83 追及
「あー……では、これよりアカリ・ユミツキ名誉伯爵への質疑応答を始めます」
状況が混乱してきたところで一度ストップが掛かり、順番に聞いていくことになった。
ちなみに司会はダイキ。
「はい」
「スーロメルト姫様、どうぞ」
「先程の百年早いというのはどういう意味なの?」
ユユが言っていたことだな。俺じゃなくユユに訊いてほしいところだ。
「……私は不老なので、その点を考慮してのことでしょう」
あ、敬語の必要はなかったか。ダイキにつられてしまった。
「不老って……歳を取らないってこと?」
「俺のスキルには性別や年齢を変えることができるものがある。これの常時効果で年齢が変わらないんだ」
状態変化を使えば歳を取ってみせることもできるけど。
……はい、誤魔化すのは諦めました。この場に居るのは王族とダイキくらいだから、ここである程度バラしてもそこまで問題は無いだろうという判断だ。
正直に全部話した方が楽だということもある。
「え、じゃあ、アカリの実年齢はどれくらいなの?」
「ステータス上は0歳」
「へ?」
「……どういうことかしら?」
「これには複雑な事情があって……まあ、一言で言うとすると、ユユのせい」
「…………ごめーん」
ユユは気まずそうに視線を逸らして、軽く謝ってくる。いや、今更だし別にいいけどさ。
「アカリ君、私達にも分かるように説明してくれるかしら?」
「えっとですね、俺が産まれるときにちょっとした事故がありまして、その対応のためにスキルを使って今の姿まで成長したんです」
「つまり、本来のアカリ君は、まだ赤ん坊ということ?」
「そうですね」
……というか、状態維持の効果が赤ん坊のときにもあったのなら、俺はずっと赤ん坊のままだったのか? 何その欠陥スキル……。
「……そのスキルを使うと、精神面にも変化はあるのだろうか?」
「いいえ、肉体を変化させただけでは精神面に変化はないですよ」
使おうと思えば精神にも影響があるけど。実際、今も精神制御に【状態魔法】を使っているし。
「だが、それだとアカリ君は、生まれてすぐに考えてスキルを使ったということになるが?」
「その通りです」
まあ、その通りだと言われても普通は納得しないだろう。
俺が1から説明していくのは骨だな。
「ダイキ、俺のステータスを教えてくれ」
「いいのか?」
「その方が楽だしな。スキルの詳細が分かるわけでもないし大丈夫だろ」
「分かった。それなら俺のスキルに鑑定結果を開示できるものがある。それで見せるぞ」
名前 アカリ・ユミツキ
LV 19
種族 人族
年齢 0
性別 男
【スキル】
状態魔法4
空間魔法4
範囲魔法3
瞳の魔眼3
火魔法2
水魔法2
結晶術2
【加護】
死神の誘い
空間神の加護
空間神の寵愛
死神の加護
【称号】
転生者
祝福されし者
死を招く者
現在のステータスを全員が見えるようにしてもらった。
称号で大体のことを察してくれると助かる。
「特殊スキルが4つに、加護が4つ、称号が3つか……」
「同じ神様から2つずつ加護を授かっているのだけど……」
「物騒な単語が多いわね……」
そういえば、ステータスを見せるのはユユとダイキ以外で初めてか。ダイキは勝手に見たんだけど。
「アカリ君、特殊スキルを複数持っているとは思っていたが、まさか4つもあるとは……」
「1つでも一騎当千、2つもあれば英雄格と言われているのに……」
「え、そうなんですか?」
「ええ、こんなの聞いたことがないわ」
「『勇者』の俺でも2つだからな」
そう言われてみると4つって相当だな……。今まで全く気にしてなかった。
まあ、それは置いておいて、今は称号の方を見てほしい。
「称号を見てください」
「死を招く者……?」
「それは無視で大丈夫です」
フィールが耳元で「招かれちゃった」と囁き掛けてきたけど、無視。招いてないよ。
「俺はとある神様に祝福されて転生してるんです。二度目の人生なんですよ、今は」
生まれ変わったといっても、俺自身にそこまで変化はないけどね。
「『転生者』……過去にも同じ称号の者が実在した記録がある。生まれたときには既に自我があったということか……」
へぇ、転生者って他にも居たんだ。だったらそこまで隠さなくてもよかったかもな。
「つまり、そういうことです」
「……どういうことなの?」
「前世の記憶持ち、ということだな」
王さまの言うとおりです。
俺が生まれてすぐに行動できた理由はそれで説明できるはずだ。
次の質問に移ろうとすると、部屋に人が入ってきた。使用人?
