僕は養子貴族
初投稿となります。至らない点も多いかと思いますが、読んでいただけると幸いです。
少年と従者の間で木刀が何度も交わり合い、周囲に鈍い音が響き渡る。
模擬戦開始から相当の時間が経過しているのだろう、お互いの表情や呼吸から疲労の色が見える。
「そろそろ、決めさしてもらいますよ。」
従者は、少年との間合いを一気に詰め、体格差を活かした全力の一撃を放つ。長時間の模擬戦のため、お互いの足は既に止まっており、少年が後方に回避するのは難しい。
「やはりそうきましたか」
少年は従者の一撃を木刀
「はぁっせぃ!」
金髪の少年が持つ木刀の剣先が、従者の首にピタリと当てられた。
「カルロ、カルロこれは僕の勝ちでいいよね?いいよね?」
金髪の少年は肩で息をしながら、満面の笑みを浮かべている。
「そうですねルッツ様参りました...降参です。」
カルロと呼ばれた30代前半の従者は、やれやれという表情で剣を離し、降参の意を示した。
「やった〜やっったぁっぁ。やっとカルロに勝つことができたよ。嬉しすぎて今日は眠れそうにないやぁ。」
「はぁ〜・・・ルッツ様は、本当にお強くなられましたね。これでも現役時代は、王国内で名の知れた騎士だったんですけどねぇ。」
「名の知れた騎士だったと言っても、それは、カルロに右腕があった時の話でしょ。なんだっけ、疾風のカルロだっけ?」
「ルッツ様やめてくださいその呼び名は、、、、意外と恥ずかしいんですから。ルッツ様に剣の稽古を始めて三年と少しですかぁ。それで私に勝ってしまうんですから、本当に大したものですよ。正直なところ、ルッツ様には、もう教えることが殆どありませんよ。」
「えぇ〜ダメだよ、今日はたまたま勝てたけど、勝つまでに428回も負け越してるんだから、明日からも稽古をつけてくれなきゃ。」
「私としてはこのまま勝ち逃げでもいいんですがね。それよりルッツ様、いつもより稽古の時間が長引いてしまっていますが、勉強の時間はよろしいんですか?」
「あっまずい、早く行かないと母さまに叱られる。僕は先に屋敷戻るから、片づけをお願いできない?」
「わかりました。それでは私が木刀などを片付けておきますから、先に屋敷へ戻ってください。」
「カルロ助かるよ。ありがとう。」
ルッツは、カルロに手を振りながらお礼を言うと屋敷につながる道を全力で駆け抜けていった。
僕の名前は、ルッツ。ルッツ・フォン・アーネスト。
グレッグ王国の貴族であるアーネスト家の長男として、12年間生きてきた。
ただ、アーネスト夫妻の本当の子供ではない。
僕は、生まれてすぐにアーネスト家の屋敷前に捨てられた。身元等がわかるものは何もなく、「ルッツ」と名前の刻まれペンダントを手に握っていたらしい。
その僕を結婚してから子供ができなかったアーネスト夫妻が拾ってくれて、アーネスト家の養子となったわけだ。
当然、出生も身分も分からない赤子を養子にすることに、反対した身内もいたらしい。
その反対を押し切って僕を育ててくれた父様と母様には、いくら感謝しても足りないくらいだ。
少しだけアーネスト家の話をすると、アーネスト家はグレッグ王国の南東の端に位置するパトリオット地方を領地とする貴族で、爵位は男爵になる。
パトリオット地方は果物の栽培が盛んで、特にブドウの生産量が多いため、王国内でも有数のワインの名産地になっている。領内で製造される「パトリオットワイン」は、製造された年代によって信じられないような高値で取引されることもしばしばある。
決して大きな領地ではないけど、活気があって領民が笑顔で生活していると思っている。
とりあえず、今は母さまと約束した勉強時間に間に合うように屋敷まで全力で走らないとね。