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02_”機関”初上陸

キャラがドバーッ

指定された休日に、ベルグは富山湾海上区役所へと訪れた。

集合場所の区役所第一会議室は狭くもなく、広くもない。丁度いいサイズを目指したのだろうが、正直どっちつかずで一番使いにくいサイズなんじゃないかとベルグは思った。


実際、集まっている人数は5人程で、明らかにこの会議室には少ない。


なんだかなあと思いながらとりあえず隅っこのほうの席へ腰を下ろす。すると、あとからやってきたメガネの少年がなぜかこちら側へ寄ってきた。


「なあ、隣いいか?」


「あ、はい。」


ブレザーにパーカーという取り合わせで黒髪をハーフアップにしてサイドで縛っている、なかなか特徴的な服装をした男だ。青渕のメガネがよく似合っている。


「学校で渡された封筒だからさ、制服で来なきゃマズいかな~と思って着てきたのに結構みんな私服じゃんね。だから君見てほっとした感じ。あ、いきなり話しかけてごめんな。」


「いえ、全然嫌じゃないんでいいですよ」


パーカーを下に着といて制服を名乗るとは、もしやパリピの民だろうか。


「よかった~、俺、黒永。お前は?」


「ベルグって言います」


「ベルグ!海外製?」


「うん、ドイツ製。・・・っていっても、育ちは日本だからあんま関係ないですけど」


「へえ~、そうなんだ」


黒永と名乗った男に対して、出会って3秒で自分のことを話している事実に気づきベルグは感心した。

自分はもっと警戒心が強く、簡単にプライバシーは話さない人間だと思っていたからだ。


「ドイツ製の機械人って俺初めて会ったわ~!いいな~~。俺が機械人だったらどんなのだったかな~~」


黒永の表情や言葉からは全くネガティブな印象を受けない。本当に機械人のようなメカニカルなものが好きなのだと伺える。

これがコミュ力というものか・・・


そんな他愛もない話をしている間に、新たに3人ほどが続けて入室してきた。

先日会った白い男と、パンツスタイルの黒スーツを着たスキンヘッドの一つ目の機械人女性。

そして、この場に似つかわしくない茶色いポンチョ を被った5歳くらいの少女。


なんだあの子。あの子も招待されたんだろうか?


「招集したのはこの5人で全員?」


「後2名ほど声をかけましたが、来る気は無いとの事です」


「そ。最初からその気がないなら手間がかからなくていいわ」


どうやらその少女は、招待されてここにいるわけではなさそうだ。しかも、一つ目の機械人女性の方がその少女に敬語を使っている。

不思議に思っていると、その少女が喋り始めた。


「ごきげんよう。私はデリカ。こっちはテラで、こっちはアマネよ。よろしく。」


テラと呼ばれた白い男と、アマネと呼ばれた一つ目の機械人女性がそれぞれ頭を下げる。


「じゃ、アマネ、お願い。」


「はい。これから皆さんには、ヘリに乗ってKDS医療特務機関特務調査課の施設へ向かっていただきます。そこでその封筒に記述のある臨時職員の概要について説明いたします。」


可愛らしい声と裏腹に、アマネと呼ばれた女性に説明を促す様は見た目相応の年齢には感じられない。

態度は上から目線だが、戸惑いからか、その佇まいの違和感のなさからか、むしろごく自然なもののように思えた。


「これからすぐ出発しますので、ヘリの搭乗口までご案内いたします。」


てっきりこの場で説明が行われるものだと思って筆記具やらメモやらを用意していたから、準備に戸惑う。


そうして連れられた屋上には、今丁度ヘリが着くかという所だった。

ものすごい風に当てられ、黒永も他の人間も前髪を抑え目を細めている。


運転席に、黒い服を着た男が見える。

その男を指して、黒永が何か言っている。ブレードの風切る音で中々聞き取れない。


・・・・『あの操縦してる人・・・・俺んとこ来た人だ』・・・


・・・・・。

そうなのか。どうやら人によってスカウトマンは違うらしい。


正直どうでもいい情報を黒永から入手したところで、人生初のヘリ搭乗経験をした。

扉を閉めてしまえば結構静かだ。いや、バラララとブレードの音は相変わらず聞こえるが、会話に困る程ではない。


10人程が乗れるそこそこ大きいヘリのようで、窓を背にして向かい合わせに椅子が用意されている。順番に詰めて座ると、向かい側にデリカを真ん中にしてテラとアマネも席に着いた。