どうやら来客が来たらしく、王さまはこの場所に来るように言った。
「ユミちゃんが来ていると聞きました」
来客はフェルクディだった。
ユミちゃんって俺の女バージョンのことだよな……。今は居ないよ?
「ユミちゃん?」
それを知らない姫さまが首を傾げ――、
「ユミツキちゃんのことです」
――そう聞いて、俺の方を見た。
今度はフェルクが首を傾げる。
「これは?」
「ああ、それはユミツキ名誉伯爵に対する縁談の申し入れだな」
フェルクはテーブルに載っていたお見合い写真について訊くと、王さまがそう答えた。
ますます首を傾げる。
「それで、そのユミツキ名誉伯爵ちゃんは?」
どうするかなぁ……?
事情を掴めない姫さまは頭の上に疑問符を浮かべ、王さまやゼネ様は感づいて静かにしている。
さっきからずっと背後から俺の首に腕を回しているフィールは「呼ばれてるよ?」と、またも囁いてくる。そしてそれが、フェルクの耳に入った。……耳、良いのね。
「アカリさん……?」
「あ、はい」
「そういえば、ユミちゃんの名前、アカリ・ユミツキ名誉伯爵になっていたですね……お名前、もう一度お伺いしちゃってもいいですか?」
フルネームを名乗った覚えはないけど、爵位を貰ったことで知られてたか。
「……アカリ・ユミツキです」
「…………どういうこと?」
うん、これはもうバレたと言っていいだろう。性別が違うから同姓同名とか言って誤魔化せる気もするが、そこまで必死に隠していたら俺とフェルクの関係は嘘偽りに塗れてしまう。勘違いを正さなかったというか、故意的に別人と思わせた時点でアレだけど。
――【状態魔法】状態変化、性別を男から女へ。
白い羽根が舞い散った後には、俺の姿は女のものに変わっていた。
「…………ちょっと、考える時間がほしいです……」
それからフェルクが復活したのは、10分ほど後になった。
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「わたくしめ、男性が苦手なんです。それはもう、触れられただけで体調が悪くなっちゃうこともあります。でも、アカリさんにはあんまり嫌悪感がなかったんですよ。それで、考えました」
「……何を?」
「可愛い女の子になれる男の人って、もしかしたら最高なのではないですかね」
……随分良い方に持って行ったなー。
いや、嫌われるよりいいんだけどさ。
「だってですよ! 女の子ばっかり追いかけていると周りから良い顔されないですし、わたくしめもこれで一国の王族だったりするものですから、男嫌いだといろいろ不都合があって! 婚姻とか! 男だけど女の子で女の子だけど男にもなれるならもうそれでいいんじゃないかって思いまして!」
「お、落ち着いて」
「はあっはあっ……とにかく、そういうことですので」
フェルクは、俺のことを受け入れてくれるようだった。いろいろ混乱があったようだけど。
「さて、ユミちゃんの縁談ですか。それは聞き捨てならないです」
あ、もう切り替えたのね。
というか、そうだよ。元々は縁談をどうするかという話だったじゃないか。それがなんでステータスを開示することになっているんだ。脱線しすぎだな。
「今のところ大体は断るけど、一つだけ、話を聞くということになっているな」
話が変わって、これ幸いとダイキが現状を説明する。俺の事情に詳しいユユやダイキはさっきから居づらそうにしていたからな。フィールは茶化してくるし。
「ユミちゃんって、お相手を探してるんですか? それならわたくしめも立候補しちゃいますよ」
「今のところ考えていないな」
……え? 立候補するの?
いや、ここで突っ込むのはやめよう。とにかく話を終わらせたい。
「そういうわけで王さま、縁談の話、任せてもいいですか?」
「ああ、君らが直接連絡を取り合うのは避けたいところだ。任されよう」
「ありがとうございます……では、今日のところは失礼します!」
これ以上面倒なことになる前に、ユユとフィールを連れて逃げるように退室した。ダイキは知らん。
ああ、そうだ。性別を元に戻さないと。




