第1話「クズ人間は電脳世界へポイっと」②
〇大学校舎内・物質変換研究ゼミ前の廊下
物質変換研究ゼミと書かれた看板のあるドア。その前に到着する秀我&洋太。
〇同・室内
様々な機材はあるが、人は誰もいない空間。
威風堂々! 仁王立ちする秀我。
秀我「自己紹介が遅れたな! 俺様は獅童秀我。2年生だ」
洋太「あっ。先輩だったのか……」
秀我「(掌を出し、制止)おっと! 敬語は要らん。俺様はそんなみみっちい事は気にしない」
洋太「(首肯)じゃあ、そう言うなら」
秀我「で、一年生。お前の名前は?」
洋太「犬飼洋太。現役合格だから確実に年下だよ」
秀我「俺も現役合格だから、1歳差だな」
秀我「さて、お前さんがここへ来たって事は少なからず興味あるんだろ?」
秀我「(ネクストワールドを示し)こいつに」
洋太、深刻な面持ちで頷く。
秀我「で、何が訊きたい?」
洋太「質問の前に改めてデータ変換。それを改めてこの目で見てみたい」
秀我「(ネクストワールドを翳し)いいぜ。お安いこった」
秀我「(テーブル上のティッシュ箱を指差し)んじゃ、こいつで試してみるか」
秀我、端末機・ネクストワールドを操作し、レーザー発射口をティッシュ箱に向ける。
秀我「ほいよ。データコンバートだ」
端末機・ネクストワールドから照射された光を受けるティッシュ箱。
ティッシュ箱は粒子となる。
洋太「あぁっ!」
光に吸い込まれてネクストワールドの中へと入って行った。
洋太「(感心しながら)粒子に分解されて光に吸収されたようだったね」
秀我、洋太にネクストワールドの液晶画面を見せる。
画面には数々のフォルダの下にティッシュ箱の絵が。
洋太「(凝視)これがさっきのティッシュ箱。人間以外も出来るんだね」
秀我「(悪辣と笑んで)で、ティッシュ箱はどーする? ヤリサー共にお恵みになるか?」
洋太「あんな奴らにティッシュ箱すらあげたくないよ」
秀我「あんな奴ら……か」
秀我は操作し、ティッシュ箱がテーブルの上へと戻る。
洋太「(汗)信じられない。どういう仕組みなんだい?」
秀我「仕組みか……」
秀我の持つ端末機・ネクストワールドの裏側のカバーを秀我が外す。
そこには中枢ユニットのようなものが取り付けられていた。
洋太「これは?」
秀我「謎の中枢ユニットとしか言いようがない。こいつを組み込んだら、あらま不思議。現実世界に存在するものをデータ化出来るようになったワケだぁ」
〇山の奥
山中を散策中の秀我、先程の中枢ユニットを拾う。
秀我(語り)「行方不明者の多い山の中を探していたら見つけたんだ」
中枢ユニットを手にした秀我、不思議そうにその中枢ユニットを見つめる。
秀我(語り)「調べてみても同種の素材すら確認出来ないこの中枢ユニットをな」
〇ゼミ内
洋太「どうしてそんな場所にわざわざ?」
秀我「行方不明者が多い場所だからだ。もしかしたら、別世界に繋がるゲートみたいなのがあるかと思ってな。行方不明の奴も、生死が確認されない以上、別世界に行ったと仮定出来た」
洋太「別の世界……。RPGみたいな世界なのか、それとも宇宙人に攫われたとか?」
秀我「あぁ。けど、ゲートそのものは見つからなかった」
秀我「だが、現代科学で解明出来ない、高文明のアイテムはあったワケだ」
洋太「そうだったんだ……」
洋太「(真剣な面持ちで)君がこれを作った理由が知りたい。そして、これを使って何をしたいかも」
秀我「いいぜ。俺様が分かりやーすく話してやる」
洋太、ゴクリと息をのむ。
秀我、窓の外からの逆光を受けながら、
秀我「早い話、電脳世界を人類の新天地とすることだ」
洋太「新天地!?」
秀我「その理由だが……」
秀我、席を立ち窓へ向かい、窓の外を眺める。
下というか外にはキャンパス内を行き交う大学生たちの姿が。
秀我「人間って多いよなぁ」
洋太「? まぁ……。特に都会はね」
秀我「人類は増えすぎた。だから、競争の激しい世の中になっちまった」
〇洋太の脳内イメージ
机にしがみついて教科書と睨めっこした時の洋太。
合格者発表の貼り出しを見て、洋太は安堵する様子(合格した)。
洋太「……まぁね」
〇ゼミ内
椅子に座って会話している秀我と洋太。
秀我「人気のあるモノや、得するモノには特に群がるんだよなぁ」
洋太「有名な企業や公務員に就職したいとかね」
秀我「競争ばかりじゃあ脱落者が出る。勝ち続けるのも窮屈だ。だから、そのしんどい競争を終わらせる。または軽減させるにはどうしたらいいと思う?」
洋太「人間を減らすか、受け皿を増やすしかないじゃないか」
秀我「(振り向き、洋太を指差し、)その通りだ」
秀我「でもなぁ、要らない人間を殺すってのは極論だ。過激だ。ならどうすればいいか?」
秀我、ニカッと笑んで、
秀我「(人差し指を突き上げ)新天地を開拓する事だ」
洋太「新天地?」
〇宇宙
