魔法文明の限界、そして
「宇宙人にワラ人形の呪いが効くのかい?」
魔法による反撃に皮肉めいた言葉を投げ掛けたのは、SF同好会の天野さんだった。
「天野さん、それは魔法というより呪詛ですわ」
「失敬。まぁどっちでも良いけどさ、ユマっちの話じゃ、魔法使いが束になってもエイリアンに歯が立たなかったわけじゃないか。どうやって対抗するつもりかと思ってね」
「正直、難しいところですね。ユマさんの話をまとめると、魔法使いのトップ級の賢者たちでも勝てなかったのですから」
「だからこそさ。ユマっちに打開策、状況をひっくり返せるような、何かアイデアなり知恵を授けてやらんと。向こうで苦しむことになるんだよ」
「会長さん……」
天野さんは私の事を心配してくれているんだ。同じ同好会として、摩訶不思議な出来事に巻き込まれた私を信じてくれている。
「おっしゃる通り、今のままでは反撃は期待できないでしょう。エイリアンの送電を邪魔したり、バリアを無効化したりするのが関の山。押し寄せる相手、それも母船を撃退することなど出来そうにありません」
「ギブアップかよ、魔法なんて科学技術の前じゃ藁人形の呪いと同時と認めるんか?」
「会長さん、言いすぎですよ! ごめんね、小鈴さん」
「あっと、ごめんよ小鈴、いいすぎた」
「気にしていませんわ。昔から貴女はそうですから」
二人は幼馴染みか、昔からの知り合いだろうか。強い言葉も気にする風はなくてホッとする。
確かに、手詰まりだ。
反撃を考えるのは私には難しい。
カレルレンたちはすごく頑張っていた。でも、天野さんの言うとおり。エイリアンの科学の前には歯が立たなかった。
「エイリアンと同じ土俵で戦って、敗北したのだと思いますわ」
オカ研の小鈴さんが眼鏡の奥で目を細めた。
「エイリアン
と同じ土俵?」
一瞬、その言葉の意味がわからなかった。
「魔法の力を使って船を空に浮かべ、金属の弾丸を発射する。それって、科学文明が考える『強さ』と同じものではございませんこと? 果たしてそれは魔法と呼べるものかしら」
「科学と同じ事を、魔法でやろうとしていた……?」
賢者ユーグヘイムさんが担当していたのは、魔法による技術開発だった。確かに、あれは魔法による疑似科学と呼べるものだった。
「なるほど、確かにな。テクノロジーが発達すれば、魔法と見分けがつかないと云われている。ならば逆もしかり。発達した魔法も科学技術、つまりテクノロジーと見分けがつかなくなる、という事を言いたいのか」
納得がいったように、天野さんは口角を持ち上げた。
魔法の世界が科学文明と同じ。
私なりに考えを巡らせてみる。
確かにカレルレンの世界には、現代と変わらない豊かさと便利さが存在した。
スマホみたいな魔法の通信が当たり前で、LEDのような魔法の照明器具が煌々と街を明るく照し、魔女がホウキに乗って空を飛ぶ代わりに、ドローンのような飛空挺が空を飛んでいた。
文明が進歩する先に目指すのは、便利で快適な世界。それは何処も同じなのだろう。
「便利さと効率を追求するあまり、魔法がテクノロジー化した。つまり普遍的な技術として発展を遂げつつあった世界をユマは見た。本来は魔法使いが行うべき事象を、便利な魔法の道具で代用させ、一般人でもそれを使う。それはもう、私らが知る科学文明と同じだと思う」
天野さんが頭の後ろで腕を組み、天を仰いだ。
「科学文明に似てしまった世界。もちろん全てがそうだとは言いません。少なくともユマさんが見て、教えてくれた部分についての印象ですけれど」
小鈴さんは肩をすくめた。
「魔法世界の全部を知っているわけじゃないんです。一部なのかもしれませんが、たしかにそんな印象を受けました」
「科学と同じ土俵で戦った場合、宇宙を渡り歩く科学技術を持ったエイリアンに一日の長があるさな」
「ふーん。面白い考え方だね。魔法の世界が科学と同じ土俵で対抗しようとして失敗した。っていう解釈ね」
ずっと聞いていたトキちゃんは、窓辺の壁に背中を預けながら感想をのべた。
「大手ラーメンチェーンが進出してきたものだから、町の和菓子店がラーメンをメニューに加えた、って感じかな」
「モリター、余計ややこしくなる例えはおやめなさい」
小鈴さんのツッコミに森田くんが苦笑する。
上手い! と言いかけた私は口を塞ぐ。
「だから、ひとつのアイデアですが。魔法の土俵で戦うことが出来れば……勝利の目はあります」
「どうすればいいんでしょう!?」
私は身を乗り出した。
「魔法の源は想いの力。人間の祈りや魂の叫びから生じるものだという解釈が、多くの物語で記されています。必要なのは魔法が本来持つ、自由奔放な発想ではないでしょうか? 理屈を超えた力、道理をすっ飛ばして結果を呼び寄せる。時を越えられるならそれも可能では?」
「カレルレンの時間跳躍……!」
「時間を遡れるというのは、科学を超越した魔法かと」
「たしかにそれこそが魔法だ。科学的には無茶苦茶だけど、魔法ならありだわ」
天野さんが可笑しそうに笑う。
「もし、ここで考えた推論と可能性を引っ提げて、再び向こうの世界に行けるのなら。ユマさん自身が、そこで方法を見いだすしかないでしょう」
「賢者さまたちが、どんな能力を持っているかにもよりますけれどね」
「それなら、賢者カレルレンは未来を予知する魔法の使い手さんでした。他には……えぇと、魂と記憶を過去に送れる賢者様がいるのは確実です。彼はそれで何度も過去に戻って、運命を変えようと戦っていましたから」
「タイムスリップみたいなことができるなら、千年ぐらい前に戻って、超文明を築けばエイリアンなんて撃退できるんじゃ?」
「森田くんのアイデアは良いけれど、制限があるみたいです」
「制限?」
「自分が認識できる時間の範囲だけ、という原則が」
「あーくそ。生まれる前は無理ってことか」
「ううん、他には?」
「生物に詳しい賢者様や、魔法の装置を作る賢者様がいました」
カレルレンに他の賢者様のことを聞いていなかったことを後悔する。十二賢者全員の能力を聞いておけば、ここで小鈴さんの知恵を借りられたのに。
「向こう側に戻れたら、まずはそこを確認すべきですわ。これは私の想像ですが、おそらく炎や氷を操る賢者、天候を操る賢者、それと治癒の力を持つ賢者なんてのもいそうですわ」
「わかりました。カレルレンは皆に協力を仰いでいたみたいです。笑顔が素敵で、コミュニケーション能力の高い方でしたから……」
「ユマっちがカレルレンを語るときはいきいきするねぇ」
「恋する乙女だ」
「えぇ!? そんなんじゃないですけど」
笑いが起きたところで、タイムアップ。部活の終了を告げる鐘が鳴った。
空はオレンジ色に染まり、静かな夕暮れを迎えていた。
「ありがとうございます、みなさん!」
私は深々と頭をさげた。私の妄想か幻覚かわからない世界の難題を、考えてくれた皆には感謝しかない。
「世界を救う手助けをしてやりなって」
「うん、ありがとうトキちゃん」
でも、どうしてトキちゃんはこんなに親身になって、付き合ってくれたのかな?
トキちゃんは多くを語らなかったけれど「また明日、図書館で」と明るく手を振ってくれた。
◇
そして――数日後。
私は期せずして、再び異世界へ跳躍することになる。
<つづく>




