エイリアン侵略対策委員会①
「エイリアン侵略対策委員会……!?」
集まった皆はホワイトボードに書かれた文字を見て、それぞれ違った反応を示した。
「魔法世界に宇宙人とはね。フフ、中二病がぶりかえすわ」
頭を抱えつつも含み笑いを浮かべたのは、オカルト研究会の小鈴さん。
「いいね、UFOと宇宙人ならボクの得意分野だし」
その横では同じオカ研のモリター捜査官こと森田くんが、楽しそうに目を輝かせた。
「魔法とSFは相性が悪いのは知ってるだろ、ユマっち。寿司とコーラみたいなもんだぞ。それをあえて混ぜてくるとは……。この挑戦、受けてたつぞ」
私の所属するSF同好会の会長、天野さんは腕組みをしてパイプ椅子にふんぞり返ると、不敵な笑みをこぼした。一見すると黒髪ロングの清楚な文学少女なのに、中身はちょっと姉御っぽいところがある。
人類滅亡や宇宙戦争がテーマになると 途端に熱くなるSFマニアさん。実は最初に相談しようと思い浮かんだのが彼女だった。
トキちゃん人脈に名を連ねていた居たという意味でも、絶対に頼りになる人だと思う。
「まずは情報が欲しいですね。可能な限り、ユマさんが敵地で入手した情報を開示して頂きたいです。分析はそれからで」
長机の反対側ではミリタリー研究会の鬼軍曹こと、姫乃さんが既に任務遂行とばかりに、真剣な眼差しでホワイトボードを睨んでいる。見た目とは裏腹に口調は物静かだ。
「みんな、集まってくれてありがとう。これは、人生相談だよ。どうやったらユマの抱えたお悩みを解決できるか……。ううん、ユマの世界を救えるか。皆で一緒に考えてあげようって集まりだからね」
トキちゃんがマーカーペンを指先で器用にクルリと回す。
みんなはそれぞれ頷いてくれた。
想いは様々だろうけれど、趣旨は十分みんなに通じたらしかった。
「架空の世界に仮定を重ね、討論と検討を交わそうとは、暇人たちの集まりにも程がありますが……。ここはオカ研としても受けてたとうじゃありませんか。ト……トキさんが誘ってくれましたし」
小鈴さんが照れ臭そうに魔女っぽいトンガリ帽子を被る。
「ありがとね、鈴ちゃん」
「いえ」
みんな素敵なトキちゃんに惚れているのだ。
「よ……よろしくおねがいします」
その場の勢いに流されて頭を下げる。そして座るように促され、空いている椅子に腰掛けた。
「そもそもさ、魔法を生活基盤にした異世界にエイリアンが侵略してくるって設定は珍しいよね。ゲームやアニメであったっけ、そういうの? それともユマっちのオリジナル完全妄想小説?」
天野さんがまず口火を切った。まだ半信半疑という感じで。
「夢、というか記憶というか。図書館にいたら不意に。突然降って湧いたと言いますか……そういう記憶なんです」
「ボクも授業中は窓の外を見ていると、そういうことあるけど」
「モリターは黙っとれい」
「ユマは泣いていたんだよ、辛そうに。普通さ、そんな事ってある?」
図書室で気遣ってくれたトキちゃんの言葉に、皆が耳を傾けた。
そもそも、自分の身に何が起こったのか。まだよく整理できていない。
見知らぬ異世界への召喚。そして記憶だけを持ち帰った。それは突然の閃きに似た「異世界の記憶」として日常を過ごしていた私の脳に上書きされている。
向こうの世界で見たことや聞いたこと。おそらく十日間ほどの間に経験した驚きの体験や、見た物の仔細を明確に覚えている。
だだ最後はバッドエンド。カレルレンやサクラちゃんとの辛い別れ。そして世界の終焉を見た。
目眩を伴うような絶望で締めくくられていた。
それらが渾然一体となって頭の中で渦巻いている。
「じゃぁユマ、ゆっくりでいいから、思い出せる内容をみんなに話してみて」
「私が箇条書きにしよう」
