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第12話:追想


おれには兄弟がいた。けれどおれがだいぶ小さい頃、母は交通事故で亡くなって、それから兄弟たちもいつのまにかバラバラになって、いなくなってしまった。


当時ガキだったおれはどうすることもできなくて、行く当てもなくて。いつも腹を空かして彷徨っていた。


そんなある日、梅の香りがする頃に。あいつに出逢った。







暖かな陽射し、風は爽やかに。

ふわふわとしたきれいな黒髪は揺れる。


大きな瞳は宝石のように美しい。淡く光る桜色。

白い肌に、細い身体。


現在いまよりも若い 顔つきで──。





『……どうしたの?大丈夫?』





腹が減りすぎて道ばたでうずくまっているところに、あの時と同じように、あいつが現れた。





『怪我…はしてないみたいだね、よかった』





そう言っておれの前に屈んではバッグを漁ると、差し出してきたのは小さな箱に入ったクッキーで





『今はこれしか持ってないんだ。ごめんね。近くにコンビニでもあれば猫缶とか買ってこれるんだけど…』





よかったら食べてね。と、おれの頭を優しく撫でた。

その眼差しは、微笑みは。穏やかで、優しくて…。


疲弊したおれにとっては、まばゆいもので

久しぶりに感じた 優しいぬくもりだった。





『これ食べて元気になって。大きくなるんだよ』





嬉しくて、幸せで。些細なことかもしれないけれど、おれのココロとカラダを癒すのには、充分だった。





『よしよし、いっぱいお食べ。大丈夫だよ』





その優しい声が、その眼差しが、好きだった。

おれを撫でる、その手つきが好きだった。


柔らかくて、あたたかい。あいつの匂いが好きだった。









───ふぅ…美味かった…って、あれ??



食い終わって見上げてみれば、そこにはもう 誰もいなかった。


久しぶりのご馳走だと、途中から食べるのに夢中になったばっかりに、あいつが去って行くのに気がつかなかった。





……っどこに、どこ行った??





目をまたたいて。急いできょろきょろと辺りを探してみたけれど、やっぱり。


あいつの姿はどこにもなくて──…。




けれど空になった小さな箱と

微かに漂う あいつの匂い。



それらが確かに〝そこに居た〟と〝出逢った〟のだと、教えてくれた。







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