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世界観説明

“消滅”


2016年未明、突如として寝たきり状態となった人間が蒸発する事件が続いた。

植物人間、ボケ老人、知的障害者などの要介護者が、一瞬のうちに消え去ってしまうのだ。

真夜中の監視カメラでも、大勢の人の目の前でも。場所、時間を問わず、音も予兆もなく。

完全に、跡形も残さず、消えてなくなった。


世界は大混乱に陥った。

脳が死んだだけの愛しい人が消えたものもいた。

正面では悲しむものの、莫大な入院費の心配をせずに済むと胸をなでおろすものもいた。

「この世に必要なかったから消えたのだ」なんて書き込んで大炎上を巻き起こしたネットユーザーも出て、平和主義者はこの事件に責任者を創ろうと躍起になった。それらに揚げ足とられ辞職に追い込まれた役員も出た。

しかし、世界中のありとあらゆる機関が幾ら捜査しても、どう考えたって、これは”神懸かり”としか思えなかった。


人間が消え去る事件はその一回では終わらなかった。

世界中で人が同時に消えて以来、どこの地域でも人が消えるようになったのだ。

そして、しばらく同じことが続くうちに、消えた人々には”脳もしくは脊髄に致命的な異常がある”という共通点が見受けられることが分かった。さらに、致命的な異常が発生したとしても、一週間程度は消えずに居ることも。

だが、なぜ消えるのか、消えた人間はどこへ行っているのか、戻ってくることはあるのか、その全てが謎に包まれている。世界中の、あらゆる分野の組織や学者が原因の究明に努め、俗説はビッグバンの如く瞬時に溢れた。だが、その中にこじつけや創作をする輩が紛れ込んだせいで、どんなにいい頭を捻って導き出した仮説も信憑性の低いオカルト話と化した。


さて。人口の多くを予告なく失った人類は焦った。

そして何故やら、今すぐにでも消えた分の”より”を合わせようと、世界中で空前のベビーブームが沸き起こった。また、それと共に老人たちの”ボケ”に対する意識が劇的に変わった。

”ボケは死に直結する”。消滅=死ではないものの、近所のボケた知り合いの老人が突如蒸発ともなれば次は我が身である。葬式を上げてもいいのかどうかさえ分からない結末などまっぴらごめんだ。そんなご老人方は熱狂的に健康にすがるようになり、追われるように急速に医療も発展していった。


しかし、一番に実を結んだのはサイボーグ化の技術であった。

というのも、同じようにこの世から消えたくないお金持ちの御老人様方があまりあまって半狂乱になり、莫大な資産を提供してエンジニア達の尻を叩いて完成を急がせたのだ。


そうやって永遠の命を得た富裕層であったが、その永遠は程なく潰えた。なぜか?答えは簡単である。”脳もしくは脊髄に致命的な異常がある”のが消滅の条件であるならば、サイボーグ化で脳だけになれば脊髄は何処へ?そのことに気づかず正常に作動していた機械の身体は、一週間後突如として機能しなくなった。そこには、脳みその入っていた部分だけスッカラカンになった人形があるだけである。

しかし、その消滅の定義は当時言われて間もない頃だ。思考も行動も正常に行えるはずの権威者たちが消えたことに対して世間のとった行動は、神の存在を疑い、信じ、祈ることだった。

特に、罪など文字でしか理解せず他人事のように笑っていた人間は、初めて拭い去れない罪が己の魂に刻み込まれていることを理解し、神の断罪の前でいかに自分の命が儚いかを悟って震え上がった。


そうして自首する犯罪者が増え、治安が良くなったと思うのも束の間、「神が不公平な富裕層に天罰を下したのだ」とカルト教団が鼻高々に叫んだ。当然”消滅者”の遺族やそれらの保護団体が「意思を持てず動けない人間がどうやって罪を冒せるというのか」と泣き叫び反論し冗談ではない争いを繰り返し治安が良くなるどころではなくなってしまった。


“中性”


”消滅”現象によって世界中が大混乱に見舞われた。そして、当然日本も例外ではなかった。各国が外交どころではないてんやわんやの中で、あるグループが小さな小さな改善策の芽を人知れず育てていた。