シートベルトを付けた事を確認すると、エレベーターのような感覚とともに窓の外の景色がぐるりと回る。


すると、隣に座った黒永に異常が発生した。


身体を180度捻って窓に注視し、大歓声をあげている。他の人間もある程度歓声をあげはしていたが、黒永のそれはまるで観覧車に乗った幼児のようだ。


うおおお!!うわー、わ〜〜〜!!!すげぇぇええ。お〜お〜お〜


他の乗客が笑っている。もちろん嘲笑的意味合いは無いだろうが、ちょっといたたまれない気持ちになる。

何より、テラと呼ばれた白い男の、何かを口にしようとしていたらしい半開きになった口が申し訳なかった。


結局、黒永の興奮はヘリが山奥のヘリポートへ着陸した後もなお続いていた。

ベルグは、どうどうといった風に興奮を宥めようと試みる。


あれ、僕はいつのまにこの人の友達になったんだろう?


山奥に建てられた白い建物だが、人の気配は十二分にあり活動が盛んに行われている事が容易に想像できる。大きな鉄塔が等間隔に建つ大自然には、標高が高い故か今が丁度花盛りのようらしく、遠くにちらほらと薄い桃色が窺えた。


「こっちよ。ついてきて」


デリカはその小さい容姿を覆い隠すように茶色のフード付きポンチョを被り、足首まであるスカートを膨らませて先導を切る。

長く伸ばされた前髪によって目元が伺えないことがよりミステリアスを強調している。


ベルグがそんなデリカを目にして思ったことといえば、~だわ、~よという語尾を使う人間に初めて会った。居るんだ。というようなことだった。



建物の中に進むと、病院か学校のように飾り気のない廊下が続いている。

始めての建物から色々な情報を得ようと辺りを見回すが、それほど変わった点は見当たらない。


デリカについて行くまま、大きめの部屋に入室する。


そこはまるで大学の講義室のように、正面のホワイトボードに向かって階段状に席が設けてあり、その最前席には、何故か空のガラスケースが置いてあった。


「どうぞ、お好きな位置に腰を下ろして。」


デリカは正面の壇上に登り、司会者台につく。デリカの身の丈は司会者台にすっぽり隠れてしまう程度な為、公共らしからぬカウンターチェアがわざわざ用意されているようだ。やさしい。


5人が全て席に着くと、優しそうな中性女性が数枚程度の薄いレジュメを一人一人に配った。


「行き渡ったわね。じゃ、説明を始めてもらうわ。改めまして、私はデリカ。KDS医療特務機関特務調査課、課長をやらせてもらっているわ。よろしく。」


課長!?この子、今課長と言わなかったか?つまりはこの施設のトップ!?どんなお嬢様なんだ。いや、もしくは発達障害の一種か?


「そうね、じゃ、まずは雇用体系を。アマネ、お願い。」


「はい。」


司会者台に座っているデリカとは別に、アマネが壇上の脇机にノートPCを用意する。

プロジェクタが起動し、レジュメと同じ画像が映し出された


その画像には数値 梓と書いてある。数値と書いてアマネと読むようだ。


「今回募集する職員についてですが、雇用体系はパート・アルバイトの非正規での雇用になります。」


レジュメを見てみると、給与は歩合制らしい。


「仕事の内容は、主にKDSで研究されている最新の薬物の治験と、実生活上の調査をお願いすることになります。簡単に言えば、治験バイトって感じですね。そのため、この間の健康診断で非常に健康的で運動能力の高い方々の中から今回説明会にお招きしました。」


治験バイト?僕は機械人なのに、治験なんて出来ないだろう。


「では、治験の詳しい内容について、釈永さんから説明していただきます。」


そう言うと、アマネは小声でなぐさ、と言いながら、先程の優しそうな中性女性にマイクを手渡した。恐らくは彼女の下の名前なのだろう。普段親密な関係である事が窺える。


「はい。では、代わりましてわたくし釈永が説明させていただきます。え〜…治験といっても、危険が無いという事は本研究所の職員によって既に証明されております。この中に機械人の方もおられるので、はてなと思われるでしょうが…治験する薬というものは、見つかりたての新元素なのです。まだ、実のある研究成果が採れていない為、発表はしていないですし新元素の仮名も一般の方には言うことができないのですが…、この新元素の変異種が、人体に有害な影響を与えているという事が分かってきたのです。」


