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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第四章 神域開放
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94 理詰めの感情

 今日は殺人鬼も現れず、解散して明日の始業式に備えて眠ることになった。

 まあ、俺はまだ寝ないけど。こんなことをしているから朝起きれなくなる。


「フィール、まだ居るの?」

「んー? 折角だから、今日もアカリくんの部屋にお泊まりしていい?」

「駄目」

「えー」


 夏休みが終わる前にしておきたいことがある。

 まず試しに、フィールを抱き締めてみる。


「……? どうしたの? アカリくんからなんて」

「そういう日もあるよ」


 うん、大丈夫。

 なんともない。


「それじゃあ、おやすみフィール」

「はぁい。おやすみ、アカリくん」


 今ので機嫌が良くなったのか、フィールは素直に部屋を出て行った。

 まあ、俺はまだやることがあるから寝ないんだけどな。


 精神制御。

 これはフィールに対する感情を爆発させないために使い始めたものだ。

 俺は、俺から父やユユと過ごしていた世界を奪ったフィールのことが憎い。殺されたんだから、神の座の継承が無ければ殺し返してやりたいところだ。

 そう思っていた。


 でも、そこまでの殺意を抱き続けるのは難しい。時間とともに薄れてしまう感情だ。

 しかもフィールは俺へ好意的に接してくる。人の好き嫌いなんて、簡単に変わってしまう。好かれれば、多少であっても好意を持つものだろう。


 いつの間にか、フィールに対する殺意が薄れている。

 まあ俺も、いつまでも感情を制御して暮らしていこうなんて思っていなかった。溢れそうな感情を鎮めるための時間が欲しかったんだ。


 夏休みが終わる。キリもいいし、もう十分だろう。

 状態維持の範囲を通常に戻す。


――【範囲魔法】状態維持範囲拡張、解除。


 ……一瞬、頭の中がごちゃごちゃした。

 今まで押し込めてきた反動か、感情が溢れてくる。


 ああ、そうだ。


 ユユのところへ行かなきゃ。

 ユユの部屋は俺の部屋のすぐ隣。ノックをしたら、返事と共に扉が開いた。


「アカリ? どうしたの?」

「ちょっと、話がしたくて」


 本当はするつもりはなかったけど、でも、訊かないと。

 不安なんだ。


 フィールは俺に、『死神』を継いでほしいと思っている。

 ディーロ先輩に神の代替わりの話を聞いたときから、それは予想できていた。同時に、ある疑問も生まれていた。


 ユユはどうなのだろうかと。

 フィールと俺との関係が、ユユとの間にも成り立ってしまう。もし、ユユも代替わりを望んでいたら。そのために俺と一緒に居るのだとしたら、俺は……どうすればいい?


「俺は、ユユにとってどういう存在なんだ?」

「どういうって……家族のようなお友達、じゃない?」

「本当に、それだけ?」

「…………」


 言葉の意味を探るように、ユユは俺の顔をのぞき込んだ。

 そして、どういう結論に至ったのかは分からないけど、ユユは少し恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「アカリは、私の……私にとっての――王子様だから」

「……へ?」


 王子様? それってなに、ゼネ様のことじゃないよな。

 なんか、想定外の答えが返ってきたんだけど。


「だ、だって、アカリ、最初に私を庇って死んじゃったんだよっ」

「そんなこともあったけど……」


 ユユと初めて会った、俺が10歳くらいのときの話だ。

 ユユが信号の意味を知らないで赤信号を平気で渡る子だったから、飛び出したのを庇って1回目の死を迎えることになった。2回目と3回目はユユの居ないところでだったし、毎回ユユに何とかしてもらっていたからそれでユユに対して恨み言とかはない、ただ俺が馬鹿やって死んだだけの出来事。


