第8話:正体は?
私は勢いよくベッドの隅っこへと後退る。というか避難する。
けれど男は一瞬ビクッとしただけで、特に気にすることもなく、きょとんとこちらを見つめている。
てか顔舐められてたッ!動揺しすぎて声も出ない。
ホント なんで全裸……でイケメン…ッ!?
じっとこちらを見つめる男は、20代前半……だろうか?私と同じくらい、かな??ミルクティー色の髪の毛に澄んだ青色の三白眼で、端整な顔立ちだった。
「…………。」
舐められた頬をおさえたまま驚きのあまり固まっていると「……大丈夫か?」と声をかけられる。その声は心地良い低めの音で、スゴくいい声だった……じゃなくて!!全っ然大丈夫ではないッ。一体誰なの?どっから入って……もしかして泥棒!?
ベッドの隅っこで再度身構えながら嫌な考えが頭をよぎる。それが表情に出ていたのだろう。全裸の男は不安そうに、そして申し訳なさそうに言ってきた。
「その…悪ぃ。驚かすつもりはなかったんだ。ただ、な……礼がしたくて、」
「──…は、はあ…???……………ん?」
警戒心はそのままに、怪訝な顔をして返事をする。
と、シュンと俯いた男の頭には、それと連動するようにぺしょんと垂れ下がった焦げ茶色の耳と、腰の辺りでは弱々しく倒れていった尻尾があるのに気がついた。
なんでこの人 そんなの付けてんだろう……変態…?──…って、
「!!!??」
びっくりした。
いや、まさかそんなはず……でも…。
今 目の前にいるクールな雰囲気漂う男のそれらには、全て見覚えがあるものだった。
ミルクティー色の髪の毛で…焦げ茶色の耳と尻尾。
水色のキレイな瞳に、手首に巻かれた包帯……って
───もしかしたら…?いや、でも……。
現実ではありえない現象だ。
けれど、現時点での思い当たる節がある……とすれば……。
「……っ」
変な緊張が走る。
けれど、確かめてみなければ判らない。
「…………ふぅ、」
ドクン、ドクンと脈打つ心臓を落ち着かせるために、深く深く、深呼吸をする。そして
「───も、しかして…、ムー…ン??」
と、恐る恐る名前を呼んでみると──。