7 運搬
宿屋には既にリティが戻っていたので一緒に晩御飯を食べる。
話の話題は学園についてだ。
「入学の手続きって何をするの?」
「身分証明をして、お金払って、あとは入寮手続きもした」
「身分証明ってどうすればできるのかな」
「紙に必要なことを書いて、血判するだけ」
「じゃあ取り敢えず、金さえ持っていけば手続きはできるのか」
「一般人はそう。貴族だと、推薦状とかいろいろ大変だって聞いた」
どうやら学園に入る条件は結構緩いみたいだ。
ただ、貴族はいろいろと下準備が必要らしい。
そこら辺は便宜とか大人の事情が多々あるのだろう。
食事を終えて部屋に戻る。
体を拭いたら服を手で洗い、部屋の中で干す。気温はそれなりに暖かいから朝には乾くだろう。
服が一着しか無いため、全裸で毛布に包まれる。
そう言えば今日はユユと話してなかったなあ。
今日はいろいろ動き回っていたし、ユユのほうから話しかけて来なかったからな。
昨日はずっと俺の様子を見ていたようだけど、そんな常に暇してはいないだろうし今日は様子を見に来なかったのかもしれない。
でも取り敢えず呼んでみる。
「ユユ、ユユ―」
《呼んだ?》
即行で返事が返ってきた。
「ユユって常に俺の様子を見てるの?」
《そんなことないよ? 私だって寝るし》
「寝てるとき以外は?」
《常にではないけど、結構頻繁に様子を見てるかな》
え? ホント神様って暇なの?
どうやら俺はかなりの頻度で神様に見守られて生活しているようだ。
「その割に今日は話しかけて来なかったな」
《まあ、誰かといるときは返事できないだろうし、今日は忙しそうだったからね》
気を使ってたのか。
まあ、確かにユユの声は俺にしか聞こえないから人前で下手に返事できないしな。
それから今日のことについて話をする。
「あのダークエルフ捕まったかなあ」
《ダークエルフってスペック高いからあの衛兵じゃ難しいと思う》
「種族によってそんなに違いがあるの?」
《エルフは魔力の扱いが上手くて、精霊との親和性も高いの。中でもダークエルフは強力な闇属性の魔法が使えるから結構強いんだよ》
「精霊って?」
《肉体を持たない魔力の塊のような存在で、上位の存在は人格があってひとに加護を与えたりするんだよ》
会って気に入られたら加護を貰えるのかな。
そもそもどうすれば会えるのか分からないけど。
《魔力が集まるパワースポットに行けばたぶん会えるよ。あとは普段は姿を消してるから、気に入ったひとの前にしか姿を見せないかな》
どうすれば気に入られるか分からないし、会えるかどうかは殆ど運みたいなものか。
だいぶ眠くなったため、今日はもう休むことにする。
「おやすみ」
《おやすみー》
=====
朝、目が覚める。
だけどまだ意識がはっきりしない。
眠い。
ドアをノックする音が聞こえてくる。
「アカリ、起きてる?」
リティが来たようだ。
頑張って起き上がり、扉を開けようとしたところで今全裸だと気づく。
あぶねー。
「ちょっと待ってて」
干してある服を取り、すぐに服を着る。
ゴンッ
ズボンを履くときにふらついて壁に頭をぶつける。
「い、痛い」
着替え終わり、頭をさすりながら部屋を出る。
「? だいじょうぶ?」
リティが首を傾げながら訊いてくる。
大丈夫と返事をして下へ降りる。
階段は特に注意して降りた。
=====
今日はウルフを狩る。
昨日と同じように門へ向かうと、昨日ほどではないが人が列を作っていたので俺達も並ぶ。
列はすぐに進み、順番が回ってくる。
ギルドカードを見せて問題なく通過。
俺達は軽く見られただけだけど、門番は門を出る人の顔を観察しているようだった。
もしかしたらダークエルフに注意しているのかもしれない。
あのダークエルフはフードを被っていたが、多少は顔が見えていたし俺も衛兵さんには特徴を伝えていたからあいつが捕まっていないなら指名手配されているだろう。
まあ、逃げ出したのなら素直に姿を見せはしないだろうし気にしてもしょうがないか。
門を出た後は、森へ入り昨日より奥へと進んで行く。
進む途中、ゴブリンが出てきたけど瞬殺した。耳はきちんと回収する。
しばらく歩くがゴブリンと比べてなかなか見つからない。
ちょくちょく出てくるゴブリンを狩りながら進んで、ようやくウルフが4匹出てきた。
――【瞳の魔眼】発動!視力を奪う。
まずは1匹。
さらにもう1匹に魔眼を使ったところで残りの2匹が襲い掛かってくる。
リティが一歩前に出て、槌でウルフを叩き飛ばす。
吹っ飛んだウルフがもう1匹にぶつかり、2匹とも倒れる。
