迫る危機
ルーリの町へ迫る危機。
それは魔獣の群れだった。
一体ですら討伐には苦労する魔獣が群れで襲ってくる。
その状況に町の長達が、ミノル達が動き始める!
ミノル達がルーリの町を訪れた夜、町には大きな危険が迫っていた。
それは唐突に発生した魔獣の群れの襲撃だった。
30を超える魔獣がルーリの町へ迫ってくる。
その異常事態に気づいたのは町に立つ監視塔の当番達だった。
「おい・・・なんだ、あれ。」
「ん? あれ・・・は・・・・・・・!?」
一緒に物見の番をしていた男は相方から声を掛けられ、すぐに事態を察した。
「おい、 すぐに警鐘を鳴らせ!! 俺は下の本部に報告に行ってくる!」
「わ、分かった!」
男は指示を出すと下へと続く階段へ駆けていった。
残された男は町に危機が迫った時用の鐘を鳴らす。
鐘の音が町中に響き渡る!
そしてそれとほぼ同時刻に監視塔の1階まで駆け下りた男が伝令担当の男に向かって叫ぶ。
「緊急伝令だ! 本部へ繋いでくれ!!」
それを聞いた男が慌てた様子で魔法を発動する。
その男が起動した魔法は念話系統の魔法で、文字通り遠く離れている人間にも念を送り会話が出来る。
「こちら監視塔、第二部隊テス。 本部、応答してくれ。」
すがるような気持ちで本部へ呼びかける。
願いが通じたのか本部はすぐに応答した。
「こちら本部、通信担当アドラだ。 どうした。」
「緊急事態が発生した! 魔獣の群れがここに向かってきている! 至急住民の避難と迎撃の準備を!」
「なんだと!? 分かった、すぐに司令部へ報告する。 監視部隊は命令があるまで状況確認を継続、何かあったら逐一報告をするように!」
「了解しました。 では失礼します。」
本部との通信を終える。
あとは本部に任せて自分は命令が来るまで状況を逐一報告するのが任務だ。
「第二警戒体制に移行する。 全員、気を引き締めて任務に当たってくれ。」
テスはその場にいる全員に号令を掛けると監視塔の上に戻っていった。
一方その頃、知らせを聞いた本部は緊急対策本部が設置されていた。
本部には各団体の長が招集された。
まずはこの町のギルドを仕切る男、ギルド長アラン。
よく鍛えられたその体と精神で荒くれ者である冒険者達を管理している。
次は町長のオルタ。
こちらは見るからに穏やかな老人で、実際優しい心の持ち主である。
彼は町の住人からの信頼も厚く、また実際に政治力も優れており、町が発展してきたのもこのオルタの功績である。
そして商会の長、ベント。
こちらはとても小心者という言葉が似合う小太りの男である。
商人としてのセンスはずば抜けているが、人の上に立つのは苦手としている。
そんな男がこの町の商人の頂点という自分の立場に抵抗がない訳ではなく、毎日胃薬を飲んでいる。
そして、そんなベントの補佐役として隣の椅子にはデュークが座っている。
デュークは色々な町を渡り歩いているがベントの事を気に入っているらしく、ルーリにいる間はベントの手伝いをしているらしい。
そうして一同が机に座りしばらく経った時、本部のドアが開いて、一人の男が入ってきた。
「報告! 先程、監視塔より入電。 魔獣の群れがこの町に向かって来ているとの事。」
「数は?」
「現在、数を確認中との事で詳細は不明ですが、おそらく30を超えるとの事です。」
その報告にその場にいる誰もが言葉を失った。
「どうする・・・そんな数迎撃出来るほどの戦力はこの町には無いぜ。」
最初に口火を切ったのは冒険者ギルド長のアランだった。
「住民の非難が最優先なのでは?」
次に口を開いたのは町長オルタだった。
「非難するにしてもどこへ逃げれば良いのでしょう。 外へ逃げても奴らの足の方が早い、すぐに追いつかれましょうぞ。」
額を汗で滲ませながらオロオロしているのは商会の代表ベントだ。
「そうは言っても、このままじゃどっちにしろ皆死んじまう。 なんとか逃げる方法を考えよう。」
そんなベントを励ますのはデュークの役目だった。
「デュークさん、そうは言っても私には逃げ場があるなんて到底思えないんです!」
ベントは恐怖のあまり泣きそうになっている。
