エイリアン侵略対策委員会②
「ジャガリコ食べる?」
「ポッキーあげる」
「飴おたべ」
「オバちゃんか!」
きゃはは、と明るい笑い声が響く。オカルト研究会の部室は、お茶会のような雰囲気になっていた。
会議は三十分ほどたったところで小休止。『エイリアン侵略対策委員会』と書かれたホワイトボードも、気がつくとびっしりと文字で埋め尽くされている。
時計を見ると午後4時を過ぎ、西日が黄色味を帯びはじめていた。相変わらず校庭からはサッカー部員の元気な声と、ボールを蹴る音が響いてくる。
昨日まではこれが私にとってのごく普通の日常で、世界の全てだった。けれど今は景色が少しだけ違って見える。そんな気がするのは何故だろう……。
それでも冷たい紅茶を飲み下し、ほっと一息つく。
「モリター、紅茶おかわり」
「はい、会長」
オカ研の会長、小鈴さんが紙コップを置く。すかさず部員の森田くんがペットボトルの紅茶を注ぎ入れる。まるで専属執事のような折り目正しい所作に、一同は目を奪われる。
「どうぞ」
「うむ」
「いい主従ねー。調教もバッチリ」
「調教て」
トキちゃんのツッコミに苦笑する。
一休みしたところで本題に戻る。今日はもうすこし話をしたい、そんな気分だった。
「でさ、この侵略宇宙人、チート過ぎん?」
SFを愛する乙女、天野さんがポッキーを噛み砕きながら言った。「だよねー」「反則だよ」と皆も同調する。
エイリアン(侵略者!)の勢力
・月を覆い隠すほど巨大な母船
・高度な科学技術を持つ
・円盤で事前に偵察していたっぽい
・墜落した円盤、エイリアンの死体を見た
・円盤は機械と生命が混ざったみたいで気持ち悪かった
(ギーガー画伯っぽいイメージ?)
・頭の大きい小人で色は黒い。
・バイオスーツ(?)で身体を強化している
・強いが、単体なら肉弾戦でも倒せる
・剣や魔法で対処したらしい
第二のエイリアン勢力?
・種類の違う円盤を見た(綺麗な円盤)
・いわゆる「グレイ」タイプ
・詳細不明
・敵? 観察? 目的は?
エイリアンの侵略兵器
・三本足で移動する機動兵器
・魔法界では三脚蟲と呼称
・大気圏外、おそらく衛星軌道上から降下させ、強襲する兵器運用!
・熱線砲が武器。一撃で建物を爆破
・発射間隔は?(十数秒ごと?)
・敵の総数は不明
・強力なバリアーを有する
(※魔法結界=シールドと呼んでいた)
・物理攻撃、魔法攻撃(一種のエネルギー兵器)を無効化する
魔法王国側の反撃方法
・空を飛ぶ船から攻撃
・現代地球文明とは異なる兵器体系
・銃器、ミサイルなど、いわゆる火器類は無い
・超遠距離精密誘導打撃兵器は無い
・銛のように射出する物理兵器を使用
(本来は攻城兵器ではないかと推測)
・対三脚蟲戦は砂漠。遮蔽物無し。
・魔法王国の通常兵器は一切通用せず。シールドが強固で破れず。
・核兵器のような魔法を地面に仕掛け、撃破できた
(核地雷のように埋設し運用したものと推測)
・ワンオフの試作品らしい(何発も存在しない)
・威力は小型の戦術核並(数キロトン?)
