72 途中退場
「本日の議題ー、アカリさんの交際関係についてー」
出席者、リティとその両親、あと俺。司会はリティママ。
「……どうなんだ」
「どう……と、言われましても……」
「あの二人だ」
「友達、と……知り合い、ですかね」
「随分、仲が良さそうだな」
俺、こんなに喋る親父さん初めて見たよ……。
「ユユとは、まあ、長い付き合いですので。フィールとはそこまで仲良くないです」
「……膝に乗せていたな」
「フィールちゃん、食事前はとても仲良さそうな雰囲気だったわねえ」
夫婦でのコンビネーション。
フィールがあんな自己紹介するから……!
完全にアウェーだな……。親父さんだけでなくリティママも攻めてくる。
あとはもう、リティだけが頼りだ。希望に縋るようにしてリティにアイコンタクトを送った。
しかし、リティはこちらを見ていなかった!
ずっと俯いている。何を考えているのか、それとも何も考えていないのか、自分の手のひらをボーッと見ていた。
これは、孤独の戦いになりそうだ。
「フィールはああいうやつなんです。元から」
フィールは変な子なんです。決して俺が悪いんじゃないんです。
この場に居ないのをいいことに責任を押し付けた。
「そうなの? まあ、この話はひとまず置いておきましょう?」
「……ああ」
お、乗り切った?
「それよりアカリさん、今リティと一緒に暮らしているんですってねえ。私、驚いちゃったわ」
リティー!?
いつの間にそんな爆弾発言したの!?
リティもリティママも普通にしてたから気付かなかったんだけど。
そりゃ親父さんもこうして呼び出すわけだ。
「一緒に、と言っても広い館ですので、ただ同じ建物に住んでいるだけというか」
「だが、二人きりで、だ」
「……そうですね」
言い逃れは無理そうだな……。
ふう、こうなったらもう、諦めて素直に答えるとしよう。
「工房があれば、リティが喜ぶと思ったんです。それで、都合良く工房付きの館が手には入ったから、一緒に暮らすことにしたんです」
うん、筋は通っているはずだ。
これなら親父さんも納得だろう。
「えーと? つまり、リティのために工房付きの館を用意したと?」
「まあ、そうなりますね」
王さまが何かくれるっていうから頼んだだけだけど。
「あとは、俺に一人暮らしができそうになかったので……」
「アカリ、起きるの苦手」
お、リティがようやく会話に入ってくれた。
俺たちの話を聞いて、リティの両親は顔を合わせてボソボソと相談を始めた。
それが終わってから、再度質問。
「結局アカリさんは、リティのことをどう思っているのかしら?」
「大切に思っていますよ」
リティの為なら喧嘩を売ってきたエルフの一人や二人、こっそり仕留めてくることだってできる。まあ、頼まれたりでもしないとやらないけど。勝手にやるのは自分の為にしかならないし。
「わたしも、アカリは大事」
リティがそんな嬉しいことを言ってくれた。
……何気にリティがこういうこと言ったの初めてじゃないか? やばいホント嬉しい。
「二人は……付き合っているのか?」
付き合うって、恋人の意味だよな。
「いえ、付き合ってないです」
「……」
「そうねえ……アカリさんは、リティのことが好きなのかしら」
「え……まあ、好きですよ」
本人前にしてこういう話するの恥ずかしいんだけど。
「それで、さっきのユユちゃんのことは?」
「好きかどうかですか? 好きですよ」
「「…………」」
あれ? 別に変なこと言ってないよな?
「……もう一度、家族三人で話し合いたいわねえ。ごめんなさい、アカリさんは今日のところはもういいわよ」
「そうですか」
=====
リビングから一人出て、自分が寝泊まりしている部屋に戻る。
ここにはユユとフィールを待たせているんだけど……。
部屋に入ると、二人は肩で息をしながら床に突っ伏していた。
「……何してたの」
「はあっはあっ、あ、アカリッ、フィールが、はあ、私のこと、馬鹿にしてきて……!」
「はあ、ふうっ、わ、私はただ、本当のこと、言っただけよ……」
「それで何をしてそんなになったんだ……」
「ま、周りに被害が出ないよう、魔力だけのルールにしたら……」
魔力の撃ち合いをしていたのか。
「あれ、でも魔力ってスキルとかが無いと外に出せないんじゃなかった?」
「神になると、多少は、できるようになるよ。ふぅ……でも、それだと全然だから、手を握って直接魔力を流したの」
それをやると、こうなるわけか。
まあ、周りに気を使っただけマシだな。これで部屋まで壊してしまったら全力で隠蔽しなければいけないところだった。【状態魔法】で。
「アカリくん、介抱してぇ」
疲れ切ったフィールがぐでっと俺に抱きついてきた。
介抱か……【範囲魔法】範囲拡張。そして状態復元。
魔力不足の方は治せないが、魔力を受けたことでの消耗は状態復元で治せるはずだ。
「そういうことじゃ……ん、アカリくんの魔力、気持ちいい……」
「そう言われたのは初めてだな……」
くすぐったいとかはダイキに言われたけど。あとフェルクディの反応は過敏だった。
「私にも~」
フィールをグイグイ押しのけながら、ユユも【状態魔法】を受けにきた。
ユユはフィールを押して両手が塞がっていたから、おでこに手を当てて魔力を流す。触れる場所はどこでもいいからね。
「あー、うー……」
なんか、ユユも気持ちよさそうにしてふにゃけた。
何故か知らないけど、人によって反応が違うなぁ。自分で自分にやっても何も感じないのに。
――【状態魔法】拡張、状態復元。
「はい、いいよ」
「ふにゃふにゃー」
ユユが俺の方に身体を預けてくる。
更には、ユユの力が抜けたことでフィールも再びくっついてきた。
「ちょっと? 二人も支えられないんだけど……?」
「ぐでー」
「べたぁー」
「おおおおぉぉ……」
あっという間に支えきれなくなり、しりもちを付くようにして後ろに転んだ。
それによって、二人がますますくっついてくる。
「フィールぅ、そこ邪魔」
「あなたこそ。そこも私に譲りなさいよぉ」
まだ言い合うのか……。
二人は力の抜けた身体でお互いに押し合い、競うように俺に密着してくる。
「ちょっとちょっと?」
「ほら、アカリが困ってるでしょっ。離れて!」
「あなたが離れればいいじゃない」
「私はいいの」
「なら私も」
「そろそろ後ろに倒れそうなんだけど。このままだと頭地面に打つ」
「そうね、ここは公平にじゃんけんしましょ」
フィールの提案をユユは受け入れ、二人はじゃんけんで勝負した。
勝敗は、ユユの勝利。
「これが、言い出しっぺの法則ね……」
「はい、どいてどいてっ」
「ん、仕方ないわね……」
フィールはゆっくり、のんびりと身体を離した。
それで空いたところにユユが更に抱きついてくる。
「えへへぇ、アカリー」
「まあ、いいんだけどさ、ユユって前までそんなにくっ付いて来なかったよね」
「……あっ」
言われて気付いたようだ。
ユユは、パッと身体を離すと顔を逸らした。耳が赤くなっている。
「これはそのぉ、フィールに対抗してっていうか、つられてというか……」
「……ユユとこうして直接会うのも久しぶりだしね。俺は嬉しいよ」
「そ、そう……? ……えへっ」
久々のスキンシップだから、少々過剰になるのも仕方ないことだろう。
そんなやりとりを、フィールは膝を抱えてノの字を指で書きながらジトッと見続けていた。……なにいじけてんの。




