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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第四章 神域開放
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85 お見合い

「わたくしめは、影の中から見守ってますね」


 目的地の旅館に着くと、フェルクは俺の影の中に潜んだ。流石にお見合いに参加するつもりは無かったようだ。

 俺とフィールで旅館の中に入り、受付を済ませると案内を通される。


 ……眠い。

 やばいこれ、目蓋が勝手に落ちてくる。


 欠伸をこぼしていると、フィールに軽く小突かれた。いけない、今の俺は貴族の女性だから、はしたない真似はできない。

 部屋に着いて中に入ると、相手方は既に待っていたようだ。金髪をぴっちり七三分けにした男性と、同じく金髪の初老の女性。恐らくは公爵婦人とその息子だろう。


「おっ、お久しぶりです! この間はありがとうございました!」


 ピシッとした印象の男性だが、それ以上にガチガチに固まっている。人見知りなのか緊張しているようだ。

 それと、お久しぶり……? 会ったことあったっけ?


 ……ああ、パーティーで治療して回ったときか。この人のことは思い出せないけど、この縁談の話がきた流れを考えればそれしかない。

 誰か分からなかったことを誤魔化すように愛想笑いをして、軽く一礼。


「アカリ・ユミツキです。本日はよろしくお願いします」

「は、はいっ、私はエーリロイス・コックヴィと申します。こちらこそ、よ、よろしくっ」


 あははー、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。男同士気軽に行こうじゃないですか。まあ、縁談は断るんだけど。

 緊張しているのを見て逆に気が抜けて、にへらっと緩い感じで微笑んだ。貴族相手にこれではいけないと思っても、眠気で意識がふわふわしているせいで言動に移せなかった。


 公爵婦人とフィールも挨拶をして、差し障りない雑談からお見合いは始まった。

 とはいっても、俺とエーリロイスさんで共通した話題はあの王城パーティーでの一件くらいで、自然とそのときの話になる。


 戦闘から治療まで一部始終を見ていたようで、彼からの賞賛が尽きない。

 誉められて悪い気はしないのだが、女神のようだったとか、可憐でしたとか言われても正直微妙。愛想笑い愛想笑い。


 そして、俺が少しでも眠気を見せると、横に居るフィールが即座につねって起こしてくる。ナイスサポートだと思う。


 ずっと座って話すだけでは話題のネタが辛くなってくるため、頃合いを見て旅館の中庭へ移動する。

 専属の庭師が整えているという庭を観賞して、話が途切れて多少静かになっても気まずくならないようになった。リラックスできるし、よく考えられているな。


《アカリ! もしかしてもうお見合いに行ったの!?》


 ……どうやらユユが起きたようだ。念話もなんだか久しぶりだな。


「その最中」

《どこ!? 今行くっ》

「来られても困るんだけど……」


 ユユは俺のお見合いを嫌がってたからなぁ。今朝も付いてくるつもりだったようだけど、爆睡してたから放置してきた。


《ううっ、起こしてって言ったのにぃ……今行くからぁー!!》


 あ、念話切れた。

 ……これはマズイ。場所は教えてないが、もし此処に辿り着いて乗り込んできたら、今のユユでは何を仕出かすか分からない。


 無難に過ごして、後日お断りを入れればいいかと思っていたけど、これは早めに切り上げないとな……。


「ど、どうかしましたか?」

「いいえ?」

「それなら良いのですが、もし私に何か不手際があったのなら、遠慮なく仰ってくださいね」


 強いて言うなら、毎回話しかけるときにどもるとこかな。

 文句を言ってお断りする理由としては弱い。というか、そんな理由でいきなり振られたらだいぶショックだろう。


 ちなみに今回断るにあたって、王さまから一つ注意を受けている。

 男だとバラさないことだ。俺の情報を隠すために当然ではあるのだが、惚れている相手にそんなこと言われたらキレて何するか分かったものではない。フェルクのときはユミツキとして接した時間が短かったし、性別とか色々違ったので参考にはならない。

 諦めさせるには一番の理由何だけどな。


「……立ちっぱなしで少し疲れましたかね。そろそろ食事の用意もできているでしょうし、中へ戻りましょうか」

「はい、ありがとうございます」


 エーリロイスさんは俺が考え込んでいるのを見て疲れたと思ったのか、そう提案してきた。気遣いのできる男だと思う。ますます断り文句が思いつかない。

 人を振るとき、どうすればいいのだろうか。特に付き合ってくださいとか、その場で返答を求められるのと違って、一旦接してみてというのはどのタイミングで断ればいいのか分からない。


 ……食事が終わったら断ろう。


 食事中も差し障りない会話をする。

 対面で話しながらの分食事も遅くなり、笑みを顔に貼り付けて乗り切る。


《うぅ……ひっく……アカリー、どこぉー……》


 まさかの泣きながらの念話が届いてきた。

 どうやら場所が分からなかったようだけど……泣く? どうしよう申し訳なくなってきた。


 ……ちょっと、お花を摘んできます。


 緊急避難場所であるトイレに避難して――あ、今女の姿だった。……やむを得ない事情だし仕方がない。


「ユユ、泣かないでよ。適当に流して断るだけなんだからさ」

《だってぇ……起きたら誰も居ないし、どこ探しても居ないし、不安だったんだもん……》

「置いていったのは悪かったよ。もうすぐ戻るからさ、家で休んで待ってて?」

《……うん》


 ユユを宥めて、トイレを出る。

 ……さて、さっさと断って帰らないとな。


 一方的に断るにしても、食い下がられないための理由が必要だ。

 今のところ、エーリロイスさんの悪いところなんて殆どない。お見合い中に悪い姿を見せるとは思えないし、これは当然断る理由に使えない。

 それでも断るとすると……理想との違いかな。


 食事を終えて、一息ついたところで遂に切り出す。


「エーリロイス様、本日はとても楽しかったです」

「それは良かった」

「でも、すみませんが、今回のお話はお断りさせてください」


 回りくどく言っても可哀想なので、ここは最初に伝えておく。

 エーリロイスさんはショックを受けたようだったけど、一呼吸置いて、持ち直した。


「……理由を、伺ってもよろしいでしょうか?」

「はい、私がそれなりに戦えるのはご存知ですよね」

「それは勿論。王城での戦闘では、ずっとあなたの姿から目が離せませんでしたから」

「それでですね、そんな私でも守ってくれるような、自分より強い方を求めているのです」


 私の理想は高いのよ作戦。私……強い殿方がいいの……を発動!


「……私では、敵わないと」

「残念ながら」


 この人、見るからに気弱な文官系だからね。


「逆に言えば、あなたに勝てば認めてくれるということでしょうか」

「え?」

「あなたに怪我があってはと心苦しいのですが、あなたのお眼鏡に適うためです。仕方ありません」

「え……?」

「アカリ様、私と手合わせをお願いします」


 ……誰だこの作戦考えたの。作戦参謀ー。……ごめんなさい。

 アカリは判断を誤った。……帰宅が遠ざかった。

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