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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第四章 神域開放
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76 対話

 リティと共にユユのところへたどり着いた。

 そこではユユが【空間魔法】のボックスに籠もり、ごろつき集団に囲まれながらフィールに煽られていた。


「そこから出なさいよ引きこもり~」

「フィールこそ、そんな大人数でなんて卑怯っ!」


 ……状況が膠着して、結局いつもの口論になっているな。

 取り敢えず、フィールに近寄ってその頭を手刀で叩いた。


「いたっ。あ、アカリくん来たのね」


 フィールは振り返ると同時に嬉しそうに顔を綻ばせる。

 その姿には全然緊張感が無くて、思わず脱力してしまう。


「はぁ、何してるんだよ」

「ふふ、ユユちゃんを困らせたくて」

「それだけ?」

「殺せたら楽だとは思ったけどね」


 フィールは隠すでもなく、あっさりと殺意を暴露した。

 再び手刀を頭に落とす。そのときまた魔力結晶の羽根が舞い、その色はやはり黒かった。


「ほら、さっさと解散させて。終わり終わり」

「ちぇ」


 フィールが解散を告げると、ごろつき集団は逃げるようにこの場から居なくなった。どうやって従えてたのか知らないけど、脅されでもしていたのかな?

 その後、騒ぎが広まってきたために慌ててその場を離れ、そのまま宿へと帰ることになった。



=====



 【結晶術】で羽根を生み出す。色は白かったり黒かったりだ。

 いろいろと試してみたけど、その原因は分からなかった。


 やっぱりフィールのせいか? あ、また黒だ。

 あーもやもやする。まだ感情が安定しきっていないのかな。


 ……もう少し強めておくか。

 体に魔力を巡らし、【範囲魔法】で指定を行う。


――【状態魔法】拡張、状態維持。効力を上げて再発動。


 思考、感情を維持。

 必要以上に感情を動かさない。


 ふぅ、これで大丈夫だろ。

 フィールが来てから掛けていた感情制御を更に強くした。今日はこれのせいで普段と違う判断をすることもあったけど、感情的になったらそれ以上にやらかす可能性が高いからな。


 あーでも、考えてみればヤンキーに絡まれたとき範囲の凝縮魔法を撃とうとしたのは失敗だった。あんな当たれば手足が飛ぶ魔法をリティの前で使うなんて。そんな過剰防衛、リティが許すはずないのに。

 針の出る指輪も何も考えず買ったけど、血の魔法陣は便利だと思ってたけど余程のことが無い限り使うつもりの無い手段だ。リティに余計な心配させるだけなのに、わざわざそれに備える必要は無い。


 普段意識していたことが抜けている。今後は気を付けないといけないな。


 反省終了。今日はもう風呂入って寝よう。

 湯船に浸かり、ゆっくり寛ぐ。けれど、少ししたら扉をノックされた。


「アカリくん、居る?」

「入ってまーす」

「なら、私も入るね」


 ……え?

 何か言う前に、フィールは浴室の中に入ってきた。ノックする前に脱いでいたようで、既に何も身に着けていない。


 フィールはバスチェアに座ると、シャワーで体を流し始める。

 位置関係は湯船の中の俺と出口の扉の間にフィールが居る。つまり、出られない。


 ……こんなときに言うべき言葉が見つからない。性別が逆なら悲鳴でも上げればいいんだろうけど。


「……」

「……」


 フィールがシャワーを止め、シャンプーで髪を洗い始める。

 ……なんでフィールまで無言なんだよ。本当に何しに来た?


 やがて、全身を洗い終わったフィールは立ち上がると、俺と同じように湯船に浸かった……俺の正面に。しかも向かい合って。

 風呂の中はそんなに広くないため、この体勢ではどうしても足が触れ合う。そんな至近距離で、フィールはただ俺の顔を見つめていた。


「……で、何の用?」


 静けさに耐えられず、俺の方が先に痺れを切らして口を開く。


「うん、2人でお話したいなと思って」

「その割に無言だったけど」

「アカリくんとお風呂入ってたら、もうそれが目的でもいい気がしてきてねぇ」


 なんだそれ?


「……結局、何を言いに来たの」

「私というより、アカリくんは何も無いの? 私に訊きたいこと」

「……勿論ある」


 フィールは今まで散々苦労していた『死神』本人様だ。訊きたい疑問は山ほどある。

 本当はもっと早く訊きたかったが、二人きりになれなかったからな。それを分かっててフィールのほうから来てくれたというわけか。

 そういえば、ユユにもまだ音信不通になった理由を訊けていないな。


「何でも訊いてね」

「じゃあ……前世で俺が死んだのは、お前のせいか?」


 車を避けた先で轢かれた後に潰された。

 あの不幸では済まされないくらい不運な最期。それ以前にもユユに助けてもらった、本当なら死んでいた事が何度かある。

 転生直後、ステータスに『死神』の加護が付いていた段階で予想していたことだが――、


「ええ、そうよ」


 ――真実は変わりなく、本人によってあっさりと告げられた。


「なんで、どうして俺だったんだ……」

「いろいろあるんだけどね、あなたは最初から綺麗なままだったのよ。強い魂をもって、純粋な考え方をして、綺麗な感情を抱く。アカリくんはそんな人だったから」

「抽象的すぎて、何も伝わらないよ」

「細かく説明してもいいんだけどね。既に上位格だった魂。死の怖さを知っている、けれども他人の死に価値を見出さない思考。余計なものにとらわれず、純粋な感情を見せる姿。理由はいろんな言葉で表現できるけど、結局は私が、あなたを気に入っただけの話よ」

「気に入った……? ならなんで殺したんだ」

「アカリくんはこの世界と前に住んでいた世界の関係性って知ってる?」

「関係性?」

「輪廻転生って言ってもランダムに転生するわけではないの。その魂に見合った存在に転生して、生きて研鑽された魂は、より上位の存在へと生まれ変わっていくのよ。その存在の質は世界によっても違ってね、あの世界はあなたには不釣り合いだった。だからこの最上位に位置する世界、神にも届く世界に呼ぼうとしたということよ。まあ、ユユちゃんに邪魔されて、先にアカリくんを取られちゃったけどね」


 フィールは、俺をこの世界に連れてくるために殺した。

 それを死んだ直後にユユが自分の神域に俺の魂を引っ張り込んで、先に転生させた訳だけど、結果は変わらなかったのか。


 だけどこれで納得できた部分がある。

 前世ではいつも死の危険が付きまとっていたのに、この世界に来てからはその回数が減ったこと。これはユユの加護によるものだけだと思っていたが、この世界で最初の命の危機である盗賊事件のとき、『死神』が俺を助けたような場面があった。

 俺を襲うばかりだった死が消えるどころか味方したことに疑問を抱いていたが、襲う理由が無くなっていたのなら納得できる。


「それならこの状況は、フィールが望んで作り出したのか」


 俺が死んで、転生したこと。

 これは俺とユユの意思だけではなく、一番最初にフィールが望んだことというわけだ。


「そう、世界と切り離してアカリくんを一人にしたのは私」


 敢えて悪い部分を強調したフィールは、湯の中の身体を近付けて密着してくる。

 そして、どこまでも無防備なまま――、


「――殺さないの?」


 ――その言葉を口にした。

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