう。
彼は下級精霊であるトライアに使役する影が同時に2体倒されるなんて想像も出来なかったのだ。
「なんだ・・・なんなんだ、貴様! その力は!!」
一度に2体の影を倒されたベリルガットは今度は同時に3体の影を呼び出す。
そしてトライアを3方向から同時に襲わせるが・・・
「無駄だと言っているでしょう。」
またもやトライアの巻き起こした風によって3体同時に倒されてしまった。
「馬鹿な・・・馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なっ!」
ベリルガットは怒りと焦り、そして恐怖を感じて慌てふためく。
「貴様のような下級精霊如きになんでそんな力があるんだ!!」
自分の理解を超えたベリルはトライアに向かって叫ぶ。
その目は血走り全身から汗が噴き出していた。
「それは私を召喚したのがこの方だからです。」
そういってトライアは涼しい顔でミノルへ視線を向ける。
「・・・え?俺??」
一方のミノルは突然の事に驚いている。
そんな様子のミノルにトライアは思わずクスッと笑ってしまう。
「はい。 私たち精霊はその召喚された場所や召喚者との縁によって力を発揮する事が出来ますが、その他にもう一つ重要な要因があるのです。」
「・・・もう一つ?」
「はい。 それは召喚者自身の力です。」
そういってトライアはミノルに微笑みかける。
「そうですね・・・私たち精霊を焚火、召喚者を空気とイメージしてみてください。 私たち精霊は”薪”という縁に結びついて炎を灯します。 その薪が良い状態であればより明るく周りを照らせるでしょう。」
ミノルはうんと頷く。
「しかし、薪の状態がいくら良くても空気が少なければ小さく、短い時間しか照らせません。 ですが、もし空気が綺麗で大量にあったとしたら・・・」
「炎はより大きく長く燃える。」
「そういう事です。」
ミノルの回答にトライアは満足気に微笑む。
そのやりとりを聞いていたベリルガットも呆気に取られている。
(馬鹿な! 例え召喚者の力による変動があったところで、俺の影がそう易々と倒される訳が無い。 所詮は人間と下級精霊。 それ以上の力が出せるわけがない!!)
「・・・はっ! どんな手品を使ったかは知らないが、次はどうかな!?」
ベリルガットの生み出す影がより濃く、深くなっていく。
「出でよ、ミッドナイトシャドー! お前の出番が来たぞ! あの糞生意気な女を八つ裂きにしろ!!」
ミッドナイトシャドーと呼ばれたものは武器という武器を持っていないにも関わらず、先ほどの影とは比べるまでも無い程の威圧を纏っている。
おそらく、ベリルガット本人に匹敵するほどの魔力で作られているのだろう。
さすがのトライアも真剣な面持ちになる。
「ふん! 貴様ら相手にこいつまで使う事になるとはな!! ああ、忌々しい。」
そう吐き捨てるように言うとベリルガットは冷酷に単調に、だが背筋が凍るような声で一言、影に指令を出す。
「殺せ」
「---------------------------------っ!!!」
声なき声を挙げた影が左手を振り上げる。
その瞬間地面が割れて黒き炎が噴き出した。
その炎は振り上げた手から一直線にトライアへ向かって迫ってきた。
「くっ!」
トライアが横に飛んで炎を避ける。
炎はトライアが居たところを通り抜け、優に100m後方まで辺りを焼き尽くした。
焼かれた場所にはまだ黒い炎が燃え盛っており、物凄い熱を発している。
「大丈夫か!?」
ミノルがトライアに呼びかける。
「はい、大丈夫です。 しかし、その炎には触れないでください。 おそらく呪いの一種でしょう。 一度その炎に触れたら癒える事は無いと思います。 十分にお気をつけください。」
トライアがそう忠告した通り、黒き炎は呪いの炎だった。
一度触れてしまえば二度と消える事のない呪いの炎。
