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秘密基地の賢者ユーグヘイム


 王国空軍の秘密基地は、王都からおよそ百キロメルテほど離れた場所にあった。

 周囲を小高い山々に囲まれたクレーターのようなカルデラ盆地すべてが基地の敷地らしい。空から見下ろすと、白く輝く円形の湖のように見える。

「ここって、湖ですか?」

「昔は湖だった場所で、今は干上がっているよ。白く見えるのは塩の砂漠なんだ。塩の盆地(ソルトホール)と呼ばれている場所さ」

「へぇ……!」

 王都からここまでの所要飛行時間は一時間ちょっと。

 気球が吊り下げたゴンドラ船のような飛空艇は、街で見かけるフワフワした動きとは違って、かなりの速度で飛んでいたことになる。軍用の飛空艇だから速いとカレルレンは言っていた。


 極秘施設と言う割に、乾いた塩だらけの地表にあまり目立った建物はなかった。


「基地は地下に建造されているんですか?」

「ご明答。ユマは鋭いね」

「秘密基地といえば地下、鉄板ですもんね」

 SFアニメの秘密基地は地下。これはお約束。

「はは、まいったな。街にいる女の子はそんな事、夢にも考えたことが無いと思うよ」

「そ、そうですよね」

 カレルレンに褒められて嬉しいような、恥ずかしいことを言ってしまったような、微妙な気持ちになる。


 白い乾いた盆地は直径三キロメルテもあるらしく、ゆっくりと上空を旋回しながら着陸地点を目指す。すると眼下に長方形の、水を抜いたプールのような、地面を掘り下げた穴がいくつも見えてきた。それらはまるで棺桶を埋める穴のように整然と並んでいる。

 長さは一辺が百メルテ、横幅が三十メルテ、深さは十メルテほどもありそう。大きなものだと長辺が二百メルテを超えているみたい。

「中に飛空艇がたくさん並んでます!」

「これらは半地下式の乾式ドックだよ。それぞれが地下のトンネルで繋がっている」

 あちこちの乾式ドックに駐機しているのは、見るからに軍艦といった船たちだった。

 街で見かける飛空艇とは違って、吊り下げ式のゴンドラは無く、気球部分と居住区や機関部分が一体化したデザイン。全体的にラグビーボールを引き伸ばしたようなイメージ。

 正面は金属で装甲されているらしく、半開きの傘のような形状になっている。下部には何か大砲のような、槍のような、武器らしきものが突き出ていた。


「アレクサット王国が誇る、魔導航空団の主力艦隊。こうして見ると壮観だね」

「すごい……!」

 思わず客室(キャビン)の窓に顔をへばりつけて興奮してしまう。昔のSFに出てきそうな、未来の架空兵器を思わせる流線型のシルエット。これはSF好きならば食いつかざるを得ないでしょう。

 中でも目を引いたのは、ひときわ巨大な飛空艦だった。

 全長は百五十メルテ以上ありそうな、ひと目で「巨大空中戦艦」だとわかる形状。それが一隻で特大の乾式ドックをまるごと専有している。


「あっちの船は特に大きいですね!」

「あれは艤装中の新造戦艦、そして魔導航空団の旗艦。艦名は……轟雷天主(サンダー・アーク)号」

「おぉ……っ、す、すごいです!」

 飛空艦と言うよりは、もはや宇宙戦艦を思わせる形状。

 特に船の先端部分は体当たり用か剣先のように尖っていて、銀色に輝いていた。確か「衝角」というやつだ。正面の下にも見慣れない武装らしき装備が沢山ついている。


 ふとカレルレンの方を見ると、あまり浮かない顔をしていた。どこか悲しげで、辛い想い出を回想しているような。


 ――それでも、奴らには通じない……。


 そう呟いた気がした。


「……?」


 やがて、私たちの乗る飛空艇は基地の上空で高度を下げ、乾式ドックの一つに着陸した。

 周囲には、大小様々な普通の飛空艦艇が駐機していて、整備員たちが忙しそうに働いていた。カレルレンと私たちが降り立つと、出迎えの人たちが近づいてきた。

 ひときわ目立つ服装の、リーダー格っぽい背の高い男の人とカレルレンが握手を交わす。

「よぉ! カレルレン、こんなところまで出張ってくるとはご苦労なことだ」

「やぁユーグヘイム。君こそ相変わらず元気そうで何よりだ」

「お前は病み上がりみたいに白くて細っこいな」

「この方が魔法使いぽいだろう」

 カレルレンがユーグヘイムと呼び、がっしりと握手を交わした相手は、見上げるような大男だった。浅黒く日焼けした肌に、銀色の短髪。目元はやや下がっていて、グリーンの瞳が印象的。


「いつも(あるじ)様がおせわになっておりますー」

「サクラちゃんも、相変わらず可愛いな!」

 人懐っこい感じの笑みを浮かべ、サクラちゃんの頭を撫でた。

 見た目は全身筋肉の軍人さんみたいなのに、着ている服はカレルレンの身につけている賢者服によくにていた。


「おっ……? で、こっちはホムンクルス二号ちゃん?」

「えっ!? いっ、いえ、違います」

 ユーグヘイムさんは私をサクラちゃん二号と思ったらしい。


「紹介するよ、この子はユマ。僕のパートナーだよ」


「ぱっ……」

 パートナー。

 つまりその、えーと、お嫁さんという意味ですか?


