8 謁見
朝、目を覚ます。
眠い。
まだまだ寝足りない。
でも毎回リティが起こしに来るまで寝ているのもなあ。
あまり迷惑をかけちゃいけない。
頑張って体を起こす。
更に頑張って立ち上がり、靴を履く。
意識が朦朧とする。
そうだ、目を覚ますために朝日を浴びよう。
ふらふらと窓へ近づいて開ける。
ああ、眩しい。でもなんか気持ちいい。
そよ風に吹かれ、陽の光に当たり、なんだか身体がふわふわしてきた。
瞬きをするたびに視界がぼやけていき、だんだんと瞼が落ちていく。
ぐらりと急に体が揺れ、気が付いたときには窓から身を投げ出していた。
「ぁあああああああああああああ――!ぐへっ」
叫びながら勢い良く落下する。
足、尻、背中、頭の順に地面にぶつかり、何とか意識は飛ばなかったが脳震盪を起こしたらしく意識が朦朧とする。
――【状態魔法】発動。状態を、復元。
体を魔力の光が覆い、掠れた視界に天使の羽根のようなものが映る。
だんだんと痛みが引いていき、意識もはっきりしてくる。
「ごほっ!はあ、はあ」
呼吸も回復して、ようやく人心地つく。
「アカリ!?」
「ちょっと!大丈夫かい!?」
リティと宿屋のおばちゃんが駆け寄ってくる。
「あ、ああ。なんとか」
体を起こして、足をぷらぷら。うん、大丈夫だな。
俺は二人に心配されながら宿屋に戻った。
=====
「どうして、落ちてきたの?」
「寝ぼけてて、気が付いたら落っこちてたんだ」
リティと朝食を食べながら事情を説明する。
事情っていっても、寝ぼけてたとしか言えないけど。
「もしかして、朝弱い?」
毎朝うつらうつらして、落ちたりぶつけたりしてるし、そりゃそう思うよな。
「凄く弱い」
といっても朝が弱かったのは前世の話だ。
生まれ変わったわけだし、体調とかも変化していると思ったがそんなことはなかった。
「起きる時間、遅くする?」
「うーん、俺午前中はずっとぼーっとしてること多いからなあ」
前世と変わらないとなると、俺は午前中はずっと寝ぼけていることだろう。
転生してからは毎回体をぶつけて目が覚めているが。
そういえば、この世界の日時は殆ど前世と変わらないらしい。
感覚ずれが起こらなくて非常に助かる。
リティと話していると、一人の男性が宿屋に入ってくるのが見えた。メガネだ。
男は宿屋のおばちゃんに話しかけた後、こっちを見て、そのまま近寄ってきた。
「失礼します。アカリ様で宜しいでしょうか」
「はい、そうですけど」
俺への客のようだ。
でもこんなメガネは知らん。
「私、国王様の使いとして参りました。メイガーと申します。アカリ様には先日の宝剣のことで、謝礼についてお話をしたく伺いました」
おお、宝剣のお礼か、待ってましたっ。思ったより早く来たな。
話の続きを促す。
装飾した言葉をつらつらと言われたが、要は王さま自らが直接お礼を言いたいとのこと。
あの宝剣、よっぽど大事だったんだな。俺がしたことなんてちょっとした情報提供くらいなのに。
流石に王さまのお呼び出しを断る度胸は俺には無い。
その話を受け入れる。
で、行けるなら今から向かうと言われ、リティに了承を貰い魔物狩りは今日はお休み。
王さまとの謁見に向かうことになった。
宿屋の前に止められていた馬車に乗り込む。
馬車は凄いお金が掛かってそうなもので、椅子がふかふかで気持ちいい。
そして馬車は王城へと進んで行った。
=====
王城へと到着して馬車から降りる。
外から見た王城は、ゴシック様式に近い、屋根のてっぺんが尖った外見をしている。
メガネさんの後に付いていって城の中に入る。
高そうな壺なんかを見ながら、奥へ進む。
両側に兵士が立った、一際大きな扉の前でメガネさんが止まる。此処が謁見の間みたいだ。
扉が開かれ、中に入る。
広い空間の先で王さまらしき人が座っている。
今更だが作法とか分かんねえ。
