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社畜少年の異世界交流記  作者: カズキ
そしてハジマル、終わったはずの物語
24/28

 暗闇の中、彼は目覚めた。

 手を伸ばす。

 すぐに、伸ばした手は何かに触れた。

 それは、蓋だった。

 立派な棺桶の蓋。

 それを、内側から開ける。

 月光が彼にやさしく降り注いだ。

 クンクン、と匂いを嗅ぐ。

 懐かしい気配、懐かしい匂いがした気がしたのだ。

 銀色の髪に、赤い瞳をした青年だった。

 彼は、吸血鬼である。

 それも、【神祖】あるい【真祖】と呼ばれる吸血鬼であった。


 吸血鬼の中でも、とくに畏れられる存在。

 神と同等に扱われる存在。

 そんな彼は、しかし、まるで迷子の幼子のような、仔犬のような顔をしてキョロキョロと周囲を見回した。


「……お腹減った」


 懐かしい匂いに刺激されたのか、彼は自身の空腹に気づく。

 でも、それを満たしてくれていた存在は、もういない。

 イナムラマコトはもういない。

 この世界のどこにも、もういない。

 帰ってしまったから。

 役割を終えて、元いた世界に帰ってしまったから。

 だから、先程感じた気配も、匂いもきっと夢だ。

 幻だ。

 それが嫌でも突きつけられる。

 だから、


「…………」


 真祖の吸血鬼、ジル・ブランヴィリエは窓を見た。

 その先にある、月を見た。

 変わらずに、ずっと存在し続けている月を悲しそうに見つめ続けた。


そして、またクンクンと漂ってきた匂いを嗅いだ。


「!!!!」


ジルは目を丸くして、もう一度周囲を見る。

殺風景な空間が広がっている。

夢でも幻でもない、匂いと気配がたしかに感じられた。


「マコト、戻ってきたんだ」


子供のように、彼の声が弾んだ。

彼は立ち上がり、窓に近づく。

窓を開ける。

そして、その背に蝙蝠のような翼を生やすと、空に飛び立ったのだった。

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