銀河の中にある巨大な箱(宇宙コロニー)。ガ〇ダムみたいな奴が浮遊している。
秀我(声)「SFでよくあるだろ? 宇宙コロニーとか」
そのコロニーの中、地球と同じように広がる都市(ただし、上空は空ではなく、コロニーの壁(疑似日光発生装置はあるが)。
洋太(声)「ロボットアニメでもよくある話だね」
〇物質転移研究室
やれやれと秀我は脱力する。
秀我「だが、宇宙コロニーはまだ夢物語だ。それに、物資が新天地に回せる分まで用意出来るとも思えねぇ」
洋太「(ハッとなり椅子から立つ)そうか! だからこそデータ化。電脳世界への移住なんだ!」
秀我、パチンと景気よく指を鳴らす。
秀我「そういうこった! データに飯も金も要らねぇ。そういう設定にすればな」
洋太「(感心)なるほど」
洋太、俯き考え込む。
洋太「……正直なところ、データとして生きていける方が幸せなんだろうか?」
秀我「それは本人次第としか言いようがねぇな。どうした?」
洋太「僕はうんざりしているんだ。競争社会に」
秀我「ん?」
洋太「(悄然)ずっと落ち続けているんだ。アルバイトに」
洋太「(激昂)でも、しょうがないじゃないか! 今更変われないんだよ! 明るく・愛想よく振る舞うなんて出来ないし、生まれてこの方運動音痴で力仕事なんか無理なんだ!」
洋太「企業にとっての理想になれないんだよ!」
秀我「……」
洋太「(苦笑)アルバイトすら受からないんだ。新卒正社員もダメかも」
秀我「だから、データの世界で生きてみるのも悪くねぇと考えたってか」
洋太「(頷き)笑っちゃうだろう?」
秀我「(真剣な表情)笑わねぇさ」
洋太「えっ?」
秀我、ニカッと笑む。
秀我「俺様もアルバイトに全然受からねぇ。他人に頭下げることが出来ねぇ奴だからな」
洋太「秀我くん……」
秀我「ほとんどの仕事が一にも二にもコミュ力。外っ面の良さだ。更に経験者優遇するせいで、未経験者は中々経験が積めねぇ。参ったもんだ」
洋太「(頷き)そうそう。それに、黙々と作業こなすタイプには逆風なんだ。そういう仕事はAIに取られ易いし」
洋太「(青褪め)あぁ、考えるだけで頭が痛い……」
秀我「ま、誰もが皆企業の理想通りの人間にはなれねぇってこった」
秀我「(ニカッと笑んで)つまりは仲間、仲間! 仲よくしようぜ」
洋太「(苦笑)アハハ……」
秀我「だからこそ、色んな奴らの色んな場所、作ってやんねぇとな!」
洋太「色んな人の色んな居場所……」
洋太「(秀我の顔色を窺うように)僕に何が出来る?」
秀我「レポートまとめぐらいは出来るか?」
洋太「(首肯)そのぐらいなら大丈夫」
秀我「じゃあひとまず助手だな。端末機・ネクストワールドにはまだ分からないことが多い。様々な実験が必要なんだ」
洋太「(首肯)分かった」
洋太「(ハッとなり)そうだ! 獅童くんはさっき、ヤリサー。じゃなくて、テニスサークルの奴らをデータ化したけど、どういう意図でやったのだい?」
秀我「へっ。簡単な話だァ。風評被害を受けたくねぇだけだ」
秀我「洋太も言っていただろ? あいつらはヤリサーだって」
洋太「(頷き)あぁ。あくまで噂ではね」
秀我「だが、その噂が事実として明るみに出たらヤバイ」
秀我「俺様たちは同じ大学ってだけでヤリサー共の同類だと思われるんだ」
洋太「(冷笑)偏見だけどね」
秀我「偏見だと割り切れるほど思慮深い奴らばかりじゃねぇのさ。世間ってのはよ」
洋太「不本意だけど、そうだろうね」
秀我「さぁて。あいつらは今どうしているかな?」
秀我、ネクストワールドを操作する。
ヤリサー監獄のフォルダを開く。
画面を覗く秀我&洋太、渋い顔をする。
テニスサークルの面々は乱交していた(モザイク処理しておこう)。
洋太「(顔を引きつらせ)うわ、所構わずかぁ。流石ヤリサーだ……」
秀我「(高笑い)クハハ! 文字通り、エロ動画になってやがる!」
洋太「ちなみに、僕らの姿も声も彼らに伝わっているのかい?」
秀我「いいや。そうならない設定にしている」
秀我「(サムズアップし)安心しろ。あいつらは俺たちの顔も声も知らねぇから」
洋太、ほっと胸を撫でおろす。
洋太「それで、彼らをどうする気だい? 正直、元の世界に戻すのは反対だ」
秀我「理由は?」
洋太「まず、被害者出ることだよ。本人の意思でああいったサークルに入るのは個人の自由。だけど、中にはそうじゃない人もいるだろうし」
秀我「そりゃそうだ」
洋太「それとさっきも言ったように、自分の大学に泥を塗られては僕らまともな大学関係者が迷惑する」
洋太「(どす黒く)なにより、就活の時のライバルが邪魔だね」
秀我「(笑)ハハハ! それが本音だろ! ま、別にイイケドな」
秀我「つか、女食いまくっているって点を羨ましく思わねぇのな」
洋太、冷めきった態度をして鼻で笑う。
洋太「別に要らないよ。女性との交際はお金も労力も掛かるからね」