第1話「クズ人間は電脳世界へポイっと」①
〇大学・キャンパス敷地内
犬飼洋太は悄然とした様子でリュックを担いで歩いている。
洋太は偶然、落ち葉を踏む。
洋太「(溜息)はぁ。大学に入って約半年。全然アルバイトが見つからない……。いつも、明るくてコミュ力高そうなリア充系の奴らに仕事を取られる」
洋太「(頭を抱え、苦悩)接客やれるような愛想も臨機応変さもない。かといって、肉体労働やれるほどの体力もない。僕に出来るアルバイトはないのか?」
肩を落とす洋太の後姿。
洋太「アルバイトでつまずいているようじゃあ、就職も厳しいかも……。新卒で正社員になれなかったらどうしよう」
落ち込んでいる洋太の目の前を横切る集団。
洋太「うわっ」
へらへら・チャラチャラした男女の集団(ラケットケース持ち)、洋太の前を素通りする。
洋太「ラケットケース? あれはテニスサークル。いや、ヤリサーか?」
洋太、溜め息を吐く。
洋太「まだニュースにまではなっていないけど、あそこはヤリサーって噂だからなぁ」
小粒に見える程遠くへ行ってしまったテニスサークルの後姿。
洋太(声)「でも、ああいう奴らはコミュ力が高くて、上に取り入るのも巧い。だから、就職し易いんだろうなぁ」
洋太の足、小石を蹴る。
洋太(声)「あーあ。内向的な人間に居場所のない世界だ」
テニスサークルの連中は突如、奇妙な光を浴びて、姿を消す。
洋太「(目を大きくして)えぇっ!?」
洋太「(汗)き、消えた? み、見に行ってみよう」
駆け出す洋太。
洋太、テニスサークルの面々が消えた場所に到着。コンクリートを凝視する。
洋太「落とし穴。なワケないよなぁ。なんでいきなり消えたのだろう?」
秀我(声)「消えたんじゃねぇ。奴らは引っ越したんだよ」
洋太が振り向いた先、茂みに隠れていた青年・獅童秀我が不敵な様子で現れる。
洋太「引っ越した?」
秀我「そうだ」
秀我、所持している端末機・ネクストワールドを洋太に自慢げに示す。
洋太「(驚愕)ああっ!」
〇ネクストワールドの液晶画面内
音声は発していないが、出せ! と、必死で訴えもがいている様子のテニスサークルメンバーたちの姿が。
〇大学・キャンパス敷地内
驚きのあまり、固まる洋太。
洋太「あいつらの姿だ。ど、どういうことなんだ?」
秀我「データの世界に放り込まれたんだ」
洋太「そ、そんなSFみたいなことって。僕をからかっているのか?」
対し、秀我は自信ありげに首を左右に振る。
秀我「なワケあるか。お前ひとり騙したところで俺様に何の価値がある?」
洋太「確かに……」
秀我「(親指を自身に差し)まぁ、立ち話もなんだ。うちのゼミで続きを話そうぜ」
洋太(心の声)「まず人間をデータ化するのが本当だとしよう。僕を消したいのなら、とっくにデータにしているハズ」
洋太(心の声)「そうしない以上、僕に危害を加える気はないと見て大丈夫か」
洋太「(首肯)……分かったよ」