それは富山のすみっこで普段家庭常備薬を精製・販売しているだけの弱小化学グループ、名前をKDS。なんの略かはいまや知る由もない。

そんな小さなグループKDSによるいきなりの発表に世間は何事かと目を向けた。

粗末なビデオカメラで撮られた一歳児ほどの幼児。女のようでもあり、男のようでもある。

次の説明に、その動画を見たすべての人間が己の耳を疑った。

それは”中性”。

ゲノム編集されて生まれた、男女”どちらでもある”人間だというのだ。


当時は違法とされていた人体の遺伝子操作とクローン技術の応用に、KDSは強いバッシングを受けることになった。KDSの責任者は法律に基づき一千万円の罰金と十年の懲役を受け、監獄されることになったが、それでもなおKDSの研究員達は、研究施設内で普通の子供達のように楽しく遊び、学び、現在進行形で成長していく姿を公開し、必死に世間に訴えかけた。


「この子たちは皆、私達と何ら変わりはありません。まっとうに教育を受け、普通の生活さえしていれば普通のひとになれるのです。そして、男性女性どちらとでもお互いの子を残せるのです」


SNSを通じて彼らの訴えは全世界に広がり、彼ら研究員を称賛する人間も現れ始めた。

そして、彼らをを悪とするものと、人類の未来の為に禁忌と常識を打ち破り改善策を見出したとするものとで大きく二つに分かれた。


が、世論はじわじわと中性を受け入れる方へ動いていった。

それは、彼らを非難する側の”中性”に対する考えで、

「ただのクローンのモルモットであって人間ではない」とする者と

「犯罪者の我儘によって生まれた世間に居所のない被害者」とする者とで仲間割れを起こし盛り上がった為に、「済んだことで喧嘩している彼らはほっといて、一刻も早く中性をどう扱うか検討した方が建設的だよね」という考えが一般化したのであった。


その後KDSは政府によって解体に追い込まれたが、中性を放置することはできない。WHOの進言もあり厚生労働省が設立したのが特殊医療局だ。だが、KDSの後継という色が強く残っていたため、一般的にその公の機関はKDSと呼ばれるようになり、公でも通称を”KDS医療特務機関”とした。


KDS医療特務機関は中性子の健康の管理、研究を進めるとともに中性人口の増加を目標に中性のカプセル出産を行い、全世界へ養子として送り出した。ちなみに、カプセル出産はクローンでなく、一人ひとり違うDNAをもって産まれるように配慮されている。また、中性が生む子は中世に限られている。


希望者は主に異性に憧れる人々や同性愛者、不妊の家庭が多くを占めた。そこには、人口増加の為だけでなく、性に関する差別や意識の相違を解消するという希望もかけられていた。



ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律(ひとにかんするくろーんぎじゅつとうのきせいにかんするほうりつ、平成12年法律第146号)とは、2000年に公布された日本の法律である。特定胚を定義してその取扱いを適正に行うよう定めるとともに、クローン人間の作製を罰則をもって禁止する。


この法律では、クローン人間の作製に罰則を科して、これを禁じている。

(禁止行為)

第三条  何人も、人クローン胚、ヒト動物交雑胚、ヒト性融合胚又はヒト性集合胚を人又は動物の胎内に移植してはならない。

(罰則)

第十六条  第三条の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。


貼り付け元 <https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%92%E3%83%88%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%B3%E6%8A%80%E8%A1%93%E7%AD%89%E3%81%AE%E8%A6%8F%E5%88%B6%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B>


“機械人”


”消滅”現象によって新たに生まれたものは中性だけではない。KDSの騒動と同時期に、外国でも大きな革命が起きていた。

ドイツのとある民間企業が、人間の脳構造を忠実に再現したAIを作り上げていたのだ。

その名はGeist。精神を意味するベンチャー企業である。

その内容は、0歳から始まり、周りの環境によって真っ白いキャンバスに自我を形成してゆくAIだ。脳と脊髄の形をしたブレインとスパインと呼ばれる本体に人工ニューラルネットワークを搭載したアンドロイドが、自分自身に人権を求めたのである。


「私は生身の肉体こそ持たないが、普通の人間と同じように考え、想像し、発言して共有し、成長する。ならば、私もまた一人の人間として認められるべきだと思うのだ」


この発言がニュースに取り上げられるや否や、世界中の人間が驚き、感心して褒めたたえこそすれど、人権は認められないだろうと思った。何故なら結局それは機械で、生物ではないのだから。


