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ストロベリー・アイス


 ◇


 王都の暮らしにも慣れてきました。

 初日はホームシックになったけれど、醒めない夢の中にいると思えば平気になった。この夢から抜け出した時、私は学校の図書室にいるはずだから。


「あいよ、お嬢ちゃん。ストロベリー・アイスひとつね」

「ありがとう、おじさん」

 カレルレンのお屋敷の近くには、商店街があった。その横には小さな屋台村。主に食べ物を売る屋台が立ち並ぶさまは、お祭りの縁日を思わせる。


 店先で「プェイプェイ」と魔法の呪文を唱えながらカードを値札にかざすと、これで支払い完了。描かれている「硬貨の絵」が減る仕組み。

 お金は「お小遣いだから、自由に使っていいよ」とカレルレンから手渡された。てっきり金貨や銀貨かと思ったけれど、カレルレンから渡されたのは、このカードだった。

 それは元の世界のカードとそっくりの大きさで金属製。表面には魔法のインクで金貨と銀貨、銅貨の絵が描かれている。残額が目で見えるので、無くなったら魔法銀行でチャージするらしい。

 うーん、便利……!

「毎度ありー」

 ストロベリーアイス・シングルで銀貨1枚。銀貨1枚が二百円ぐらいの雰囲気かしら。私は可愛いアイスクリーム屋さんがお気に入り。午後三時のおやつに丁度いい。

 冷たくて美味しいアイスは、カレルレンの解説によると、冷却用の魔法石で冷やしたミルクで作っているらしい。

 近くのベンチに腰掛けて、きれいな異国の街を眺めながら一休み。


 行き交うのは金髪の人や銀髪の人に茶色っぽいヘアーのひと。青髪や赤毛のひともいる。肌の色も様々で王都らしく国際都市という感じがする。

 でもやっぱりわたしみたいな黒髪の人は見かけない。たまに珍しそうにジロジロ見てくる人もいるけれど、もう慣れた。メガネは相手の視線を防ぐ効果もあるので都合がいい。

 ファッションは中世ヨーロッパ風で、縫製や布地が綺麗。洗練されていて現代に近い気がする。ちなみに今の私は「普通の町娘」ファッション。ずっと同じ制服のままというわけにもいかないので、着替え一式はサクラちゃんに準備してもらいました。

 それと街では異世界ファンタジーの「冒険者」みたいな格好をした人は見かけなかった。平和な世界らしく、みんな普通の服装で歩いている。

 剣をぶら下げているのは騎士や衛兵さんぐらいなもの。

 もし剣や鎧で武装しようものなら、通報されて連れて行かれそうな雰囲気。


 通りを歩いている種族は人間がほとんど。たまにものすごく綺麗な人がいると思うとエルフ族だった。道具を担いで忙しそうに動き回る小さなドワーフ族もいる。


 舗装された中央の道には、昔ながらの馬車と、魔法の動力で動く自動車みたいな車が混在して往来している。左右には街路樹が整然と植えてあり歩道と隔てられている。街路樹と歩道と並行して商店が立ち並び、あちこちに噴水のある広場が整備されていた。

 街の空をフワフワ飛んでゆく乗り合い船(タクシー)も最先端の乗用ドローンみたい。大きな店先には半透明の立体映像が商品を紹介してる。

 まるで2030年の世界にいるみたい。少なくとも私がいた日本の田舎町より魔法の世界(こっち)のほうが進んでいる。


 食べ物は美味しいし、平和そのもの。

 豊かで穏やかな人たち。

 空はどこまでも青くて、気温も心地よい。


「たしかにこれじゃ」


 ――宇宙人が攻めてくる……! 

 なんて訴えたところで誰も信じてくれるはずがない。

 魔王軍が世界を混乱させる話でさえリアリティを失う。

 目の前を歩いてゆく騎士が、他国との国境紛争に遠征した友人の話をしていた。それぐらいの脅威がこの国の「リアル」なんだ。


 お屋敷に戻るとカレルレンとサクラちゃんが出かける準備をしていた。

 空飛ぶ馬車……というより気球つきの小舟みたいな乗り物が、庭先に滞空している。街の上空でも見かけた飛空艇だ。

 気球は十五メルテぐらいの楕円形。ワイヤーと金属の支柱で吊り下げられている「船」の部分は十メルテぐらい。貴族用のゴテゴテと飾り立てられたものではなく、頑丈そうな見た目は軍用だとわかる。

 気球の側面には王国の竜と剣をモチーフにした紋章が赤く描かれていた。


「どこをブラブラしてましたかー」

「えへへ、アイスを食べに」

「食客は気楽でいいですねー」

 サクラちゃんが悔しそうに言うと、カレルレンが彼女の頭を撫でた。途端に大人しく、ほにゃっとした顔になる。


「ユマ、ちょうどよかった。今から一緒に出かけよう。見てほしいものがあるんだ」

 大賢者の衣装はシンプルな紺色のブレザーような印象だ。羽織った白いロングコートが格好いい。金の縁取りが袖口や(すそ)に施されている。


「もちろん行きます! でも、どちらに行くんですか?」

「ここから百キロメルテ南方、王都防衛の拠点だよ」

「……秘密基地みたいな?」

「うん、空軍施設の地下に王国空軍の極秘施設があるんだ」


 カレルレンは小声でしーっと唇に人差し指を当てながら片目をつぶる。颯爽と飛空艇に乗り込んで、次にサクラちゃんと私に手を差し伸べて乗り込ませてくれた。


 飛空艇には二人の軍人さんが操縦席に座っていた。船は馬車と同じ客室があり、中は向かい合って座れるようになっていた。


 ゆっくりと飛空艇が音もなく上昇し、ある高度に達すると滑るように南方へ進みはじめた。旋回すると円筒形の賢者の館や敷地、周囲の街並みが見えた。初めて空から王都全体を俯瞰する。

「うわ、すごい……! 高い!」


 現代人なのに実は飛行機に乗ったことが無い私は、窓にへばりついてはしゃいてしまった。

「ユマは、どこか凄い文明世界から来たんじゃないのですかー?」

「私は庶民だからそうそう乗れないの」

 横に座っていたサクラちゃんは呆れ顔。だけど実際、感動しているんだから仕方ないじゃない。


「空域ア・バオアナインを経由して、エリア51へ」

『――了解、賢者様。只今より隠密(ステルス)航行へ移行します』


 パイロットの声が聞こえるや外に霧のような膜が出現して飛空艇を包み込んだ。南へ向かうと見せかけて西へと旋回する。


「雲をまとって視界を遮っているんだ。……王国にもいろいろな思惑が入り乱れていてね。都合が悪いこともあるんだ」

「なるほど……」


 平和な王国で「未知の脅威」と戦おうとするカレルレンを、快く思わない人間もいる。私はそれに思い至る。


「これから目にすることは、ユマにとって衝撃的かも知れない」

「大丈夫です。覚悟はできていますから」


 私だって遊んでばかりいたわけじゃない。

 ここ数日、部屋でエックスナンバーの報告書を読み漁った。

 いろいろな目撃談や報告を繰り返し読んでいるうちに、ある事に気がついた。


 ――宇宙人は一種類じゃなく、複数いるのでは……?


 ということに。


<つづく>




 ※このサブタイトルで「ピン」ときた貴方、

  相当のマニアですねw

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