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地下施設の宇宙人、グレイ


 黒い円盤の残骸はエイリアンの先遣隊。

 でも基地の奥には彼らとは違う、別のタイプの円盤も秘匿されている。


 それを知ったのは前回のループ、私にとっては初めてのループの時だった。あの時は多くのことが起こりすぎて、存在の意味を考えるにまで至らなかった。

 だけど、友達と繰り返したミーティングの中で(にわか)に、存在がクローズアップされていた。


 ――味方でなくとも、敵の敵(・・・)だという可能性は?

 ――あるいは同じ被害者の側かもしれない

 ――もし乗員が生きているのなら、何か情報が得られるかもしれない


 ミリタリー同好会の姫乃さんは、いくつかの可能性を示してくれた。確か「少し前まで乗員は生きていた」と言っていた気がする。なら可能性はゼロじゃない。エイリアンと、何とか話をすることはできないかしら。


「この先が隔離エリアだ。墜落した円盤が格納されているが、一機だけ違うタイプだったんでな。別のチームが研究していたんだが、お手上げでね」


 ユーグヘイムさんが私に言い聞かせながら、格納庫の扉を開け照明をつけた。

「ところでお嬢ちゃん、この情報をどこで?」

 ちょっと視線が鋭くなる。軍事機密を知っているのは流石に不味いって事ぐらい、私にもわかる。

「えーと……魔法です」

「はは、いいよその調子だユマ」

「ったく、師匠が師匠なら弟子も弟子だぜ」

 ユーグヘイムさんは呆れたように頭をかくと、隔離エリアの奥へ案内してくれた。


 鉄骨で支えられた天井と壁の向こう、濃い陰影に沈む空間の先がスポットライトを浴びていた。まるで舞台装置のように異様な物体が浮かび上がる。


「わ、すごい……!」

「改めて見ると異質な船だね」

 カレルレンの言うとおり、格納庫に鎮座していたのは、白っぽい円盤だった。

 第一印象は不思議な最先端の現代アートを見ているかのよう。形状は継ぎ目のない金属製の「どら焼き」のようで、全体的にプラチナに似た光沢があった。


「三ヶ月ほど前に回収した機体だが、黒い円盤とは明らかに違うもんで、解析が後回しになっていたんだ」

「下が壊れてますね」

 近づいてみると船体の一部が壊れていた。攻撃を受けたのか、墜落の衝撃で壊れたのか。表面は「カニカマ」みたいに金属を束ねて造られているのか、白い繊維がほつれ、大きな裂け目ができていた。


