70 空間神の神域
5分ほど歩いて、空間を越えた。
無機質な白い空間。床と壁と天井の見分けが付かない。
見覚えのある、ユユの神域だ。
「ユーユー。おーいユユー」
声を出しながらユユを探す。
この空間の広さが分からない。これ、帰り道分かんなくなりそう。
ああでも、この空間はあまり距離とか関係ないって言っていたような……。
「……『コネクト』」
『空間神』の神域ということは、ユユの魔法が効くのではないかと考えた。そしてそれは、正解だったようで、距離が歪み、少し離れた場所にユユの姿が映った。
「え? アカリ?」
「ちょっとだけ久し振り、ユユ」
いつの間にか、ユユが目の前にまで来ていた。この空間では距離は当てにならないな。
久し振りにユユの姿を見る。
普通では有り得ないくらいに白い髪、異世界でも見たことのない桜色の瞳。いつまでも小学生料金を使える身体。
「でも、ユユは変わらないね。いつも通りで安心した」
「む、私だって成長とかしてるんだからねっ」
「ここ数年間、変わらず同じ姿なんだけど……」
「な、内面とか」
やっぱ変わらないな、ユユは。
いろいろ訊きたいことがあったけど、こうしてユユを見ていたら、なんかどうでもいいことに思えてきた。
「でも、どうしてアカリが此処に?」
反対に、こっちが質問された。
「だって、ユユと連絡が取れなくなったから」
「そ、そうなんだっ。アカリが此処に来るのはまだ先だと思っていたよ」
「そこはまあ、ディーロ先輩の協力とかもあって」
「じゃあアカリは、私を迎えに来てくれたってことでいいの?」
「ユユが一緒に来てくれるなら、そういうことになるかな」
どちらかと言うと、心配で様子を見に来たんだけどね。
でもそうか、道を開いたってことは、ユユを連れ出せることになるのか。
「……あれ、そもそもユユは此処を出ても大丈夫なの?」
「平気平気! 今ちょっと大変で、自分で外に出ることができなかっただけだから。外に行くなら早く行こうよ!」
「ちょっと待って、俺結構魔力使ったから、休んでからじゃないと」
「休んでる場合じゃないよ! 此処には今、あれが居るんだからっ」
「あれって?」
「名前を呼ぶと来ちゃうから――」
「――呼ばれなくても来ちゃったけどねぇ」
急に後ろから声が聞こえ、振り返る前にその何かが背中に乗っかってきた。
首を後ろに回すと、至近距離で目があった。
「あー!? アカリから離れてっ!」
「えー」
「『エリアデリート』!」
「「あぶなっ!?」」
魔法の名前に嫌な予感がして慌てて横に逃げる。
すると、さっきまで居た場所の空間が割れて、周囲を巻き込みながら剥がれ落ちていった。前の空間は壊れ、そこには新しく別の空間が現れる。
「ユユ? なんで俺まで?」
「ご、ごめん。つい……」
そしてそれでも俺の背中に乗っているこれは誰だ?
「フィールちゃんと呼んでね」
「そいつ、『死神』だからねっ! 近寄っちゃダメだよアカリ!」
「え、うわっ、離せ!」
「ぎゅー」
振りほどけない……! 腕力つよっ!?
「ほらっ、アカリも嫌がってるから! そこから離れて!」
「えー、けちぃ」
「はーなーれーてー!」
「はーい……」
『死神』は名残惜しそうにゆっくりと背中から離れ、俺の横に並んだ。
一部を三つ編みにした黒髪に黒目で、黒い衣装に身を包んでいる、成長期に差し掛かったくらいの外見の少女。
その子はこっちを向いて可愛らしく笑ってみせたあとに、俺の首に腕を回してギュッと力を込めてきた。急に引っ張られて、抵抗する間もなく顔と顔が近づき――唇が合わさった。
「あー!?」
間近で見ていたユユが大声を上げる。
『死神』フィールは、それを気にも留めずにゆっくりとした動作で俺から離れた。
……は?
「え、ちょっと待って。今のって、えっと……」
「んー? プレゼントねー」
「プレゼントって」
「アカリ、加護が……」
加護? て、まさか……。
名前 アカリ・ユミツキ
LV 19
種族 人族
年齢 0
性別 男
【スキル】
状態魔法4
空間魔法4
範囲魔法3
瞳の魔眼3
火魔法2
水魔法2
結晶術2
【加護】
死神の誘い
空間神の加護
空間神の寵愛
死神の加護
【称号】
転生者
祝福されし者
死を招く者
『死神の加護』が増えてる……!
「あ、アカリが……アカリが……」
「『死神の加護』って……」
「二人ともあんまりじゃない? それが私のファーストキスに対するリアクション?」
「あ、そうだ。キス……え、俺結婚するの?」
「待ってアカリ! 今のは事故だからっ。それに一方的なものだし無効だよ!」
「た、確かに、ちゃんと合意のものじゃないと駄目だよな……」
……たぶんセーフ!
え、でもなんでキス? 加護付けるのにわざわざキスする必要ないよな? ……ああもう、訳が分からない!
「ユユ、ちょっとこっち来て」
ユユと顔を近付けて作戦会議。
議題は、フィールをどうやって置き去りにするかだ。
「まずはユユが壁を出して障害物を造り、それでフィールを阻んでいる隙に俺が出口を持ってきて逃げる」
「え、あの子のこと、名前で呼ぶの?」
「いや、あんまり死神死神言いたくないし……ん? どうかした?」
ユユは何だか、ちらちらとこっちの顔を見ては目を逸らしてと落ち着かない様子だ。
「アカリ……キス、どうだった?」
「ゲホッゴホゴホッ!」
考えないようにしていたことを突っ込んできた。
何も今訊かなくても……! 質問したのは俺だけど!
「……今はそれよりも、フィールを置いていく方法を考えないと」
「でも……うん、そうだね。アカリの作戦でいいんじゃない?」
意思の統一ができたところで、早速実行。
まずはユユが創造物を創る。ユユは自分の神域なら自由に物を創り出せる。俺達とフィールの間に巨大な壁を創造。
「『コネクト』」
次に俺が空間接続で此処へ来たときの道を呼び出す。
「よし、行こう」
「「おー」」
……一人多い。
「だってぇ、普通に作戦聞こえてたよ?」
この空間では距離は関係ないんだった……。
作戦失敗。
ならば次の手を……。
「行かないの? じゃあ先に行ってるねぇ」
「ああ! 待て!」
「アカリ!?」
フィールが呼び出した出口に入っていってしまった。
先にフィールに出て行かれたら置いていくも何もない。慌てて後を追う。その更に後をユユが追いかけてきた。
そして、そのまま三人で平原遺跡に戻ってきた。
「行こうよ、アカリくん」
「え、何処に?」
「アカリくんの家」
「ちょっと! フィールは付いてこないでよねっ!」
「まあまあ~」
……どうすればいいんだろう。
フィールを神域に閉じこめることができれば良かったんだけど、こうなってしまってはもう遅い。
この調子では、いつまでも付いてくるだろうなぁ……。
でも、目に入るところに居た方がむしろ安全かも。目に見えないほうが脅威に感じるものだし。
今まで形のない脅威だった『死神』が姿を現したんだ。これを放置するよりもちゃんと見張っておいたほうがいい。
「あー、俺は今、リティの家にお世話になってるんだ。帰るならひとまずそっちにかな」
取り敢えず、三人でリティの家に戻ることにした。
……この二人のこと、なんて説明しよう?




