精霊トライアとガリルベット
魔獣達を仕掛けた黒幕を目前にして、精霊を召喚するミノル。
現れたのは森の精霊のトライアだった。
トライアはイナが生み出した精霊で久々の再開を喜ぶ。
そしていよいよ黒幕のところに殴り込みにいくミノル達。
森に入ってから約2分ほど経ち、目的の場所まであと数百メートルというところまで来たミノル達。
スキル「神の力」によって移動速度も強化されたミノルはクローシェを抱えて移動し、あっという間にここまでたどり着いた。
「ふむ、これ以上近づくと気づかれる可能性があるのう。 ここで一先ず精霊を召喚し、一気に向かうとするかのう。」
イナの提案により、ミノル達はここで精霊を召喚する事にした。
「まずはスキルを発動し、召喚陣を頭の中に思い浮かべるのじゃ。」
ミノルは言われた通り、スキル「精霊召喚」を発動した。
すると頭の中に召喚陣らしき紋様が浮かんできた。
「よし、出来たの。 次はそのまま神経を周りに巡らし、精霊の声を聞いてみるのじゃ。」
ミノルはその紋様をイメージしつつ、周りの気配に耳を澄ませる。
風が吹く音、その風により木々がさざめく。
そしてそんな中微かに声が聞こえた気がした。
「頑張って、ミノル様!」
クローシェちゃんが応援してくれている。
そんなクローシェちゃんの為にもミノルは更に集中してみる。
すると・・・
(・・・ここよ。)
声が聞こえた。
綺麗な澄み渡るようで、優しい声。
(ここよ・・・ここに居るわ。 私が居るわ。)
今度はハッキリ聞こえた。
「うむ、声が聞こえたようじゃな。 では、そのまま召喚してみるが良い。」
イナの言葉に強く頷くミノル。
まずは頭の中の魔法陣を現実のものにする。
(・・・イメージだ。)
精霊の姿、形、魂の在り方。
そういったものを感じ取ってイメージする。
ミノルを中心とした地面に召喚陣が現れると、それらは宙に浮きミノルの腰の高さで止まる。
(イメージしろ!)
ミノルが精霊の気配を感じ取り魔法陣に組み込む。
すると魔法陣が一段と強い光を放ち始めた。
そしてその光は段々と色身を帯び、緑色の眩い光へと変わる。
そしてミノルの腰の高さの魔法陣がゆっくりと回転を始める。
「・・・応えよ。 我は求める。」
ミノルの口から自然と言葉が紡がれる。
「我は世界を照らすもの。 汝が力を使いし者。」
魔法陣の回転が早くなっていく。
当たりは緑色の光に溢れ、まるで昼間のような眩しさに包まれる。
「我が呼びかけに応え、今ここに顕現せよ! ・・・精霊召喚!!」
ミノルが叫ぶと同時に、光と風が爆ぜる。
もの凄い風がミノルを中心に吹き荒れる。
目もくらむような強い光と嵐のような暴風に必死で耐えるクローシェ。
そしてそれらは少しずつ収束し、大きな光の球体となっていく。
そしてそれと同時に人の世ならざる大きな力が辺りを満たす。
「・・・これは・・・・・・」
クローシェがそう漏らすと同時に球体がゆっくりと人の形となっていく。
そして光と風が徐々に止んでいき、精霊が姿を表した。
「・・・召喚に応じ、参上致しました。 森の精霊、トライアと申します。」
精霊はそう自己紹介をするとミノル達の前に降り立った。
その姿はとても美しい女性だった。
髪は腰の辺りまで長く、艶やかで若葉のような優しい緑色をしており、花の香りを放っていた。
服は純白のローブの上に、髪にも負けない美しい緑の外套を羽織っている。
そして、その外套は微かな緑色の光を放っており、陽だまりような温もりを感じた。
「おお、トライアか! ミノル、でかした! 今この場において一番の結果じゃ。」
イナはミノルが召喚したトライアなる精霊を召喚したことを喜んでいる。
ミノルは狙ってした事では無いが、結果的に最良の精霊を引き当てたようだ。
「これは主神様、お久しゅうございます。」
トライアはそう言うとイナに(正確にはミノルの中のイナに)跪いて頭を下げた。
「うむ。 久しぶりじゃのう、トライア。 元気にしておったか?」
「はい、主神様に生んでいただいてからというもの、この森と共に楽しく生きて参りました。」
どうやらトライアはイナによって生み出された精霊らしい。
「それは良かった。 お主が元気でおるのはワシにとっても何よりじゃ。 あとな、ワシは今目の前の男、ミノルと共におり・・・なんと、名をもらったのじゃ。」
「まあ! お名前ですか、それは素晴らしい! 主神様、そのお名前をお聞かせ頂けますか?」
「うむ! 新たなワシの名は”イナ”じゃ! これからはイナと呼ぶのじゃ。」
「まあまあまあ! イナ様ですか! それは素敵な名前です。 主神様にピッタリなお名前ですね。」
「そうであろう、そうであろう! はっはっは!」
イナとトライアさんが和やかに話している。
だが、あれほどの騒ぎがあったのだ。 敵に気づかれていない事は無いだろう。
「イナ、トライアさん。 敵が逃げる前に向かいましょう。」
「そうじゃな。 ここでのんびり話していては黒幕に逃げられてしまうの。」
「承知致しました。 イナ様、契約者様。 このトライアの力、しっかりと見てくださいませ。」
「期待している。 あと、俺の名前はミノルで良いよ。 よろしく、トライアさん。」
「ミノル様ですね。 承知致しました。」
「じゃあ・・・行くぞ!」
一同が頷くのを確認したミノルはクローシェを再び抱え上げる。
「神の力!!」
スキルを発動し、千里眼で正確な相手の位置を特定する。
ここまで近づくと相手の姿がハッキリ見える。
やはり、先ほどの召喚の音や騒ぎが耳に入り移動しようとしていた。
「逃がすかっ!!」
ミノルは深く腰を落とすと相手の元まで一気に跳躍をした。
「キャッ!?」
突然のことに驚くクローシェ。
ミノルは目にも止まらぬ速さで森を駆け抜けている。
その後ろにはピッタリとトライアさんが着いてきていた。
トライアさんのお陰か、ミノルが走っている所に道が現れ木々が動き、相手の元まで一直線のトンネルが出来ていた。
そのトンネルをミノルは一気に駆け抜ける。
(・・・見えた!!)