叩かれたほうは既に絶命していて、ぶつかったほうもすぐにリティが頭を叩いて止めを刺す。
すげえパワフル。ウルフが可哀そうなくらいだった。
俺のほうも立ち止まって暴れる2匹のウルフの隙を見て脳天にナイフを刺した。
「これこのままギルドに持ってけばいいのか?」
「その前に、血抜きする」
リティに軽く教わりながら血抜きを済ませる。
その後、2匹ずつ担いで戻ることにする。
リティは2匹を軽々と持ち上げる。
俺も持とうとしたが、かなり重い。
1匹持ったところでもう1匹を担ぐ動作ができない。
結局リティに手伝ってもらって、両肩に乗せてもらった。
のろのろと来た道を戻る。
リティは坦々と歩いているが、非力な0歳児であるところの俺にはかなりきつい。
考えてみれば見た目はどうであれ、俺のほうが年下なのよな。俺が若すぎるんだけども。
まだ生後3日くらいだし。洞窟に居た時間が正確には分からないが。
でも前世の記憶もあるから今の精神年齢と肉体年齢は一致している。
前方にゴブリン発見。
このタイミングで来てほしくなかった。
ゴブリンとの今のところのエンカウント率からして、帰りに出会わないほうが難しいけど。
ゴブリンを倒すには一度ウルフを降ろす必要がある。
だけど今の俺には背負いなおすのも一苦労だ。
それに今の背負い方がベストなんだ。一度降ろしたらまたこの安定した持ち方にできる気がしない。
「ゴブリンは魔眼で視界を奪って避けていかないか?」
というわけでリティに提案する。
逃げの一手。
「わかった」
了承を貰ったのでゴブリンが気付いてこちらを向いたときに魔眼発動。
2匹居たけど問題なく行動不能にする。
「よし、行こうか」
ゴブリンを避けて歩みを再開する。
何とか森を抜けて門まで戻ってきた。
ギルドカードを見せろと言われるが両手が塞がっている。
ウルフを降ろすわけにもいかないしと困っていたらリティがあっさりウルフを降ろしてギルドカードを出す。
そして俺のギルドカードも革袋から出してくれた。
門を抜けて、冒険者ギルドへ向かう。
足がぷるぷるしてる。肩も限界が近い。
なんとか冒険者ギルドへ辿り着き、扉を開ける。リティが。
ウルフを素材提出用の受付に渡してようやく重荷から解放される。
実は途中からちょくちょく【状態魔法】を使って疲労から回復していたんだけど、それでもかなりきつかった。
査定が終わり、金を受け取る。ウルフが1匹につき銀貨4枚、行きに狩ったゴブリンが8匹で合計銀貨16枚と銅貨16枚。
1匹につき銀貨4枚か。利用できる部分が多いだけあって耳だけ持ってくるゴブリンとは比べ物にならないな。
リティと山分けして、そのまま昼食を食べたらギルドを出る。
「俺はこのあと服を買いに行くけど、リティはどうする?」
「ついていく」
というわけで服屋に向かう。
流石に1着だけじゃきついと思ったのだ。寝るとき全裸になるしかなくなる。
店の場所は昨日ダークエルフの家を探したときに幾つか見かけたから何となく分かる。
服屋に着いて、さっそく服を探す。
値段重視で決めたら今着ている服と同じようなものとなった。
シャツ、ズボン、下着を各2着ずつ購入。合計銀貨2枚と銅貨3枚。
リティは見るだけで買わなかった。
=====
宿に戻ってリティと別れる。
晩飯までの半端な時間を持て余す。
「ユユ―」
《なあにー?》
暇なんで神様に相手をしてもらう。
「軽く流してたけど、普通に言葉が通じるのはどうしてなの?」
《あーそれはねー、使ってる言語が同じだからだよ》
「え? 異世界言語って日本語なの?」
《そうだよー》
てっきりユユが言語関係は何とかしてくれたのかと思っていたが、そのまんま知ってる言葉だったのか。
《この世界を創るときに一番頑張ってた神が日本語を使っててね、その影響でこの世界の言語は日本語なの》
「一番ってことは他にもいっぱい神様がいるの?」
『空間神』とか『死神』とかあるから複数存在するのは分かってたけど。
《世界を創るには多くの神が協力する必要があるの。この世界はまだそこまで安定していないからたくさんの神が今もその力を世界の維持に使ってるんだよ》
「神様そんなに頑張ってたのか。いつも遊んでるユユしか見たことないから暇なのかと疑ってたよ」
《私も頑張ってるよ! ただ、普段そこまで意識しなくても維持できるから他のことも一緒にできるだけなの》
その後も晩飯の時間までユユと話をした。
晩飯を食べ終わったら体を拭いて服を洗って干した後、疲れたので早いけど眠ることにした。
「おやすー」
《おやすみー》