俺の世界
初めまして。
日ごろから小説を書いてみたいとは思っていましたが、時間もとれず文才も無いので諦めていました。
ですが、少しづつで良いから書いてみようと思い始めてみました。
暇な方で人生の時間を無駄に潰しても構わないという方だけご覧ください。
「はあ~、今日も残業か。」
壁に掛かっている時計は午後5時30分を回ったところだ。
「お疲れ様です、まだかかるんですか?」
そう言って声をかけてきたのは同僚の山本だ。
気さくな性格で入社時期もほぼ同じ事もあってよく一緒に飲みに行ったりしている。
「ああ、この間のミーティングで部長にこっぴどく言われてさ。こんな問題、企画段階で分かる筈だろうに。代替案を考えて明日までに提出しろだってさ。」
俺は先日のミーティングで起きた出来事を話してやった。
「俺が企画の構成について問題点を指摘すると”なんで今更そんな事を言うんだ! そういう事はもっと前に指摘くれないと困る! 仕事をしろ!! 責任を持て!!!”と言われたんだけどさ。おれがこの企画に参加したのはつい最近で内容のほとんどは部長と企画部のやつらが決めてるんだよな。」
そう、いつだって俺たち開発の人間はピラミッドの最下層で叩かれるのである。
「はあ・・・相変わらずですね、部長は。」
山本もこの理不尽に関しては経験しているのでその時の状況が想像できるのであろう。
苦笑していた。
「上野さん、今日は私も遅いんで終わったら”一杯”行きません?」
俺を気遣ってか、山本は手をくいっと上げる動作をした。
このまま帰っても誰も居ない家でコンビニ弁当の予定なので断る理由はない。
有難く一緒させて頂くことにしよう。
「そうだな、付き合ってもらえるか。」
「そうこなくっちゃ! じゃあ、僕はいつもの店予約しておきますね! 仕事頑張るぞー!」
飲みに行けるのが嬉しいのは俺だけじゃなく山本も同じようで、はしゃぐように机に戻っていった。
俺はそんな山本に苦笑しつつ、目の前の問題に戻っていった。
それから2時間くらい経過しただろうか。
時刻は午後11時をまわっていた。
「うし、これで終わり。 後は企画部で揉んでくれ、俺は知らん。」
俺はまとめ終わった資料をメールで部長へ報告し、大きく息を吐いた。
そもそも、企画部が立ち上げたものを何で開発部が整理しなければならないのか未だに不満なのだ。
細かい所や、そもそもの集客方法等は企画部と営業部で決めてくれと思い俺はPCを落とした。
「山本~、俺は終わったがそっちはどうだ~?」
山本の方に目を向けるとまだPCの前で悩んでいる様子だった。
「あ~・・・すみません、まだ修正できてないところがありまして。 もう少しかかりそうです。」
山本が手掛けているのはスマホアプリのMMORPGで、ユーザー数は少ないがコアなファンが多く、稼働率が異常に高いのだ。
ユーザーのやりこみも半端なく、新規イベントや新規ダンジョンをリリースしてもすぐにコンプされてしまい、毎回企画と仕様に悩まされているようなのだ。
そして、「工数」という概念の無い企画の方々はプログラムなど”どうにしたいかが決まれば出来たも同然”と考えている。
そんないくつもの不幸が重なり、山本が出来たのだ。
・・・まあ、割とこの業界では普通の事なのだが。
「どうした、どこが問題なんだ?」
そんな困っている山本を何とかしてやりたいと思った俺はPCの前で泣きそうな山本に聞いてみた。
「はい・・・。 実はここのバグなんですけど、アイテムを取得した際に稀にデータが保存されない事があるみたいで。」
「まじか・・・それはヤバイな。」
そうなんです、と頭をうなだれる山本。
どうやら最初のバグ報告ではアイテムがドロップされないという不具合の報告だったそうだ。
それならまだすぐに対応できると思っていた山本だが、調べていく内に違うところが原因と分かったらしい。
「対応方法は見つかりそうなのか?」
問題が問題なだけに山本に確認をしてみる。
すると山本は疲れ切った感じで答えた。
「はい、先ほど手当が完了しました。 正直疲れました。 早川君にはもう少ししっかりしてもらわないといけませんね。」
早川君とは山本の部下にあたる新人で、去年大学卒業して入社してきた男子である。
山本曰く、その早川君の作ったプログラムが問題になっていたらしく、テスト項目も記載していなかったらしい。
もちろん単体テストも手抜きしていたようだ。
また、納期ギリギリでの開発だったようで結合テストが満足にできず、バグが埋もれたままリリースしてしまったとの事だ。
そして厄介な事に今回のような現象が起きるにはいくつもの条件が重なってやっと発生するバグとの事で、不十分なテストでは検知するのは困難だったとの話だ。
・・・聞いた感じだと交通事故に合うよりも確率は低いんじゃないかと思うくらいの条件だ。
「お疲れさま。 まあ、入って一年だからしょうがない所もあるかもしれないが注意ぐらいはしないとな。」
山本の肩に手を置き同情を示すと山本もも弱々しく頷いた。
「ですね。 自分ももう少ししっかりと見るようにします。」
山本はこの他にもいくつも案件を抱えていて手一杯なのだ。
そんな時に会社側から新人教育を任されて可哀そうだとは思うが、リーマンなのだから仕方ない。
「とりあえず、終わったんだ。さっさと片付けて飲みに行こう!」
「はい、そうですね! 行きましょう!」
「あ、そういえば予約していたんだろ? 今更だけど時間は大丈夫なのか?」
時間が心配になった俺は山本に尋ねてみた。
流石に最初の時間から大きく遅れていたので自動キャンセルにでもなってしまっているのではと思ったのだ。
「ああ、大丈夫です。 原因が分かった時に予約時間を変更して遅くしてしておいたので。」
それを聞いて安心俺は戸締りを確認し、片づけを終えた山本と一緒に会社を出た。
「上野さん、今日は俺がおごりますよ!」
「いや、気持ちだけ頂いておくよ。 今日は山本も大変だったんだから二人で楽しく飲もう!」
「ありがとうございます。 そうですね! たくさん飲みましょう!」
そうして俺たちはいつも通う居酒屋で楽しい週末の夜を過ごしたのだった。