「ははーん? カレルレンの嫁か? ずいぶんちっこいな」


 ちっこくて悪かったですね、いろいろと。

 私の世界だとそれ、セクハラですからね。


「大事なパートナー。つまり世界を救う仕事の相棒だよ」

 カレルレンは顎を指で支えつつ、良い言い回しを見つけて説明を補足してくれた。

「相棒!」

「なるほど相棒かい」

 嬉しい。いわゆるバディというものですね。


「ユマ、この人はユーグヘイム・ドライオン。王国軍に協力する十二賢者の一人さ」


「十二賢者様……! じゃぁカレルレンと同じ」

「そ、同格の最強術者」

 どう見てもマッチョな体育会系なのに、この人も賢者さんなんだ。

「よろしくな、ユマさん」

「は、はひ、こちらこそよろしくお願い致します」

「確かに、ただの町娘じゃなさそうだ」

 大きくて分厚い手が私の手を包み込んだ。


「じゃぁ早速、執務室の方で茶でも」

 ユーグヘイムさんがパチンと指を鳴らすと、無人の台車のような、馬のない馬車の客車みたいな乗り物が近寄ってきた。基地内は広いからこれで移動するらしい。


「早速で申し訳ないが、例のものをユマに見せたいんだ」

「……マジか? いいのか、あれは最重要国家機密だぞ」

「僕が責任を負うよ。今は少しでも見解が欲しいんだ」

「しかし……女の子には刺激が……ちぃとばかし強いんじゃ?」

「僕は大丈夫だと思うよ」

 カレルレンは私に信頼しているという眼差しを向けてきた。


 何が何だかわからないまま、私は曖昧に笑顔で頷き、地下施設の更に地下、長い斜めの通路を降りくだった階下へと連れて行かれた。


 ◇


 地下4階許可なきものは立ち入りを禁ず。と、書かれたフロアを進むと倉庫のような場所に出た。

 魔法の照明が明るく照らす場所は、無数の箱や機材、何かの実験用具や工作台のようなものが乱雑に散乱していた。秘密の地下工場か研究施設っぽい。

 私はなんとなく不安になり、サクラちゃんにくっついていた。


「大丈夫ですよー、カレル様と一緒ですから。でも、はぐれたらどうなるか……」

「うぅやめてよサクラちゃん」


 と、突然白衣を着た人が向こうから駆け寄ってきた。

 赤い髪を振り乱した、痩せた女の人……?

「おや、おやおやおやッ!? こーんなところに、愛らしいお客さんがぁ……ッ!」

「ひえっ」

「ち、近づくでないですー!」

 がっ、とサクラちゃんが抱きつかれるのをガード。

 ジタバタとする赤毛の女の人は、ヒヒヒヒと不気味に笑ってサクラちゃんの手のひらをスリスリしはじめた。

「ええのぅ、スベスべでええのぅ」

「はーなーすーでーすー!」


「おいおい、客人にハレンチを働くんじゃねぇぜ」

 ユーグヘイムさんが言うと、ようやく渋々とサクラちゃんを解放する。そこでカレルレンにも気がついたようだ。

「おや、レン坊と……見知らぬ子だねぇ?」

 いかにも魔女、という服装のうえに白衣。

 アンバランスな女の人が値踏みするように私をジロリと見る。


「彼女はポリクエルア。十二賢者の一人さ」

「十二賢者……!? さんなんですね、よ、よろしくお願いします」


「ヒヒヒ、ようこそ。ここは……怪奇ビックリショーの会場だよ」

 若い女の人にも見えるけれど、ギョロ目が怖い。不気味なのはポリクエルアさんのせいだと思う。


「彼女の専門は魔法生物学。未知の生物に造詣が深くてな……。まぁ、王政府の依頼でオレんとこの秘密基地で極秘の、星界から来た生命体の研究をしてもらっている」

 ユーグヘイムさんの口から驚くべき言葉が漏れた。


「星界から……って」

 それって、宇宙人ということ!?

 思わずカレルレンの方をみると、静かに頷いた。


「ユマ、一緒に見てもらえるかな」

「お嬢さん、やめるなら今のうちだぜ」


「大丈夫です、私」

 カレルレンにもらった役目を果たします。

 

<つづく>

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― 新着の感想 ―
[良い点] やはり秘密基地は地下が鉄板ですか。 飛空艦が乾式ドックに並んでいる様は壮観かも知れませんが、宇宙人と戦うには力不足でしょう。 さて、次話は古典SFに登場するタコ型の宇宙人の遺体とご対面なの…
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