推理と攻略の糸口
「ここまでの話から推測した仮説です。エイリアン達の乗り物は、駆動するためのエネルギー源を母船からの送電……送信に頼っているのではないでしょうか?」
ミリタリー同好会の姫乃さんが静かな口調で見解を述べる。
「流石……と、言いたいところだけど。発想に至った根拠を教えてほしいな。電力か魔力か、はたまた別のエネルギーかはさておいて」
今まで黙って耳を傾けていた森田くんが、姫乃さんのコップにペットボトルの紅茶を注ぎつつ論拠を尋ねる。
話つかれたでしょう、という心遣いは流石です。それはさておき、私もここは積極的に援護射撃をしなきゃいけない場面。手を挙げて補足説明を行うことにする。
「あ、私が少しフォローします。三脚蟲はわかりませんが、墜落した円盤からは、蓄電池や発電機みたいな、動力源となりそうなものを積んでいなかった……というのは、墜落した円盤の調査を担当していた賢者、ユーグヘイムさんが言っていました」
「うむ、送電説は確定ですね」
姫乃さんが紅茶を口にする。
「それと、さっき話した三脚蟲が襲来する少し前に、壊れた円盤の一部が動き出したって話ですけど」
「ユマさん、なにか思い出した?」
と、森田くん。
「はい。賢者様たちはそれを見て『円盤は目印ではないか?』ってことを言っていました。星の環境を調べ、本隊に情報を送る。それから次は侵略してくる、みたいなことを」
「となると、やはり円盤が動き出したのは、母船が接近したことで再起動したから……という可能性が高いですね。円盤は偵察機であり、本隊を誘導するための道標。言い換えれば誘導ビーコン、位置を示す発信機のような役割を持っているのだと考えられます」
姫乃さんの解釈がしっくりくる。みんなも頷く。
「フフフ、ようやく見えてきた。これで円盤が墜落する理由も説明がつく」
SF同好会きっての読書量を誇る天野さんが、両手を机に押し当てて椅子から立ち上がった。
「かいちょーさん?」
「ユマっちも、SF好きならそろそろピンと来ても良いころだぞ」
「すみません、修行中の身なので……」
「よかろう。私なりの宇宙的な敵の全容を総括しよう」
立ち上がると長い黒髪を耳にかきあげ、ホワイトボードに向かう。
「まず、エイリアンの目的は、ズバリ資源の収奪だ。惑星の占領は手段に過ぎないと思う。豊富な水資源、安定した惑星の大気と気象、そして食料となる有機物が豊富な星を見つけては占領し喰らう。宇宙を渡り歩く種族。おそらく連中は……イナゴと同じなんだ」
こん、とホワイトボードをペンの尻で叩く。
「イナゴ……」
「アフリカで猛威を振るう、サバクトビバッタの群れの映像、ニュースでやってたね」
トキちゃんがタイムリーなニュースの話題を持ち出す。数千億匹のバッタが、あらゆる作物や植物を食らい尽くして移動していく様子を先日テレビで見た気がする。大地を無数のバッタが覆い尽くしている様子は、ゾッとするほどだった。
「繁殖に適した惑星を渡り歩き、食い尽くす。SFでは数例、こういう種族についての記述ある。生物学的にも進化論的にも、無理の無い発想、考えうる種族だから」
天野さんがホワイトボードに書き込んだ。
「イナゴが科学技術をもってるわけか。こりゃあ始末が悪い」
森田くんが肩をすくめる。困っているのはまさにそこだ。高度に発展した魔法文明を滅ぼすほどに。
「同じエイリアンがもし、21世紀の地球に襲来したら大変ですよ」
姫乃さんがふぅとため息をつく。
「私たちも滅ぼされちゃう?」
「米軍や各国の軍が奮戦するでしょう。簡単には負けはしないと思います。けれど米軍やロシアは躊躇なく核兵器を使うでしょう。人類が何回も全滅してもお釣りがくるほど在庫はありますから」
「怖っ、人間の方がヤバイじゃん」
トキちゃんが呆れる。
恐ろしい武器は困るし、こっちの世界におびき寄せて、というのは対応としては下策だ。
「エイリアンは高度な科学技術を持っている。けれど思考や価値観……いえ、そんなものが有るのかさえわからない。人類種とはあまりにも違うと思う」
「カレルレンも、対話は不可能だったって言っていました。講話や和平なんて最初から考えてもいないみたいだって」
「交渉なんて無意味。理解し合うことは不可能。戦わねば一方的に蹂躙されるだけだ」
姫乃さんがグシャリと空になった紙コップを潰す。
でも……戦わない方法はないだろうか。
私はそんなことを考え始めていた。
どちらにも犠牲を出さない、そんな回避策を。
「話を戻そう。偵察用の円盤や三脚型の侵略メカについてだ。これらは使い捨てのマシンだと思う。銀河内を移動しながら、目星をつけた星系に偵察円盤をばらまく。そして良いデータが届いた惑星へと母船が向かう」
天野さんがホワイトボードに丸を描く。文字というより図解ばかりだけど。
「使い捨て? 乗っていた宇宙人、エイリアンたちは仲間じゃないのかな?」
「ユマ、価値観が違うんだよ」
「そんな……」
「数十億匹だか数百億匹だか知らないけれど、種族全体からみれば取るに足らない損失なんだ。円盤も三脚メカも、連中にしてみれば『最低限』の資源で作れる汎用品にすぎないのだとおもう。だから墜落しようが関係ない。どんどん作って惑星を探しては占領し、しゃぶり尽くす」
「そうか。複雑な動力源や燃料を載せなければ、構造は単純化できる。使い捨て前提なら、メンテナンスや修理の必要もない。単純な機構にして大量に、宇宙空間にばらまく。そういう設計思想なのか」
姫乃さんも納得の様子だった。
「でもさ、エネルギーを母船がそれらに電波みたいに放射するにしても、受信する側も何か仕掛けがいるんじゃない?」
トキちゃんの疑問は、至極当然だった。
「確かに受信アンテナは必要ですね」
姫乃さんも同じ疑問を抱いたようだ。
偵察用の円盤は宇宙空間を飛んで来て、偵察するだけ。だから省エネなのかもしれない。墜落して終わりでも構わない。
けれど三脚型の侵略メカはそうはいかない。彼らにとって邪魔となる存在を破壊するため、熱線をバンバン撃っていた。つまりエネルギーを沢山必要とする。だから受信用のアンテナみたいなものがほしくなるはず。
電波を受信するパラボラアンテナのような。そんなものは、少なくとも三脚蟲本体には見当たらなかった。
他に何かあっただろうか。見落としているもの。天に向けて広げるアンテナ……?
「あっ!?」
私は思わず腰を浮かせた。
「ユマちゃんのスイッチが入った」
「アンテナといえば、黒い筒……三脚蟲を運んできた入れ物ですよ! 空から降ってきて地面に着地して、そのあとこう……双葉を開くみたいに外側を開いたんです。それこそ傘みたいに」
身振り手振りを交えて説明する。
「それだよ! きっとエネルギー受信装置になっているんじゃない?」
「三脚蟲にばかり気を取られて、気が付きませんでした。盲点です、そうか輸送機さえ無駄にしないということなら、確かにありえますね」
「無駄なく資源を活かすっていうエイリアンの思想とも符合するね」
森田くんも思わず手を打つ。
私もようやく色々なことが繋がりはじめた。
天空からの落下物、三脚蟲を運ぶ黒い筒にも目的と意味が隠されていたなんて。
「そこにきっとあるぞ、攻略の糸口が……!」
天野さんがビシっと私を指差した。
<つづく>




