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社畜少年の異世界交流記  作者: カズキ
16歳の異世界転移
8/28

 生きている、殺されていない。

 その点で語るなら、なるほどたしかに、ミルさんから見れば俺は運が良いのだろう。

 

 「……あはは」


 なんて答えてみようも無いので、俺は笑って返した。

 運の善し悪しなんて主観の問題でしかない。

 自分のことを不幸だと、そう思えたらきっと幸せだったと思う。

 心の底からそう思えたなら、きっと、俺は幸せだったと思う。

 世界が変わっても、生きてることはいいことらしい。


 (肯定してくれたと思ったんだけどな)


 ある種のリップサービスだったんだろう。

 いや、それともこんな凄惨な死に方をしないだけマシ、程度の意味かもしれない。


 最初の死体を見つけてから数時間。

 トータルで十体近い転移者の成れの果てを見てきた。

 そのことごとくが壊されていた。


 「顔が青いな。無理もないか。

 本来なら君のような子供に見せるべきものではないものだからな」


 ほら、とミルさんは飴玉を渡してくる。

 

 「君、そういえば今朝も食べていなかっただろう。

 少しはカロリー補給しなさい」


 「あ、はい。すみません。

 でも、俺、あんまり食べなくても平気なんです。

 少しの量でたくさん動けるんで、燃費いいんですよ」


 俺は受け取った飴を手で弄びながらそう答える。

 そんな俺にミルさんが呆れながら、


 「……少年、それは」


 なにか言おうするが、その言葉は途中で止まった。

 いきなり突き飛ばされたのだ。

 そして、今まで立っていた場所が歪む。

 ミルさんはいつの間にか、俺の横に立っていた。


 「間一髪だったな。

 さてさて、挨拶もなしとはマナーすら忘れたか?」


 俺は地べたに転がったまま、ミルさんの視線を追う。

 そこには、人間種族の灰色の髪の少年と黒髪の青年が立っていた。

 二人は、ミルさんを見ている。


 「妖精族(フェアリー)か?」


 黒髪が言う。

 聞いたのではなく、呟いたらしい。

 その横で灰色髪が、


 「森の防人(エルフ)だろ」


 「よくわかるな」


 灰色髪が答える。


 「魔力の感じと、あと、昔から高慢ちきじゃん?

 その匂いというか味がする」

 

 「……お前、エルフも食ったことあるのか」


 黒髪が引き気味に言う。

 しかし、灰色髪はそれを意に介さず、俺を見てきた。


 「あ、アイツじゃね?

 欠片と同じ匂いがする。

 気配は、しないな」


 「そうか」


 そんな二人に対して、ミルさんはとても緊張しているようだ。

 この二人が転移者を殺していた犯人、ってことでいいのかな?

 状況的にはそう、だよな。

 逃げた方がいいんだろうけど。

 ミルさんの指示はないし。

 さて、どうしたものかと考えていると、ミルさんが小さく俺へ言ってきた。


 「少年、走れ。振り返るな」


 小さい声で、でも有無を言わせない圧があった。

 言われたなら従うしかないだろう。

 俺は、立ち上がると走り出した。

 整備すらされていない森の中をめちゃくちゃに走る。

 背後から爆発音のようなものが聞こえてくる。

 ミルさんには振り返るな、と言われたが、ついその音と振り返ってしまった。

 その時だ。

 何かが俺に覆いかぶさってきた。

 

 「足があると厄介だよな」


 そんな声が聞こえたかと思った矢先、足に衝撃が走る。

 同時に、木が折れたようなそんな音も耳に届いた。

 見ると、両足がそれぞれあらぬ方向に折れ曲がっていた。

 

 (歩けなくなった)


 痛みはなかった。

 立ち上がることと、歩くことが出来なくなった事実が俺の目の前に映し出されている。


 「声くらい上げろよ」


 そう言って、灰色髪は俺の首へ手を伸ばしてくる。

 ぎりぎりと、首が締め付けられる。

 苦しいけれど、それだけだ。

 抵抗はしない。

 しても無駄だから。


 ()()て、()()()()()()()()()()()


 少しだけ、保護してくれたミルさんには悪いかなとは思ったけど。

 でも、方法が違うだけで結果としては変わらない。

 この人が他の転移者や俺を殺す理由、目的についてもどうでもいい。

 興味がない。


 俺は目を瞑り、その時を待つ。

 しかし、


 「変なやつだな。なんで鳴かない?」


 灰色髪が首から手を離して、怪訝な声で呟いた。


 「…………」


 あ、終わりか。

 そういえば、あの死体の数々は壊されていたっけ?

 あんな殺され方されるのかな。

 痛いのは、嫌いだから。

 どうせならこのまま殺してくれれば良かったのに。

 いや、待てよ?

 あの空間が歪むやつで殺す気だったなら、またあの魔法を使えばいいだろうに。

 なんでこんな物理で痛めつけてくるんだろ。


 「ふむ」


 そんな、灰色髪の声が聞こえた。

 俺は目を開ける。

 すると、


 「これ、苦手なんだけど。

 ま、美味しく食事をするためのひと手間だな」


 なんて言って、灰色髪が俺の頭へ手を伸ばして掴んできた。

 そして、今度は頭をぎりぎりと締め上げてきた。

 同時に、なにか圧迫感を感じた。

 でも、やっぱり痛みはない。

 時間にして数秒にも満たなかった。

 唐突に、灰色髪の表情が驚愕したものに変わったかと思うと、今度は、恍惚とした表情へと変化した。


 「あはははは!!!!

 いた!! いた!!

 運命はあるんじゃないか!!」


 今度は、狂ったように笑い、叫んだ。

 なんなんだろ、この人。

 情緒不安定なのかな?


 「あー、そうかそうか。

 こうすればいいのか」


 なんて言って、灰色髪は包丁をどこからともなく出現させる。

 その顔には凶悪な笑みが浮かんでいる。

 包丁を握りしめ、空いている方の手で俺の左手を押さえつけてくる。


 「……っだ」


 記憶が瞬く。

 恐怖で歯がカチカチ鳴った。

 そして、漏れ出た俺の声はとても情けないもので。


 「やだ、ヤダヤダ!!!!」

 

 俺が逃げようと暴れるのを、灰色髪の笑顔が深まる。


 「はは、やっと鳴いたな」


 なんて言って、包丁を俺の左手首に添えたかと思うと、一気に突き刺した。

 そして腕にかけて、滑らせた。


 「~~~~っ??!!!」


 久々に感じる痛みに声にならない声を上げる。

 血が舞う。

 赤い、紅い、朱い血が舞って飛び散って、俺に降り注ぐ。

 意識が遠のいて、黒く染まる。


 視界が染まる。

 赤く、紅く、朱く染まる。

 そして、()()は目を覚ました。

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― 新着の感想 ―
[一言] (。´・ω・)ん? 今回、ストーカー魔族さん、無双さんみたいに内蔵式になってるの?
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