73 眠り
「どうやって寝る?」
昨夜は徹夜だったからそろそろ寝たいのだけど、リティ達はまだ話し合いが終わらないようだ。
俺は昨日用意してもらったけど、ユユとフィールの寝床をまだ用意してもらっていない。そもそも人数分の布団があるのかも分からないし。
そう思いつつ一つだけ敷いてある布団に目を向けると、自然とユユとフィールも布団の方を見た。ちなみに二人とも【状態魔法】で清潔な状態になっている。
「ねえアカリくん、あれに二人入りそうじゃない?」
「はぁ、ならユユとフィールで使えばいいよ。俺はそこの椅子で寝るから」
「アカリは、私にフィールと寝ろって言うの?」
「アカリくんいじわるしないで~」
「じゃあどうしろと……」
布団の中いっぱいに三人で詰め込むことになった。……まあ、そんな気はしていた。
少ないスペースをもぞもぞ動き、動かれ……寝られない。
ふう、俺の切り札を使うときが来たようだ。ユユと会うことができなかった場合の最終手段として考えていた方法だけど、こんなところで使うことになるとは。【範囲魔法】で自身を指定して……。
――【状態魔法】状態維持。
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気が付くと、既に朝日が昇っていた。眠れない夜を乗り切ったみたいだ。
状態維持は常時効果で、普段は体調などの状態を維持する効果を発揮している。この効果は老化も止めているのだけど、これを【範囲魔法】で改めて発動させ、効果を身体の時間が止まるまで強めた。
そうすることで【範囲魔法】の効果が切れるまで仮死状態というか凍結状態になるわけだ。
実は、ユユといつまで経っても連絡すら取れないようだったら、時間が解決するのに期待して眠りにつくことも考えていた。あっさり会えたから必要なくなったけど。
「あ、アカリくん起きた」
「おはよ」
普通の眠りと違うから寝起きもさっぱりしている。
まあ、寝ていたという意識すら無いんだけど。
「まさか、心臓まで止めて寝るとは思わなかったわね……」
「あのままじゃ眠れないと思ったからね」
「でもアカリくん、何しても起きないから……くふっ」
「待って、変なことしてないよな?」
起き上がり、体に変なところがないか確認する。
特に変わったところは見当たらないけど、フィールが楽しげに笑っているのが不安でしょうがない。
まあ、ユユも居たからそこまでのことは……ユユ、まだ寝てるな。
フィールは俺より先に起きていた。つまり、俺とユユが寝ていてフィールだけが起きていた時間が存在することになる。……何それ怖い。
「別に、そんなに変なことはしてないよ?」
不安げにフィールの方を見ると、そう言われた。
そんなに、とか疑問系なところとかいろいろ不安だけど、どうせ寝ていて分からないのだから大丈夫だったと思っておくことにしよう。精神衛生上その方がいい。
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ユユを寝かせたままにしてリビングへ二人で行くと、リティママが朝食の準備をしていた。
「おはようございます」
「あら、おはよう二人とも。昨日はごめんなさいね、親子で話に食い違いがあったみたいなのよ」
「まあ、解決したなら良かったです」
リティファミリーは言葉でのコミュニケーションが少なそうだからな。食い違いが起こっても仕方ないと思う。
朝食を並べるのを手伝い、ユユ以外の全員が集まったところで朝食を食べ始める。ユユは俺と同じ生活習慣で、何時に寝ても昼近くまで寝続けるから寝かせておくことにした。よく寝る子だけど育たない。
「急に人数も増えたので、俺たちは適当な宿に泊まることにします」
適当なタイミングでそう伝えた。
流石に三人も泊めてもらうのはどうかと思うからね。昨日は宿を探す暇が無かったけど。
「あら、別に構わないのに」
「でも食事や寝具の都合もありますから」
「あー、言われてみれば布団が足りないわねぇ……」
「アカリ、出てくの?」
リティが小首を傾げながら訊いてくる。
リティに泊まるよう誘われたのは嬉しかったけど、これ以上は迷惑が掛かりそうだからなぁ。もう既に掛けまくっている気がするし。
「その辺の近場に泊まるよ。お金も十分持って来てあるし」
足りなくなったら空間転移で一度帰ればいい。魔法って便利。
「あとで一緒に出掛けよう。リティには町の案内をしてほしいな」
「うん」
「私も行くー」
「断っても勝手に付いてくるでしょ」
「もちろん」
ニコニコと嬉しそうに頷かれた。理解されているのが嬉しいってところか。
ユユはどうするのかな。……訊くまでもない気がするけど。
朝食を食べ終えたら片付けを手伝い、それが終わったら使っている部屋に戻る。
部屋では、ユユがまだ眠っていた。
「ユユ、起きて」
「……んぅ……」
ゆさゆさと揺すって起こす。
ぼんやりと目を開けたユユは、ゆっくりと体を起こした。
「おはよう」
「あれ、アカリ? ……あ、おはよう」
まだ寝ぼけているな。
しかし、午前中には宿を決めて昼からは観光がしたい俺としては、のんびりしている時間が勿体ない。うとうとしたままのユユを立たせ、布団を畳んで荷物をまとめる。たいした物は持ってきていないから、荷物はすぐにまとまった。
リティの両親に挨拶をしてから家を出た。
「あっちに宿がありそうじゃない?」
後ろに付いてきていたフィールが右側の道を指差した。
恐らく根拠は無いだろう。背後に居たフィールは、方向を示すために俺の肩を押さえて前へ腕を伸ばしている。要は俺にくっつくために適当なことを言っているだけだろうな。その考えは、前へ伸ばしていた腕を曲げ、俺の首を軽く巻き絞めたときには確信となった。
「何かと理由を付けてはくっついてくるな……」
「だって、アカリくんが大好きなんだもの」
「……」
好かれるようなことしたか?
まあ今はいい。
「……はっ……此処はどこ?」
不意に、ユユが覚醒した。さっきまではうつらうつらとしている状態で、俺が手を引いて連れていた。
「宿を探している途中だよ」
「宿? どうして?」
「リティの家に三人も泊まれないからだってば」
「あー」
ユユはそれでしっかりと目覚めたようだ。
目が覚めたユユは、フィールと目が合うと早速――。
「フィール、アカリと近い」
「ふぅん、そう」
「むぅ……! アカリの半径1メートル以内に近付くの禁止! 神様命令!」
「神様却下」
この光景にも見慣れてきたなぁ……。
懐中時計をポケットから取り出して時間を確認すると、昼まであと1時間程度だった。
……俺だけでも宿を探すか。