「アカリは初めて私を守ってくれた人なの。自分の命より優先してくれるなんて、物語に出てくる王子様みたいって思ったのっ」


 そ、そんな風に思ってたんだ。

 でも、ユユはたぶん車に轢かれても死ななかったわけで、俺が庇ったのは無駄だったどころかユユに蘇生の面倒まで掛けたんだよな。あの出来事、俺の中では恥ずかしい思い出として処理されてたんだけど。


「ああー……うん、ありがと?」

「むぅ、いいもん。私がそう思ってるだけだから。アカリには関係ないもん」


 俺のことなのに俺には関係ないのか。

 ユユは、反応が良くなかったことに拗ねてしまったようで、話は終わりとばかりにベッドに入り布団に潜ってしまった。


「明かり消して」

「分かったよ……おやすみ、ユユ」

「……おやすみなさい」


 それでも返事をする辺り、機嫌を損ねても嫌われたりしていないのだと分かる。

 それにしても、気が抜けたな。結構緊張していたんだけど、拍子抜けもいいところだ。



=====



 自分の部屋に戻り、ようやく寝ようかと明かりを消したところで誰かが部屋に入ってきた。

 暗い中だけど、魔眼で夜目が利くお陰でそれがユユだとすぐに分かった。


「ユユ? もう寝るんじゃなかったの?」

「ここで寝るの」


 機嫌はもういいのかな?

 ユユは俺が許可を出す前に持ち込んだ枕を俺の頭の横に置くと、そのままベッドに潜り込んできた。


「アカリは、どうしてそんなに不安そうにしているの?」


 ……気付いていたのか。


「俺は今、結構楽しいんだ。皆と一緒にいろんなことをして。ユユと二人だったときも楽しかったけどね、でも、多くの人と関わって過ごすことがこんなに楽しいって知らなかった」

「……うん」

「だからその分、不安になるんだ。そのうち、誰かが離れてしまう。いつか皆が居なくなってしまうときは来るんだって。理由が無いんだよ。一緒に居る理由が」


 今は偶々俺達は出会って共にいる。だけど、それだけだ。

 ユユだってそうだ。出会ったのは偶々で、今では一緒に居るのが当たり前になったけど、どうしてと考えたら明確な理由は無く、気付いたらそうなっていただけ。

 俺には理由が無い。けど、皆は違うかもしれない。

 フィールは俺を『死神』の後継者にするために傍にいる。じゃあ、もし他に後継者が見付かったら? そのときは、フィールは俺から離れていくだろう。

 フィールは別にいいんだけど、他の人、リティやダイキにもそれぞれ理由があって、それが無くなったとしたら。


 ただの曖昧な不安。きっとこれは、俺が今まで人と接して来なかったからだと思う。

 急に手にしたものがいつ消えて無くなるか、無くした先ばかりを考えてしまう。

 それに俺は、寿命が無い。ずっと関係が続いても、別れは必ず来て、その後にも時間は続いていく。


「理由ならあるよ?」


 ユユは首を傾げて、悩む俺に対して不思議そうにそう言った。


「俺が昔、ユユを庇ったから?」

「それはきっかけだよっ。皆ね、アカリが好きだから一緒に居るの。好きな人とは一緒に居たいでしょ? それは、ちゃんとした理由だよ」

「好き?」


 好きって……どういう感情なんだ?

 フィールがあのときした、あれが好きってこと? あれが?


 いや、あれは違う。違う方の好きだ。付きあって、結婚して……あれ、フェルクが似たようなこと言っていたな? じゃあ合ってるのか?


 人の気持ちは難しい。俺には分からない。そこに理由があるって言うのなら、人の繋がりを理解なんてできないのかもな。


「私は、一人で寝るよりアカリと一緒の方が好きー」

「この時期は少し寝苦しくない?」

「平気だよ。それとね、私はいつまでもアカリと一緒だから」


 一緒の方が好き、か。そんな風に考えていれば十分なのかもしれないな。

 それに、ユユはこれから先も一緒に居てくれる。これだけは安心して信じられる。

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