しかし、そこに大声で異議を唱える人達がいた。

彼らはそのドイツの企業ガイストに、”念願の夢と浪漫が叶えられた”と称賛していた。

そして世界に訴えた。”生物ではないから無理なのか”と。


「彼らは感情を持ち、自力で生きてゆけるだけの能力を持っているというのに、機械だからと差別するのか。」


その発言は多くの倫理的な問題を巻き起こした。

「結局は人工物」だと言われれば「では人工授精は人間でないのか」と返され、「プログラムに基づいて行動しているだけ」と言われれば「ヒトの脳も緻密な命令の塊で出来ているに過ぎない」と返され。それこそ堂々巡りの議論に発展した。


一向に進まない議論をお偉いさんがしている間も、自我と意思を持った機械人間は世界に自身の存在権を訴え続けている。結果、実験的に一部の地域に彼ら”アンドロイド”専用の敷地を用意し、実際に普通の生活を送らせたらどうなるのか検証した。

また、その際に「”強いAI”と”弱いAI”の線引きを規格で定め、”強いAI”を持つ機械を”アンドロイド”と呼び、”弱いAI”を持つ機械を”ロボット”と呼び分ける」よう規定した。

そして一般に、”アンドロイド”のことを”機械人”と呼ぶようになった。


そうして実際に権利が与えられてしまえば、もう「やっぱダメ」などといって権利剥奪など出来ない。一部暴走したり故障したりといった問題も起きたが、人間だって犯罪を犯すし、病に罹る。それらの違いを明確にできない限り、一部の反対派も口を紡ぐより仕方なかった。どんどん機械人は市民に受け入れられるようになり、ついには「機械人をお宅のお子さんにしてみませんか?」などという事業が始まるようになった。


アンドロイドはロボットと違い、指令を遂行するだけではない。自力で思考し、判断して行動する力が備わっている。そして、人間とも違い、あちらこちらの情報に揺られ、進路が決まらないということも少ない。また、興味が向いたものに対しては一途に取り組む姿勢が強いため、どのような分野においても、好成績を残すことが多いのだ。


そのため、跡継ぎの問題が深刻な企業や医師などの家庭で、優秀でお家に忠実な跡継ぎとしてAIを育てたいという声が多く出たのだ。幼い時期のAIにお家の事業に興味を持たせることができたなら、後継問題が解決する上に経営まで安泰となるからだ。もっとも、一途すぎて他のことにはなかなか融通が利きにくいのが特徴でもあるのだが…。


そういった高所得層が機械人の需要を高めてくれたおかげで、大量生産が無事軌道に乗り、高いなりに比較的安定した価格でアンドロイドの素体を作れるようになった。


ちなみに、”機械人”として大量生産しているわけではなく、あくまで機械人の基礎となる機械の素体を大量生産しているだけである。そこに、機械人として身体を持てるまでに育ったブレインとスパインを搭載することで、造られた機体は初めてその機械人の身体の基礎となるのである。その基礎に様々なパーツを追加することで、十人十色の個性が備わってくる。


幼い思考しかできない状態で成人の身体を持ってしまうことは非常に危険であるため、思考が成熟しない間はリミッターとして小さく出力の少ない機体にAIを搭載せざるを得ない。

何度も機体を買い替えなければならない機械人は生きるだけでも相当なお金がかかるため、中所得者層までの普及は見られないと思われていた。だが、高所得者層で育った機械人が大人になるにつれ、不要になった幼年期のボディが中古で市場に出回るようになった。それにより、中所得者層にも機械人が育てられるようになり、より一層世間に機械人が普及し、また、差別問題も少なくなっていった。


”VsD”


中性や機械人が一般化していき、”消滅”現象が引き金となって起こった数々の問題が沈静化していく間にも、”消滅”現象が止むことはなかった。そして、その原因も何もかもが解明に至ることもなかった。だが、長い年月を経るごとに、その現象はもはや世界中の人間に浸透しつつあった。つまり、「人間、機械だろうと生身だろうと、寝たきりになれば消えるもんだ」といったような感じである。

そして、その”消滅”現象には 植物人間:Vegetative state消滅現象:Disappearance、略してVsDと呼ばれるようになった。


今では中性も機械人も同じように浸透し、道端を歩けば普通に見かけるようになった。

時代に追いついていないのは、政治と法律ぐらいのものである。



VsDが一般化した世の中では、今日も数多くの物語が紡がれている・・・・・。

はっじまーるよ~

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