そしてその呪いに焼かれて死んだ魂を喰らい、さらなる力を得る影。
それがベリルガットの呼び出した影の力。
そして影は休むことなくトライアに攻撃を続け、トライアは炎に触れないように右に左に避け続ける。
「先程までの勢いはどうした! ほら、逃げてばかりでは死んでしまうぞ? ははははは!!!」
ベリルガットは防戦一方のトライアを見て愉しそうに笑っている。
しかし、その状況でもトライアの顔に焦りは無かった。
「・・・」
そしてそんな攻防がしばらく続いたとき、急にトライアが立ち止まった。
そんなトライアの様子に、諦めを感じたと思ったベリルガットは小馬鹿にした様子で話しかける。
「どうした? 諦めたか? そうだな、そうだよなあ! 貴様のような雑魚程度にこのミッドナイトシャドーは倒せないよな?」
そういうとベリルガットはこらえきれない様子で笑い出した。
その様子に小さく溜息をつくトライア。
「そうですね、もう終わりです。」
それを効いたベリルガットは更に笑い、最後の命令を下した。
「さあ! さっさと潰せ! あの糞生意気な女を燃やし尽くせ!!殺してしまえ!!!」
その命令に呼応するようにミッドナイトシャドーが両手に拳をつくり力を溜めるような体制をとる。
そして一足飛びにトライアへ迫ろうと跳ぼうとした瞬間、影は光の牢獄の中に居た。
「んなっ!?」
またもや突然の事に驚くベリルガット。
影は牢獄の中で身動きが出来ない。
溜めた力で牢獄を破壊しようと思ってもビクともしないのだ。
それどころか牢獄は影が暴れれば暴れるほど小さく、狭くなっていく。
「・・・精霊牢」
イナが小さく言葉を発する。
「精霊牢?」
ミノルは初めて耳にする言葉に思わず聞き返してしまう。
「うむ、あれは精霊牢じゃ。 本来ならば上級精霊だけが使うことができるのじゃが、この森はあやつの領域。 そしてお主が召喚した事によって一時的に使えるようになった17位階の上級魔法じゃな。 いかにあの影があばれようとこの精霊牢は破れんじゃろうて。」
イナの言う通り、さっきから影は檻を破壊しようと暴れまわっているがヒビどころか傷一つ付けられていない。
むしろ損傷しているのは影の方で、ところどころにヒビが入り、魔力のような霧が漏れ出していた。
「馬鹿な・・・なぜだ、なぜだ!!! なぜこんなにも強い力を持っているんだ!!」
「・・・もう良いでしょう。 影もろとも消え去りなさい。」
狼狽するベリルガットに対してトライアは目を閉じ、静かにしかし是非を許さない口調で告げる。
「・・・土よ、風よ、星よ、光よ。 我がトライアが命じます。」
トライアが詠唱を始めるとトライアを中心とした空間に光が現れ始めた。
「な、なんだ・・・あの光は!? おい、ミッドナイトシャドー! 早くその檻を壊して俺を守れ!!!」
その光を見て直感的に命の危険を感じ取ったベリルガットは防御体制を取りながら影に必死に命じる。
しかし既に影は檻によって完全に動きを封じられており、身動き一つとれない状態になっていた。
「我が眼前にあるは森が敵、命を育む者の敵。 ならばこの私が罰しましょう。裁きましょう。」
トライアは静かに胸の前で両手を握り祈りを捧げる。
「我が命じるは断罪。 裁きの光。」
トライアがゆっくりと目を開く。
それと同時にベリルガットの中心とした当たり一帯の地面が光り輝き始める。
そして・・・
「神聖なる裁きの森!!」
トライアが叫んだ瞬間、地面から無数の光の木が飛び出してきた。
その木々はベリルガットや影を串刺しにしていき、彼らは成すすべもなく光の森に呑まれていった。
書けるときに書くというのは着実に進められますが、できれば連続して楽しみながら書きたいですね。
もちろん今も楽しいので良いのですが・・・難しいです。。
定期的な更新では無いですが、時間つぶしに読んでいただけると幸いです。