トキちゃんの提案に、生徒会書記の姫乃さんが応じて立ち上がった。ホワイトボードの板書役をトキちゃんと交代。
「ユマが現実だと感じたこと。夢でも妄想でも構わないからさ、全部だしてみて。渾身の設定だと思ってさ」
「わ、わかりました」
SF同好会の友、天野さんなりの励ましを背に、私は思い出せる事柄を一つずつ話しはじめた。
ホワイトボードに綺麗な文字が並んでゆく。
「時系列じゃなくても良い、あとでまとめるから」
優しい言葉に緊張もほぐれ、色々なことを思い出した。
・図書室にいたのに記憶と人格(魂?)だけ、突然異世界に召喚された
・自分という存在のコピーらしい
・私オリジナルは図書室にいた
・異世界で過ごした時間はおそらく十日前後
・図書室に戻ったとき、時間経過は数秒程度
・カレルレンという賢者さまの仕業だった
・十二人の大賢者の一人
・年はおそらく二十歳ぐらい
・紳士的で優しい
・皆から慕われていた
・髪はさらさらで良い匂いがした
・手は握った(自然と握ってくる感じ)
・イケメンだった
・正直、好みだった
「ふむふむ、それで? えっちなことはされなかった?」
「なんか脱線してません!?」
「ここ、生徒会としても重要な情報です、も……もうすこし詳しく!」
姫乃さんの上腕筋とペン先に力が入る。
「えぇ……?」
「おのれユマっち、良い思いしやがってからに、グギギ」
黒髪乙女の文学少女、天野さんがものすごい形相で悔しがっている。手元の紙がぐしゃぐしゃだ。
「別に、良い思いなんてしてないですよ!」
「うーん、カレルレンさんね。昔のファンタジー小説なんかだと賢者イコールジジイって感じだったけど。ここ最近の日本のラノベやアニメ、ゲームの影響か賢者イコール若くて変態、という潮流ができたからねぇ」
「変態じゃないです、カレルレンはいい人です!」
「非常時で自分を抑えていただけかも」
小鈴さんの中では男性の魔法使いや賢者は、乙女を惑わす危険な存在という位置付けらしい。
「よし、賢者様の心を侵略……じゃない、攻略するってのはどうだい? よ乙女ゲーみたいに」
「もうっ」
良いこと思い付いた、みたいに森田くんが指をならした。
「あーもう、ユマが赤くなってるし、そろそろ話をもどそっかー?」
トキちゃんがモリター君にチョップをかまし、助け船を出してくれた。
脱線気味だった話はもどり、異世界における構成要素、魔法や世界観を書き出してゆく。
・魔法の世界は綺麗で発展していた
・王国はいわゆる中世風。生活様式は近代化されていた
(国名や地理は省略)
・ホムンクルス、人造人間がいた
(可愛い女の子!)
・ホログラム? みたいなものが空中に浮かび動画が見られた
・距離に関係なく通話していた
・空を飛ぶ乗り物があった
(飛行せんみたいな感じ。速度はゆっくり。プロペラやジェット推進ではない、魔法で風を操っているとか)
・軍用の船は大きいのもあった
「ほかには?」
「あ、アイスクリームが美味しかった!」
笑いが起こる。
「いや、でも今のはすごく重要な情報だぞ」
天野さんが感心したように微笑んだ。
「そうですか?」
「あぁ、文明のレベルが判断できるんだよ。生の乳を運搬し加工する流通の安定、牧畜の技術も高い。冷やすという行為は魔法で行うとしても、問題は砂糖だ」
「お砂糖?」
「砂糖は地球文明でさえ二十世紀になるまで貴重品だった。その甘味料を潤沢に使うのが菓子類だ。それを庶民が買える値段で、屋台で普通に売るとなれば、社会は安定し流通も盛ん。経済構造もしっかりしていて、畜産、農工の技術水準も高いとみた。何よりも庶民が甘味を手軽に買えるという、娯楽を享受するとなれば文明水準は現代に匹敵すると見て良い」
「すごい……! そこまでわかるんですか」
「あぁ、伊達に本を読んでいないからな」
<つづく>