俺の中の知識だと途中まで歩いて跪けばいいと思うんだけど、それが正しいのか分かんないし途中ってどこまでよっていうところから既に躓いている。
と、メガネさんが歩き出した。これに付いていけばいいのかな。
メガネさんが立ち止まったところの一歩後ろで俺も立ち止まる。
メガネさんが跪いたんで、俺も同じように跪いて頭を垂れる。
「アカリ・ユミツキをお連れしました」
ああ、緊張する。
この後はどうすればいいんだろう。
ずっと頭下げたまま話を聞けばいいんだろうか。
「頭を上げよ」
言われたとおりにする。
それで王さまの姿を見ることになる。
40代くらいの貫禄あるおっさんだが、どこか顔色が良くないようにも見える。
そう言えば、国王様が臥せっていると冒険者ギルドの酒場のおっさんが言ってたっけ。まだ病み上がりなのかも。
王さまが口を開き、長々と話し始める。
内容は基本的にお礼の言葉。謝礼の話をしている時にも言葉の節々から感謝していることが読み取れた。
で、お金くれるという話(だと思う)をして終わる。
あ、何か返事しないと。
えーと、こういうときは。
「有難き幸せ」
これでいいはず!
ハッ、とかハハッ、とか付けたほうが良いかとも思ったが、あれは日本の武士とかがやっている印象と夢の国に住むネズミがやってる印象があって、まあ無くてもいいかなと考えた。
その後は、俺は何も言うこともなく退室となった。
あー終わった終わった。後は帰るだけだな。
そう思ったが、別室に案内された。
まだ何かあるのか!と警戒したが、謝礼をくれるということだった。
ああ、この場でくれるのね。謁見で今日やることは終わった気になって、勝手に後日だと思ってた。
向かい合って座ったメガネさんからお金が入った袋を渡される。
このメガネ、どんな役職なんだろ?
俺のお迎えから謁見の間への案内、中まで入るし謝礼の受け渡しまでしている。
俺みたいな一庶民の元へ迎えにくるから低い役職かと思ったけど、ここまで全部こなすとなると、逆に物凄く偉いという可能性もあるな。
まあ、応対する相手がころころ替わるよりはいい。
それに城勤めと関わることなんてそうそう無いだろうし、どっちだろうと変わらない。
雑談をするということも無いので、話が終わると出口に向かう。
メガネさんとお別れをして、王城を離れた。
宿屋まで徒歩か。結構遠いなー。
=====
宿屋に帰ってくる。
ちょうど昼時で、リティが昼食を食べに降りてきた。
一緒に食べながら話をする。
「それで、どうして呼ばれたの?」
「宝剣が盗まれたって騒ぎになってただろ?その宝剣の在処を偶然知ったから情報提供したんだよね。今日のはそのお礼だった」
「そんなことしてたんだ」
「よっぽど大事な宝剣だったみたいでね。まさか王さまに謁見するとは思わなかったよ」
おかげで緊張して疲れた。
「でも謝礼のお金を貰ったから、これで学園に入学する資金が貯まったよ」
「いくらくれたの?」
「金貨100枚」
リティが目を丸くする。
いや、渡されたときは俺も驚いたよ。
短剣見つけただけでこんなにくれるとは。日本円だと幾らくらいなんだろ。
そして宝剣の価値も気になる。何か特別な物なのかも。
「ご飯を食べたら早速入学手続きしに行ってくるよ」
「よかったね、入学」
入学金は金貨10枚。
入寮とか他にもお金は掛かるらしいが、それも気にする必要がなくなった。
かなり気分が良い。お金は人の心を豊かにする。
「リティは部屋に居たみたいだけど、さっきまで何してたんだ?」
そう聞くと、リティはポケットから何かを取り出して見せてきた。
それは細い金属が複雑に絡んで作られた花びらのチャームだった。
「【細工】の練習」
スキルの熟練度上げをしていたのか。
【細工】のスキルは練習程度だったら何処でもできるため、暇なときにやっているらしい。
それから【細工】でどんなものを作れるのか訊いて、昼食を終えた。