数百メートル先に千里眼を使わなくても見える範囲までミノルはやってきた。
どうやら相手は突然の出来事に慌てふためいているようだ。
相手が冷静さを欠いている間にと、ミノルはさらに加速した。
そして瞬く間に距離を詰め、ミノルは立ち止まった。
「・・・お前が今回の事件の張本人だな。」
ミノルがクローシェを地面に立たせながら問いかける。
「だ、誰だキサマは!?」
だが、ミノルの問いに答えず、逆に問い返してきた。
「俺はミノルという。 人間だ。 今回の魔獣襲撃はお前の仕業か?」
ミノルは名前を名乗るともう一度問いかける。
「・・・なんだ、コイツは。 突然大きな力が現れたから警戒していたが人間だと? ・・・お前は誰に対して物を言っている、虫けら風情が。」
相手は落ち着いて来たようで、ミノルが人間だと分かるや否や不気味は笑みを浮かべ始めた。
「私は魔界にて爵位を持つガリルベット・ローバルアミラ・ルバエルコーデ男爵であるぞ。 下賤な下等生物が。 頭が高い、今すぐ地に伏して命乞いをせよ。 さすれば寛大な心にて苦しまずに殺してやる。」
そして撫でまわすようにミノルを見ていると隣に立つ少女の存在に気が付いた。
「ん? ・・・お前は、まさか・・・・・・」
ガリルベットはその少女の存在に気づくや否や嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お前・・・いや、アナタ様はクローシェ姫ではありませんか? よくぞご無事で、私含め、魔界の物はアナタ様のご無事をずっと願っておりました。」
そう言うとガリルベットはクローシェに近づく。
「申し訳ありませんが、それ以上近づかないでください。」
歩み寄ってくるガリルベットに、クローシェが冷たく言い放つ。
口調は穏やかだが、有無を言わさない絶対命令にも似た何かを感じる。
その一線を超えたら破滅が待っているような、背いたらいけない何かを感じた。
それはガリルベットも同じようでその場で体が固まっている。
「な、何かお気に障る事でもありましたでしょうか。 でしたら深くお詫び致します。 私はただ、アナタ様のご無事な姿を見て感極まってしまいまして。」
ガリルベットはその場に膝をつき、謝罪の意を示した。
しかしクローシェはそんな彼を見ても態度を変えず話しかける。
「いいえ、お気になさらずに。 アナタは私を殺そうとしただけでしょう。 ですから私はそれ以上近づかないでくださいとお願いしただけですから。」
「・・・え?」
クローシェの言葉にミノルは驚く。
クローシェを殺す?同族同士で?
「滅相もありません! そのような恐れ多い事、考えるだけでも万死に値します。」
ガリルベットも焦った様子で弁明する。
しかしクローシェはさらに冷たい声で言い放つ。
「いいえ。 あなたは”あの者”に仕える者でしょう。 ですから私を見た時に一瞬ですが殺意を出してしまった。 私がそれを見逃すとでも?」
ゆっくりと、しかし確かめるようにクローシェが話す。
そして、クローシェが言い終わる頃にはガリルベットの体が小刻みに震えだした。
「・・・・・・ククッ」
「・・・」
ミノルは臨戦態勢を取る。
「カーーーーハッハッハッ!! まったく! 私とした事がとんだミスを!!」
ガリルベットは我慢できないとばかりに大声で笑い出す。
「そうですよ! 私は”あの方”にお仕えする者。 貴様のようなゴミに向ける敬意などある筈もあるまい! 貴様の首をあの方に献上して私はもっと上を目指すのだ!!」
ガリルベット笑いながらクローシェに向けて卑しい笑みを浮かべる。
「醜い出来損ない。 お前など”あの方”に比べるまでもなく失敗作だ。 ゴミはゴミらしく大人しく殺されれば良かったものを。 なぜ惨めにも生きている。 その惨めさを私が解決してやろうと言うのだ。 感謝くらいしたらどうだ?」
ガリルベットは笑いながらそう言うと両手を広げた。
「貴様らゴミくずなど私が手を下すまでも無い。 こやつらで十分でしょう。 来なさい、私の忠実なしもべ達よ。」
ガリルベットが広げた両手から黒い泥のような物が溢れ地面に落ち、水たまりのようなものを作った。
そしてそれぞれの泥溜まりの中から禍々しい気配に覆われた影が1体ずつできてきた。
その影は人のような姿にコウモリのような大きな翼があり、大きな槍を持っていた。
「さあ、楽しい時間の始まりですよ。 惨めにも死に散らかしなさい!」
ガリルベットがそう宣言すると2体の影がミノル達に襲い掛かってきた。
色々書きたい事があって、でもうまく表現できなくて・・・
難しいですが、楽しいです。
これから戦いが始まるのでワクワクしています。
お付き合いいただけると幸いですので、お暇な方は宜しくお願い致します。