第5話 高邁なる虚飾
「ジョバジョバジャーーーーーーーーン!!!!!!!」
「あ、お前!放送器具を壊しやがったな!水濡れ厳禁なんだぞ!fuc..ジョバーーーーーーーー!!!!!!!!」
「あははっ!見ろよ魔沙斗!NGワードを水音でかき消したぞ!」
テレビを見て、愉快そうに神次が笑っている。
はぁ、相変わらずお気楽なやつだ。
プツッ、ジーーーーーーーーーーーー......
「ありゃ、故障か?せっかく面白いところだったのに!」
テレビの画面が唐突にして乱れ始めて、神次が恨めしげにテレビを叩く。
人の家のテレビだぞ。叩くな。
「......ええ〜 番組をお楽しみの皆さん、申し訳ありません。緊急放送でございます。繰り返します、緊急放送でございます」
砂嵐が吹き荒れていたテレビ画面が急に戻ったと思うと、そこに移っていたのは先程までの愉しげな雰囲気のスタジオとは一変して、教会のような厳かな内装の空間だった。
「緊急放送をご覧の皆様。ご機嫌よう。剤皇警察のコンラートでございます。本日はみなさんに、素晴らしいお知らせがございます」
「うげ!」
神次がテレビ画面に一面に映った、コンラートと名乗る紫色のローブを纏った、神父のような格好をした警察官を男を目に入れた途端、不快そうな声をあげて目を細める。
「本日、我々は剤皇街にして、器二体を根絶いたしました。繰り返します。我々は...」
みるみるうちに神次の顔が青ざめていく。
「剤皇街は今、ゆっくりとだが確実にその平和を取り戻しております。混沌を極め、修復不可能と言われていた治安も、やがては回復に向かうでしょう。皆さんの生活と生涯に、祝福がありますように!」
神次にとっては恐ろしいことこの上ないだろう。コンラートと名乗るこの男は、器の根絶を目標として掲げているのだ。
そもそも、器の大量発生により全国各地で治安が急激に悪化した。魔界の理で行動する暴虐の器たちに対し、 ただの人間であることの枷から外れられない存在で構成された旧来の警察機構は無力に等しく、治安は瞬く間に回復不可能なレベルにまでに悪化した。
最も、最近では器を警察側も戦力とするために、器の若手を採用したがっているらしいが、いかんせん反発が強いのか頻繁にニュースの議題などに上がり、激しい論戦が交わされている。上がっている。
特に、俺たちが住んでいるアパートである伏魔殿が存在しているこの場所から、徒歩で一時間ほどで到着する剤皇街という場所の治安は最悪レベルだ。
そんな中、半年前にいきなり、有名無実化していた剤皇街の警察署にコンラートと名乗る神父のような格好をした男がやってきた。
それからと言うもの、治安は凄まじいスピードで回復していき、器でないものが一人で外を出歩いていても安全なレベルにまでに回復した。奇跡と言っても過言ではないこの偉業を成し遂げた男。それだけ聞けばいいことづくめなのだが、どうやらコンラートには不穏な噂や讒言の類が付き纏って離れない。
その中には、彼は例え無実であっても器を見つけ次第片っ端からその命を奪っているだとか、実は彼自身が悪魔と契約しているなど、コンラートを巡る疑惑には枚挙にいとまがない。
あの人理を超えた力を持つ器たちをいかにして、”根絶”しているのか俺には全く理解が及ばない。
ただ確実であると断言しても過言ではない事が一つある。
それは、あの男と関わるとロクなことにならないだろうという本能が掻き鳴らす警鐘から導かれた、根拠こそないものの最も信頼に足る事であった。
「それでは皆さん、再び皆さんが笑顔で過ごせる時を願って... 器の根絶に引き続き尽力して参ります...」
放送が終わると、コンラートが席を経ち、何やら不自然な前屈みで画面からフェードアウトしてい...
「待てよ!?」
俺は見逃さなかった。その異常な事態の目撃に呼応するかのように叫ぶ。コンラートの股間が、ローブ越しでもわかるほど、尋常ではなく隆起していたのだ。
不埒な同居人もその異常を目に留めたのだろうか。刹那、性格が真逆だと思っていたオレと神次は出会って初めて、同時に同じことを揃って口にした。
「「あの野郎、勃起してやがった!!!」」