肝心なところを濁しに濁して、出来る限りわかりやすく説明しようというのが伝わってくる。


「しかし、まだ発表すらしていない新元素について注意喚起のしようがありません。その為、一般の方から、この変異種に対抗するチームを結成しようという事になりました。」


「すみません」


突然、隣の席の黒永が手を上げて話を遮る。質問は一通り終わってからだと習わなかったのだろうか。………習っていないのかもしれない。そこは学校によるだろうし………


「じゃあ、寝たきりでも無いのに消えるVsDっていう神隠しが、それって事ですか?その、変異種の有害な影響」


「そう!その通り!!すごいね、そういう事」


釈永が突然テンションを上げて大肯定をする。なんだか、政府の医療機関の筈なのに随分とフレンドリーだな…。


「その神隠しを阻止する方法が一つ見つかったんです。ですが、その対処方法が特殊で………。物理でその変異種を叩きのめさなければならないんです。」


「物理?」


「はい。百聞は一見に如かずというので、こちらでこのようなものを用意しました。今から皆さんのところを周るので、触ってみてください。」


そう言って、釈永は空のトレイを持ち上げて見せた。

近づいてきたトレイに実際に手を触れるが、そこには何もない。トレイの底を手が滑るだけだった。

何の変哲もないトレイのように感じられるが、このトレイの素材がその”新元素”というものなのだろうか?


黒永やほかの人間もただ首をかしげるだけである。


「皆さん見ていただけましたか?それでは、今から配ります錠剤について説明いたします。」


そう言って、手に持っている薬の瓶を見せた。

ざわめきが起こる。


「え、それって飲むんですか!?治験って、もう!?」


当然の反応だろう。治験というのは危ない印象を誰もが持っているものだ。


「治験ではありますが、この薬は普段我々が利用しているものです。こちらが治験を行なった職員とその健康のデータですが、この一年間で薬による体調不良は起こっておりません。この資料も一応お配りしておきますね。」


手元に次々と書類が運ばれてくる。ホチキスで留められた資料をめくると、10名ほどの様々な性別のデータが事細かに記載してあった。

確かに前例はあるようだが、機械人、中性の男女もいることを考えると、確かに臨床としてはまだまだデータが欲しいところだろう。だが、機械人がどうやって薬を飲んでいるんだ?消化器のある機械人なんて相当な高級品だぞ・・・?


そう思い訝しげに顔を上げると、釈永はニコッと微笑んで薬を取り出し、口に放り投げて飲んで見せた。


「わあっ」


釈永だけでなく、この場にいる他の職員、デリカやテラも同じく薬を飲んで見せた。

アマネは、豆電球のコンセントに似たケース付きの黒いアダプタのようなものを首にさしている。なるほど、そうやって機械人でも治験が行えるという事か。


「このとおり、私もいつも飲んでいるような薬なので、安全性についてはご心配いりませんよ。」


他のメンバーと目を見合わせる。


「もちろん、それでも嫌という方に強要は致しませんのでご安心ください。OKという方は、この書類に名前を書いていただけると………ああ、名前を書いたからといって、このバイトを今後もしなくちゃいけない訳でもないので!」


そう言って配られた書類には、「薬物臨床被験承諾書」と書かれている。

内容は、今日の日付の今回の薬物実験で起こったすべての問題、それにより発生した金銭的問題もすべてこのKDS医療特務機関特務調査課が責任を負うということ。今回受けた説明をみだりに口外してはいけないという事。そして、この書面にサインをしたことで、今後の治験に参加するという事にはならないと改めて明記されていた。


「また、前回の健康診断で採取させていただいた血液検査の際、この薬を用いて反応検査をいたしましたが、いずれも十分に安心出来る結果でした。その結果がこちらの書類になります。」


またもや机上に増える書類。見てみると確かに危険がないことを記されている。

なんだかここまで厳重に安全を強調されると、逆に不安になってしまう。疑り深い性格からついつい資料の改竄などを疑ってしまうが、資料の隅に書かれた圧倒的赤十字と行政機関の名称を見て、そういえば目の前の中性女性も公務員だという事を思い出す。


ふと隣を見ると、黒永は既についついと書類にボールペンを走らせていた。


ベルグも正直、薬に対する警戒心よりも釈永の話の続きの方が気になったので、書面にサインしてもいいという気持ちになっていた。


しかし、この時ベルグは想像もしていなかった。これから釈永の説明するものが、「最先端の科学」の範疇から外れているという事を。


説明もドバーッ

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