「落ち着きなってベントさん。 きっと何か方法があるはずだ。」
「しかしな、実際冒険者達に応援を要請してもそんな数の魔獣が相手じゃな。」
「う~む・・・」
アランの言葉にオルタは苦悩の表情を浮かべる。
「しかし・・・住民に生命が第一である。 まずは西区のギルド本部へ住民を非難させるのが先決。」
その言葉にアランも頷く。
「ギルドホール地下のシェルターへ住民を非難させろ! 入りきらない住民はギルド本部の集会所を解放して一時的な避難所とする!」
アランはそう部下へ命じると部下は短く返事をし、廊下へと出て行った。
「私たちからも冒険者の皆さんへ支援を致しましょう。 武具の無償提供をさせてください。」
走り去っていく音を聞きながらデュークが宣言する。
「え゛っ・・・」
その言葉にベントは顔を青くする。
「ベントさん、ここは皆で協力する時です。 覚悟を決めましょう。」
「・・・そうだな。 分かった、やるよ。」
ベントは青い顔を俯かせて渋々同意した。
ベントは決して武具の無償提供が嫌な訳ではない。
町の商人たちには協力的なものもいるが、商売気質が強すぎるあまりここで稼ごうとする商人が居るのだ。
彼らは決して武具の無償提供を快く思わないだろう。
しかも概ねそういう者たちはベントと同期の大物商人で町での発言力もそこそこ高い。
その者たちを説得することを思うと胃が痛くなるベントだった。
「では、方針も決まったので速やかに行動してくれ!」
町長のオルタが号令を掛ける。
応、という返答と共に各長達がドアから出ていく。
これからは時間との勝負なのだ。
少しでも多く、少しでも早く町の人々を避難させて被害を最小限にする。
そう決意を固めたオルタもドアから出て行った。
一方その頃、ミノル達は異様な空気を感じ、町に出ていた。
「一体、どうしたって言うんだ?」
「分かりません。 ただ、町の衛兵さん達の様子がおかしいのは分かりますね。」
「ふむ・・・これは・・・・・」
訳が分からないミノル達を他所に、イナだけは何か思案気に唸っていた。
「イナ、何か分かるのか?」
「ふむ・・・恐らく、この町に危機が向かってきておるの。 具体的には魔獣の群れじゃな。」
「えっ!?」
「魔獣ですか!?」
イナの言葉にミノルとクローシェは揃って声を上げる。
「お主も千里眼を使ってみるが良い。 おそらく森の方から魔獣が向かってきておるのを視れる筈じゃ。」
「や、やってみる・・・」
ミノルは壁を超えた外の様子に意識を向けてみる。
するとミノルの目は壁を抜け塀を超え、外の様子をとらえた。
「なっ!?」
そこには一心不乱に向かってくる数十体の魔獣の姿が確認できた。
「おいおいおい! これってヤバイんじゃないか!?」
「うむ、マズイの。」
「どうするのです?」
「どうするも何も、ワシらが何とかするしかあるまい。 非難の準備をしているようじゃが・・・このままでは町の者たちへの被害は大きいじゃろうからな。」
「大きいって・・・どれくらいなんだ?」
「ふむ・・・恐らく、この町におる人間の半分は死ぬじゃろうな」
「半分!?」
ミノルはその言葉に驚きを隠せなかった。
まだミノルはこの町に来たばかりだが、町には多くの人が居るのが分かる。
その人たちの半分が命を落とすなど・・・想像もしたく無かった。
「どうすれば良い?!」
焦るミノルにイナは落ち着けと注意した。
「お主も視たように魔獣の群れは遠くにいるようじゃ。 まだ時間はある。」
「そうですね。 私も直接見る事は出来ませんが、気配を感じ取ればなんとなく位置は分かります。」
「ふむ、流石じゃなクローシェ。 やることはただ一つじゃ。 町の外で魔獣達を迎撃し、殲滅する。 簡単じゃろ?」
イナは事も無さげに提案する。
でも、今はそんなイナの気楽さが有難かった。
「そうだな、町に来る前に俺たちで倒してしまえば良いんだよな! よし、行こう!」
「ふむ!」
「はい!」
そうして俺たちは人々が町の中心へと逃げる中、その流れに逆らって南門へ向かっていった。
仕事が忙しく、中々かけずにいましたが何とか投稿できました。
また時間が開いてしまうかもしれませんが、必ず投稿しますのでお待ちください。