「目撃者によると、空の上で黒い円盤に追いかけられていたらしいぜ。黒い円盤が赤い光で攻撃して、こいつは岩山に激突したんだとか」


 機体の横にはもう一つ、四角い入り口が口を開けていた。中から三段のハシゴみたいなタラップが伸びている。けれど入り口は小さくて子供しか入れなさそう。


「乗っていた人は生きているんですよね?」

「そこまで知ってるのか? やれやれ。まぁ、乗員は三人。うち二名は墜落時に死亡、残りの一名は施設の隔離エリアで治療中なんだが……正直危ない状況だ」

「怪我をしているんですか」

「それが」

 その時、真横の扉が開くと、白衣を着た人が出てきた。赤い髪を振り乱した、痩せこけた女の人――ポリクエルアさんだった。


「ヒヒヒ、話は聞かせてもらったよ。なんだか随分事情に詳しいようだけれど、賢者カレルレンの新しい助手かい?」

「あっ、こんにちは」


「やぁポリクエルア。この子はユマ。僕のパートナーでね」

「パートナー」

 嫁と書いてパートナー? いやいや、相棒ということです。前回のループで学習したはずなのに、やっぱりドキリとしてしまう


「サクラも元気そうだねぇ?」

「はい、おかげさまでー」

 静かにカレルレンに寄り添っていたサクラちゃんがお辞儀をする。すかさずポリクエルアさんが抱きしめて頬ずりをする。サクラちゃんは逃げる。同じ光景が繰り広げられた。


「実はサクラは、賢者ポリクエルアの力を借りて造ったんだ」

「えっ!? そうだったんですか」

「対エイリアン用にと考えてね。苦労して手に入れた竜血(ドラゴンブラッド)と、人間の(みなもと)から再構成した子なんだ」

 私も少しだけ使わせてもらったあの魔法だ。生命の材料を再構成する魔法。

「そうだったんですか」

 人造人間(ホムンクルス)であるサクラちゃんは、可愛いのにすごく強い。そんな秘密があったなんて。


「ところで、さっきの話だけどねぇ」

「ひゃっ!?」


 いつのまにかポリクエルアさんが背後に居た。サクラちゃんはカレルレンを挟んで反対側で「うー」と威嚇している。


「天空からのお客人を見舞ってくれないかねぇ? あたしの魔法でも治す方法がなくてね」

「状態が悪いんですか?」

「衰弱してるんだよ」


 彼女が案内してくれた先には小部屋があり、まず前室で消毒薬の霧を浴び、それから白い無菌室みたいな部屋に入った。天井も壁も「特殊な魔法で病毒を除去した」白い布で覆われていた。

 寝台の上に、銀色の小人が横になっていた。ひと目見て、いわゆるグレイタイプだとわかる。大きな目にあるかないかわからないほどに小さな鼻。そして切れ目のような口。


 顔の上に新鮮な空気を送り込むためか、白いパイプのようなものが壁から伸び、シューと音がしていた。微かにオゾンの臭いがする。


「ユマ、慎重に」

 ゆっくりと近づいて覗き込む。体には継ぎ目の無いアルミ製の宇宙服のようなものを身に着けていた。ボタンもチャックも見当たらない。まるで体の表面に蒸着したみたいに密着している。


『――――』

 私が近づくと、閉じていた目がゆっくりと開いた。目玉が大きい。黒目だけの瞳がじっと私を見据えている。


 ――グレイタイプの宇宙人


「こ……こんにちは」


 微かに胸が上下する。呼吸も動きも極めて弱い。


「以前ここに来たときよりも弱っているね。黒い円盤の怪物たちとは違う種族。何か話せれば良いのだけれど……。言葉はもちろん、魔法で思念を送ってもだめだった」

「見たところ怪我はないんだよ。あたしの治癒魔法でも状況が改善しないところをみると……」


「お腹が空いているんじゃ」


 私は不意にそんな気がした。


『――――』


「え?」

 何か、言いたいのだろうか。

 グレイは私を見て、他とは違うと感じたのかもしれない。


「でも、ここに来てから何も口にしないのさ。清潔な水だけは口にするけれどねぇ。スープや流動食のようなものも拒否するんだ」

「食事が口に合わないんだね」


 考えてみると、例えば私が他の星に行って、現地の宇宙人に何か食事を出されたら……食べろと言われても口には出来ない。


 私は少し考えた。

 水は口にする。

 つまり全宇宙共通だから、大丈夫と判断したのだろう。

 得体が知れたものなら口にできる。

 ポリクエルアさんの話では、流動食やスープは食べなかった。それってもしかして、どろどろした「得体の知れないもの」に見えたからかも。

 私だってこの世界に来て、パンやスープは同じものだから口にできた。それに屋台のアイスクリームがとても美味しかった。


 でも宇宙人は何を食べるのだろう。

 単純で栄養があるもの。

 あっ! そうだ。


「あの、ポリクエルアさん! お砂糖とミルク、ありませんか?」

「それならいくらでもあるけど、何をするつもりだい?」


「目の前で、作って見せたらどうでしょう。単純な材料で、栄養のあるものだってわかるように」


「なるほど……いい考えかもしれないね」


 さっそくミルクと砂糖が準備された。ミルクは多分グレイにとって「得体の知れないもの」だけど「脂質と水分」だということはわかるはず。

 砂糖はスクロース、糖分の結晶体。

 水は大丈夫と判断したのなら、これらが安全なものだと理解してくれるはず。もしかすると何か宇宙服に仕掛けがあるのかも知れないし。


 私はグレイから見える位置で、コップに注いだミルクを飲み、砂糖を口に含んで「甘い」と微笑んでみせた。


『――――』


 何か反応を示している。


「で、何を作るんだい? 残念だけど、ホットミルクなら試したよ」

「温かいのが嫌なのかも」

「そうなのかねぇ?」

「なんとなくです。だから、アイスクリームを作ります」


「アイスクリーム!?」


 驚くカレルレンとポリクエリアさん。


 私は容器に移したミルクと砂糖に向けて手かざし、魔法を励起する。


 混ぜて徐々に冷やして、冷たいアイスクリームになるように――。


<つづく>


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