「司令、兵器の射出口にボロアパートがあります!」「構わん、やれ!」
それは地下から轟音と共に射出された人類の決戦兵器。
射出口を覆っていたボロアパートは木っ端微塵に砕け散り、代わりに身の丈二〇メートルを超す人型兵器がそこに屹立していた。
「す、凄え、巨大ロボットだ!」
「ロボットではない。パワードスーツ・九七八六號。飽くまで人の運用を前提にした兵器だ」
地球外から襲来した正体不明の敵。
人類はその危機を見越していたかのように、この巨大兵器を完成させていた。
巻き上がる突風のなか興奮のまま叫ぶ俺の隣で、博士は髪も白衣も煽られるに任せぼんやりと眺めている。ボロアパートに一人暮らしする変わり者のお姉さんだと思っていたら、この人型兵器の開発責任者だという。
「あんた凄え人だったんだな! ボロアパートもこのロボットを隠すカムフラージュだったって訳だ」
「……。カムフラージュではないよ」
「ん?」
「普通に住んでたし、今完全にぶっ壊されたもんだから、私は今晩どこで寝ればいいのかと途方に暮れているところだ」
「えーと……」
「ここは兵器の射出口が建設されるから、立ち退けば組織が金を払うと言うんだ。ほかの住民はそれで引き払っていったが、ごねて居座れば立ち退き金額を釣り上げられると思ってね」
「意地汚いぞ、博士」
「ごね過ぎて組織を怒らせたみたいだな。問答無用でご覧のあり様だ。地球の平和を担うような組織に喧嘩を売るもんじゃないよ。最終的には手段を選ばない」
「まあその……ドンマイというか自業自得というか」
博士はいきなり俺の襟首を掴んできた。
「なあどうすればいいと思う!? 私の<ほし☆プリ>コレクション! 全種網羅したフィギュア、番組とライブのビデオBOX、ライブ会場限定グッズは揃えるのにネットオークションで二十万かかったんだぞ! 全部吹っ飛んだ!」
「し、知らねえよ。それより地球の平和だろ」
「地球の平和より私のコレクションだろおっ!? なあ君、九七八六號のパイロットだろ、あれ使って探してくれよ!」
「嫌だよ! つうか、は!? 俺パイロットになるの?」
「どうでもいいだろ、そこは! あああ、早くしないと私のアツシきゅんが!」
「うるせえ、泣くな! 全然どうでもよくねえわ、ちゃんと言えよそういう大事なこと!」
どうも俺はこの人型兵器で地球の平和を担う役回りらしい。
開発責任者がコレでは先行きが死ぬほど不安だが。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
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