71 囲まれて
ウトレレにあるリティの実家に戻ったのは昼過ぎになった。
無計画すぎて帰り用の魔法陣を用意していなかったために徒歩で来た道を戻ったせいだ。
「ただいま戻りましたー」
「あら? 戻ってきたのね?」
リティママに家の中に入れてもらう……三人とも。
「アカリさん、今朝から居なかったからリティが探しに行ったわよ? でもその様子じゃすれ違ったのねぇ」
「あー、すいません、何か書き置きしておけば良かったですね」
そうか、今リティ居ないのか。
探しに行ったのを追いかけたらすれ違う可能性が高いし、ここはリティが戻ってくるまで素直に待つことにしよう。
リティママがお茶を淹れに部屋を出たところで、フィールが後ろから抱きついてきた。
「フィール! アカリにベタベタくっつかないでよっ!」
「あなたには関係ないでしょ?」
「関係あるの!」
「えー……でもダメー」
「むむむぅ……!」
神々の争い(子供の言い合い)。
……ふざけてないで止めた方がいいな。
「二人とも、一旦落ち着いて」
「だってぇ……」
「私は落ち着いてるわよー」
「私はフィールのせいで落ち着かないのっ! うわーんアカリー!!」
堪えきれなくなったようで、ユユは涙目になりながら俺に飛びついてきた。
それを抱き留めた結果、前後から挟まれた形になる。
そのタイミングでお茶を煎れてきたリティママが入室した。
「お待たせー……あら?」
「「「…………」」」
「随分仲が良いのねぇ。ところで、その子たちはどちら様なのかしら?」
あ、それ今訊いてくるんですね。
「ユユですっ。アカリの保護者だからよろしく」
「私はフィールよ。アカリくんとは……ふふっ」
なんて答えようかと思っているうちに、ユユとフィールは各々自己紹介を済ませてしまった。
というか内容に突っ込みを入れたい。保護者……まあ、間違いでもない気がするけど、一応否定しておく。フィールはその意味深な雰囲気を出すのやめて。変な誤解されたら困るの俺だから。
=====
「ただいま」
ユユ、フィール、リティママの三人を相手にしているうちにリティが戻ってきた。
リティは部屋に入ってくると全員の顔をぐるりと見渡し……二週目でもう一度俺と目があったところで止めた。
「どこ、行ってたの?」
「ちょっと平原遺跡の方まで……」
「……なんで?」
純粋に疑問に思っての質問だろう。
そりゃあそうだ。真夜中に何もない遺跡まで何時間も掛けて往復してきたら誰だって変に思う。
「アカリは、私を迎えに来てくれたの!」
リティの質問に俺が答える前に、ユユが笑顔で答えた。
「だれ?」
「ユユ。アカリの保護者だよ」
「……」
リティがチラッとこっちを見てくる。
でも俺も上手い説明ができないんだよなぁ。まあ、説明できるところまではちゃんと説明しておこう。
「ユユとは昔からの友達なんだ。こっちはフィール。一応、昔から付き合いのある知り合い」
フィールとリティは顔を合わせると、お互いにペコリと頭を下げた。
それで、リティはもう訊くことは訊いたとばかりに椅子に座ると、リティママが出したお茶をのんびりと飲み始めた。
「あら、そろそろ夕食の準備をしないといけないわねぇ」
リティママはそう言って部屋を出ていき、部屋には俺、ユユ、フィール、リティの四人が残った。
今まで会話の主導権を握っていた者が居なくなり、一瞬静まり返る。
フィールはマイペースにお茶請けへ手を伸ばし、リティは無言で、何を考えているのか分からない。ユユは居心地の悪さを感じてか、椅子の上で身じろぎした。
……リティママ、カムバック。
「ねえアカリ、退屈だから何かしない?」
そんな中、ユユがそんなことを言い出した。
そうか、ユユはただ、暇になっていただけか。もしかしたら居心地が悪いと感じていたのは俺だけなのかもしれない。考えてみれば他の皆はやましいこともなく、普段通りにしているだけだ。
……別に、俺にもやましいことなんて無いけど。
とにかく、ユユの提案は渡りに船だ。
「じゃあ、何する?」
「何って言われると……しりとり?」
それ、今やったら絶対しらけるやつ。
「あー、今ちょうど絵が描きたい気分なんだよね。これで遊ぼう」
言いながら、【範囲魔法】で空中に線を引く。
これなら俺は絵を描くことに集中できるから、変に考えたりしなくて済む。
早速リクエストを訊いて、部屋に彩りを加え始めた。
=====
夕食の時間が来た頃には、部屋はいろんな絵が浮かんでごちゃごちゃした空間になっていた。
全員がバラバラにリクエストしたから、全く統一感が無い。
でも、そのお陰でだいぶリラックスできた。ユユとフィールのことで変に緊張してたけど、楽になった。
気分が良くなったところで夕食を食べにリビングへ向かう。
家族三人の食卓に六人が座るため、椅子の間隔が少し窮屈になっている。
そこへ俺が何も考えずに、先に座ったリティの隣に座ったのは失敗だった。
俺の右側、もう一つの隣の席。その背もたれをユユとフィールが同時に掴んだ。
「私、アカリくんの隣がいいのよ」
「それは私もだから」
まさに一触即発。
今この二人が喧嘩するのはまずい。一応は神だから、何が起こるのか想像できない。
俺は席を移るために腰を上げようとして――リティに手を引かれた。
……え? なに?
リティの方を見ると、俺を掴んでいた手はすぐに離された。
だけど、それで立ち損ねた俺は椅子に座ったままになる。
「んー、じゃあ、ここは特別に譲ってあげるぅ」
「え? ほんと?」
「私はこっちにするから」
フィールは俺の隣の席をユユに譲って、他の場所に座った。
……俺の膝の上に。
「ああああああっ――!?」
ユユの声が耳に響く。
ユユが一度座った椅子から立ち上がろうとしたとき、パンッと手を合わせる音が鳴った。
「……いただきます、だ」
今までずっと無言だったリティの親父さんだ。
……ずっと待っていたんだろう。どうも、うちの子がすいません。
「ほら、とにかく食べよう」
「アカリぃ……でもぉ」
「アカリくん、あーんしてあーん」
「……アカリぃ……?」
「あ、それともあーんしてあげる? アカリくん、はい、あーん」
「アーカーリー!!」
「ああ、もうっ! せめて食事中は静かにしてくれ!」
気まずいんだよ! 人の家に大勢で押しかけて騒いで!
ああやばい、親父さんの手が震えている……! あれは間違いなくキレてる。
「二人とも後で付き合うから、今は静かに食べよう」
「「……はーい」」
ようやくまともに食事ができる。……膝の上に人を乗せてると物凄く食べにくい。髪の毛邪魔。
両腕を大きく回してフィールを抱くような姿勢。しかもフィールはチラチラと何度もこっちに振り向いてくる。
そのせいで、食べ終わるのは俺が一番最後になった。
食事が終わり、部屋に戻ろうとフィールを膝から降ろす。そのとき、本日二度目に親父さんの声を聞いた。
「今夜の家族会議……お前も出てもらうぞ」
……親父さん、本当ごめんなさい。