「とにかく、一方的だったんです。賢者さまの仲間たちが作った武器で、なんとか一体を倒したけど……。次に襲ってきた時はものすごい数で、もう、どうすることもできなくて」
「でも最後に……サクラちゃんだっけ? が一矢報いたんでしょ?」
慰めるようにトキちゃんが言い、キャンデーの包み紙を机の上で丸めた。
「赤い光線を敵が発射する瞬間、自分から突っ込んでいって。それで爆発して」
捨て身の特攻。大きな代償を払っても、三脚型の侵略兵器を完全に倒せなかった。悲壮な彼女の表情と、護ろうとしたカレルレンの姿が脳裏に浮かぶ。
私にとっては辛い思い出。みんなにとっては物語の設定か、妄想小説の一節でしかないかもしれないけれど。
「強力な防御シールドがある。しかし攻撃するために一部を解除する必要があると言うことですね。つまり、三脚蟲は無敵じゃない。エイリアンの技術は確かに進んでいますが、制約も多いと思います」
姫乃さんは、ジャガリコとペキッと折ると、口に放り込んだ。
「シールドは常時、全方向に展開しているでしょうか? いえ、それではエネルギー効率が悪過ぎます。どんな高度な文明でも、運用効率は無視できないはずですから。シールドは必要なタイミングで、必要な分だけ展開するのが合理的。ならば、全方向からの同時弾着、飽和攻撃を試せないでしょうか? 巡航ミサイルのような……正確な遠隔打撃手段があれば」
ホワイトボードに文字と図を描き入れていく。
クラゲのような三脚型の侵略兵器に対して、どういう手段が有効かを考える。
「最初の一体を倒したように、下方向からの攻撃が有効かもしれませんね。真下にシールドを十分に展開できない。だからこそ核地雷……いえ魔法の地雷で致命的な損傷を与えられた」
姫之さん曰く、三脚蟲は現代の地球上の兵器体型では考えられないトンデモ兵器だという。
非効率な歩行という移動手段、射程の短い武装、無駄に強固なシールド。
「現代の地球文明の技術水準なら倒せるはず、か」
「でも無敵のシールド、バリアーがあるんでしょ。SFだとお約束だよね……」
「シールドは一種の力場です。物理的な壁と同様、外部からのエネルギー照射で無効化可能ではないでしょうか。メガワット級レーザー砲、あるいは迫撃砲の同時着弾を繰り返し、疲弊させるなど。米軍はもちろん、自衛隊の現有装備でも対処可―――」
「姫乃ちゃん、脱線、脱線」
「あっと、すみません。つい興奮してしまいました……」
ミリタリー好きなだけあって難しい専門用語が次々と出てくる。そして「光の壁みたいなので攻撃を防いでいた」という下りだけでシールドの破り方を考えはじめた。私には出来ないことで、凄いと思う。
「だめだめ、向こうの世界に米軍や自衛隊が助けにいけるわけじゃないでしょうに。そういう作品もあるけど」
と、SF同好会の天野さん。
「前々から思っていたのですが、ああいう荒唐無稽な軍隊が活躍する話において、補給はどうなっているのですか? 兵站無くして前線部隊はは戦えません」
「まって、話が脱線するからそこはおいておこう、ねっ?」
取り仕切るトキちゃんが慌てて割ってはいる。
「三本脚の歩行兵器といえばさ、有名なSF小説『宇宙戦争』でも出てきたけどさ。歩行という非効率な移動手段を用いている理由は? 同じタイプの宇宙人が円盤に乗って訪れていたのになんで侵略は機動兵器なのかね」
天野さんが頭の後ろで手を組んで、天井を見上げる。
「三脚蟲を有効活用できる特殊な環境、つまり何処か別の惑星で有効だった兵器。それを……異世界の地球に持ち込んだのかもしれませんね」
「あとさ、気になったんだけど」
それまで黙って紅茶を飲んでいた小鈴さんが、小さく手をあげた。
「どのへん?」
「すごい熱線砲、ビームをビシビシ撃ってくるんでしょ? そのエネルギーはどこからくるのかなっていう素朴な疑問。魔法も科学も熱力学の第二法則が同じ、という前提でだけど」
その問いかけに姫乃さんがハッとした。
「……確かに。それだけのエネルギーを発生させるなら、内燃機関ではないのは確かです。核融合? まさか小型化するにしても限度が……」
「それにシールドだかバリアーもエネルギーを使うよね」
熱力学の第二法則。確か……高い次元のエネルギーを熱エネルギー変えれば戻らない。閉鎖系のエネルギーは保存される、ってのは第一法則……だっけ? 私は首をひねる。
「ユマさん、墜落した円盤の推進機関やエネルギー源について何か聞いていませんか?」
「何もわからないって言っていました。あっ! そうだ、思い出した」
みんなが私に注目する。
「三脚蟲が襲来する少し前、壊れた円盤の一部が突然、動き出したんです」
「それだ!」
「え?」
「動力源、つまりエネルギーは奴等の母船から送信されてくるのではないか!?」
「あー、言われてみればそういうSFあるね。映画だけど。地球侵略を企てたエイリアンの円盤は、母船からのエネルギー送信を受けて動いてた……っての。だったら三脚蟲も?」
「ありえますね」
<つづく>




