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ハジマリ

『みえてる?』


毎日耳元で鬱陶しい程に囁いてくる声が聞こえる。


『みえてるんでしょ……?』

『ねえ、どうしてむしするの』

『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして』


女のような、男のような、老人のような、幼子のような。

不快で不安定な声たちが幾重にも重なって、反響して、鼓膜から脳髄を侵そうとしてくるのだ。

毎日、毎日。

起きていても、眠っていても。

産まれてからずっと聞こえ続けている声たちのせいで、少年に心からの安息は一度たりとも訪れることはなかった。

まあ、赤子の時から子守唄代わりに育った少年からしてみれば、さして苦痛という程のものでもないのだが。


聞こえないふりをするのは得意だ。


見えない、見ないふりをするこの村の大人たちと同じ。

耳を塞いで知らないふりをすることにも慣れていた。


『どうしてどうしてどうしてどうしてきづいてるくせに、わかってるんでしょウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキウソツキ』


げっげっげっと、気味の悪い笑い声を耳に感じながら、少年は大人たちが持ってきたご飯に口をつける。

冷め始めたそれは味気なく、まるで湿ったこの場所のようだった。


『坊や、坊や。もう食べないのかい? きちんと食べないと大きくなれないよ』


一つだけ鮮明で明瞭な音が、汚い音をかき消した。

いつも少年を哀れむその声は、きっと世界でただ一つ、少年を案じている声だ。

その声が聞こえると、他の声は聞こえなくなる。


少年にとって、その声だけは耳障りではなかった。


まあ、だからといって、少年が声に答えてやることは一度もなかったのだけれど。

哀れまれても、少年にはどうしようもない。

その声がどうしようもできないように、何もできないように。


この部屋に居続けることしか、少年にはできないし、選択肢などそもそも残されていないのだから。


『坊や、坊や。可愛い坊や。可哀想な坊や。ごめんなさいごめんなさい』


(どうしてあんたが謝るの)


声には出さず、高い位置に備え付けられた、鉄格子がはまっているたった一つの窓を見上げた。


薄暗い部屋に、日の光が入ることはない。

そんなこと最初から知っている。

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