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ポッセ(Posse)

 全銀ネット(正しくは全国銀行間オンラインネットワーク・システム)は、金融機関同士が行う決済専用のネットだ。つまり他行への振り込みや手形決済など、複数の金融機関にまたがる取引は、このネットを通じて入出金が行われる。許可を受けた金融機関以外のアクセスはもちろん違法であるが、軍用ネットなみの保安システムにより、不正使用は事実上不可能ということに一応なっている。


 ところで、幽霊電文(ゴースト)に関してここにいる連中は発信者と着信者を取り違えている。ゴーストを出したのは、彼らが「金の受取人」と呼んでいた方だ。ゴーストの備考に暗号化されて入っていたのは、一種の「脅迫状」である。これは不可能なはずの不正使用が実際に行われたことを示している。「受取人」から脅迫状をつきつけられた「発信者」は、あわてて入金電文を発信して「受取人」に金を握らせようとした。ところが、ウィルス災害の発生が結果的にそれを邪魔したので時間的余裕ができた。その間に「発信者」は考えを改めて、無駄な出費を抑えるために「受取人」を消した。後は証拠隠滅のために、受け取ったゴーストと、自分が発信した入金電文が同じものであったかのように細工をしたわけだ。


 ここに集まった連中は技術的な事にしか関心がなく、鼻持ちならない技術官僚(テクノクラート)気取りばかりだが、たまにこういう情報をもたらしてくれる。


 彼らと別れてから、藤田はスコアズのところへ向かう。署には直帰すると連絡した。




 スコアズの家の床はいつも高価な機器、ケーブル、プリントアウト、膨大な本で埋まっている。それらをまたいで部屋に入ると、吉本が来ていた。酒が入っているらしく、機嫌もよくなさそうだ。


 グェンはスコアズに全銀ネットの運用技師からもらったディスケットを渡して解析を頼んだ。例の暗号化された「脅迫状」の内容を解読するためだ。ウィルスに感染していると思われるそのディスクを、本当に病気が伝染るとでもいうようにスコアズは指先でつまんで剣呑な顔をした。仮に感染していたとしてもワクチンがあるわけだし、ディスケット内のファイルの特性も説明しているのだから、それほど神経質になる必要もないと思うのだが、これはスコアズの生理的な問題なのだろう。


「わからないのはだな、どうしてファンのジジイの口車に乗ったかってことだ。」


 さっそく吉本がからんでくる。


「じゃあ金だけもらって黙ってろってのか?」

「ファンのためにやるこたぁないだろ?」

「誰がそんなこと言った?」

「だって何か掴めばファンに報告せざるを得んだろ。なんだかんだ言っても奴はマフィアなんだからな。」

「……死んじまえばマフィアもただの仏だ。」

「ファンを()ろうってのか!?」

「いざとなればな。」

「お前、意外と反社会的な奴だなぁ。お前ら友達じゃないのかよ?」

「友達だけど、それとこれとは別。それから俺はひとつ奴に言ってないことがある。」

「何だ。」

「ハイウェイの殺し、実は犯人知ってるんだ。」

「なんだと!?」

「見たんだ、ハンを殺して帰ってくる途中。」

「なんで黙ってたんだよ?」

「なんとなく。」

「で、どうするんだ?」

「わからん。」

「いったい何考えてるんだ!!」

「わからねえよ。そんなにポンポン言うな。なんとなく、どうしていいかわかんねぇんだ。とにかくもうちょっと全体が見えてきたら、考える。そんな顔すんなよ。たぶん今は動くときじゃないんだって。」


 スコアズがキーパンチの手を休めてこっちを見ていた。グェンがそっちに向きなおり、


「ある人間の動きを電脳空間(マトリクス)の中から監視してほしいんだ。」

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