78 報告
数日ウトレレの街をぶらぶらしてから、空間転移でイトラースにある家に戻ってきた。
たくさん余っている部屋をユユとフィールに使わせて4人暮らしになったことを除けば、いつも通りの日常だ。まだ夏休みで学園が無いけど。
さて、戻ってきたところで報告をちゃんとすべき相手がいる。ディーロ先輩だ。
先輩には神域への転移でお世話になっているから、早い内に結果を報告しないと。
というわけで、やってきました。
「ディーロ先輩居ますか?」
学園の研究室の一つ。完全に私物化しているらしく、暇なときは大体此処に居ると聞いている。
そして今日も、暇を持て余した神様は在室していたようだ。
「ああ、アカリ君帰ってきたんだ?」
のんびりと扉から顔を見せたディーロ先輩だが、俺の後ろを見た瞬間顔を引きつらせた。あっ、やっぱり分かるのかな?
「その子達は?」
「はい、こっちが『空間神』のユユ、こっちは『死神』のフィールです」
「へぇ……『空間神』は予め聞いていたけど、『死神』まで連れてくるとは思わなかったよ……」
聞いてねえよ、と。……すみません。
フィールはお邪魔みたいですね。置いてこようかな。
「フィール、先帰ってて?」
「えー」
さり気なく肩に手を置いて……【範囲魔法】接触指定、空間転移!
有無を言わさず、フィールは姿を消した。転移先は自宅。
……これいいな。フィールが居て都合が悪いときは利用しよう。
「よかったの? それ、僕が後から仕返しされるってことはないよね? 痛いのは嫌なんだけど」
「大丈夫だと思いますよ。というか、一方的にやられる展開になるんですか?」
「僕の力って、この世界に縛られていない神には無力なんだよね……」
「あー……」
時を動かす能力の範囲は、この世界だけだったな。
「取り敢えずそこは置いておくとして、お茶を出すから中に入って」
言われて中に入る。前回来たときは魔法陣の研究で資料が散らばっていたけど、今日は片付けられていて綺麗な状態だった。
ディーロ先輩は、私物らしきティーセットを取り出して手際よく紅茶を用意してテーブルに置いた。
「彼女を連れてきたということは成功したんだね」
ディーロ先輩はユユを見ながらそう切り出す。
「お陰様で」
「結局、連絡ができなかった原因はなんだったのかな」
「どうやら、フィールを空間に隔離するのに力を使っていたらしいです」
ユユから聞いた話によると、ユユは俺が転生して割と早い段階でフィールを捕獲していたという。それからはフィールを繋ぎ止めるのに力を使っていたけど、『邪神』との攻防で俺に干渉したときに力の均衡が崩れ、俺と念話する余裕が無くなってしまったらしい。
だからユユの神域にフィールが居たわけだ。
ちなみに、ユユがフィールを捕獲したのは盗賊事件のとき。あのとき『死神』の気配が強まり、フィールを見つけ出したという。
「ユユが『死神』を抑えていてくれたんですよ」
「えっへへ~」
手の置きやすい場所にあった頭を撫でると、ユユはふにゃけた表情で声を漏らした。
ユユ、毎日俺と念話して、話していないときも様子を見ていたらしいから相当暇なんだろうなと思っていたけど、ずっと『死神』を抑えてくれていたんだ。暇神だと思っていてごめん。
「なるほどね。それで今両方がアカリ君の傍に居るってことは、抑える必要が無くなったのかな」
「いや、抑えきれなくなったのもあるんですけど、今ではフィールの目的も分かったので取り敢えず危険は無いと思います」
「目的……?」
「ディーロ先輩なら分かるんじゃないですか? フィールが俺に執着する理由」
「……ああ、あの子も元は人だったんだね」
……ん?
何が言いたいのか分からなかったけど、まあ、納得したと言うことだろう。
「アカリ君、時間はまだ大丈夫かな」
「はい、今日は他に用事も無いですよ」
「それなら良かった。神域に繋ぐ魔法陣、詳しく聞かせてほしいんだ」
研究者として気になるところなのだろう。
あの時使用した魔法陣の下書きを広げ、それを見ながらどのように機能したのかを話す。俺としては【結晶術】の羽根が道を造ったのは想定外で面白かった。それはディーロ先輩も同じだったようで、だんだん話題が俺の魔力結晶の性質についてに変わっていった。
ユユは話の途中で飽きたため、今は折り紙を折っている。俺とディーロ先輩もそれに付き合って折り紙を作りながら話を進めている。
「それで原因は分からないんですけど、あれ以来羽根の色が変わったんですよね」
折角だから羽根が黒くなったことについて訊いてみた。
「確かに、加護の影響はあるかもしれないね。魔力結晶は色にも性質が出てくるものだし」
「俺、魔力の性質が変わったんですか?」
「うーん……完全に色が変わったわけじゃないみたいだからねえ……。新しいものが加わった変化だけでなく、元々の性質が結晶に現れるようになったというのも考えられるね」
その後もいろいろ考察してみたけど、幾つもの推論が並んで、結論が出ることはなかった。
まあ、魔力結晶がどうして羽根の形状なのかもいまいち分かってないしな。
「お話終わった~?」
テーブルの上にあったお菓子を食べ終わり、折り紙に飽きたユユが突っ伏しながら口を開いた。完全に退屈してしまったようだ。
こういう議論はやってる側は楽しいけど、話に入れない人はただただ暇なものだ。ユユならそれなりに知識があるだろうから大丈夫かと思ったけど、つまらなかったようですぐに折り紙を始めていたからな。
「それじゃあ切りの良いところだし、お開きにしようか」
「長居してすいません」
「いや、大歓迎だったよ。そうだ、イトラースに戻ってきたのなら料理はどうする? 僕はいつでもいいけど」
「俺もいつからでも再開できます。あ、うちの館、人数が増えたのでその分の料理もお願いします」
「その子と死神の子だね。了解、近いうちに伺うよ」
話が終わり席を立つと、ユユは解放されたとばかりに伸びをした。待たせてごめんね。
研究室を出て、そのまま学園を出る。この後は用事もないし、まっすぐ帰ってもいいけど……。
「どこかで遊んでからにしようよっ」
「まあ帰っても暇だしな。どこ行こうか」
「遊べるようなところないの?」
無いんだよね、これが。
平民は皆、生きるための稼ぎで必死。遊ぶためだけの店なんて無い。
……いや、そうとも言い切れないか。
「賭博場は、一応遊ぶところではあるかな」
「賭け事はつまんない。すぐ負けるもん」
ユユはすぐ顔に出るし、読み合いも下手だからね。
他に遊技場なんてあったかなぁ……貴族街なら何かしらあるかも。貧乏暇なしでも、貴族なら優雅に遊ぶ余裕があるだろう。
「試しに貴族街入ってみようか」
「入って大丈夫なの?」
「身なりさえ整えておけば普通に通れるよ」
「この格好は?」
俺は普段通りの私服。平民のものだが、結構良い生地使ってる。
ユユは白いワンピース。こちらもいつも通り。この世界のものではない。
「……どうだろ?」
俺は王城に何度か行ってるけど、特に何か言われたりしなかったな。
でもそれは、ただ通っただけだからかもしれない。やっぱり、店に入るならそれなりに良い服着とこうかな?
「貴族街入ってすぐに服を買おう。それなら大丈夫でしょ」
「そうだねっ」
最初の目的地が決まり、俺達は貴族街へと繰り出した。




