68 帰省
我が故郷、蟻の巣迷路である国境トンネルを問題なく通過して、ウトレレに入国。
風景は……イトラースとあんまり変わらないかな? まあ、場所も近いしそんなもんか。
「こっち」
リティに実家まで案内してもらい、町を眺めながらそれに付いていく。
リティの実家は鍛冶屋だ。ドワーフの親父さんが日々、鉄を叩いているらしい。
「ここ」
到着。
おお、なかなか趣のある……適当言った。特に分からない。
勝手知ったる感じで、リティが店の奥へ入っていく。……というか受付に誰もいないな。営業してるのかな?
リティを追って奥へ進むと、聞き慣れた鉄を叩く音が聞こえてきた。リティの親父さんが仕事をしているようだ。
鍛冶場へ向かうのかと思いきや、リティはリビングに着くと足を止めた。
「座ってて」
そう言い残し、どこかへ消える。そしてすぐに戻ってきた。その手にはお茶とお茶請けを持っている。
お茶を注いでもらい、二人で座って一休み。
……まさか、両親への挨拶無しに寛ぎ始めるとは。
家主に断りを入れてないのは、なんだか居心地が悪い。……あ、このお茶美味しい。
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「あら?」
俺まで完全に寛ぎだしたところで、リティの母親らしき人が帰ってきた。
取り敢えず起立。
「おかえり」
「ただいま。……そっちに先に言われるとは思わなかったわねぇ。いつ帰ってきたの?」
「さっき」
「それならまだお父さんに会ってないのね? あ、それでそちらの方は?」
「アカリ」
おっとぉ、それで紹介を終える気? 名前だけでは俺の情報が何一つ伝わらないけど?
いや、ここは自分で言うべきか。
「……アカリです。えーっと……」
リティさんとは一緒に暮らしています。
……このこと、リティの両親は知らないよな? え、言って大丈夫なのかこれ? 自己紹介できねぇ。
ここで言うべきことは、リティとの関係と同行した理由の二つだ。
……友達? 友達なのかな? 同居人っていうとその前は何だったのかって話になるし……。
思えば、路頭に迷いかけていた俺に付き合ってくれて、そのまま成り行きで一緒にいるんだよね。
今回同行した理由は……誘われてホイホイ付いて来ました。
「その、よろしくお願いします」
結局伝えた情報は、名前だけ。
盛大にやらかした。
「一緒に、泊まるから」
「あら、そうなの? まさかリティが、ちょっと見ない間に男を連れてくるようになるなんてねぇ……。部屋は同じでいい?」
「どっちでも」
「別でお願いします」
常識と良識を持って、はっきりと断った。
というかリティの神経が頑強過ぎる。動じないどころか受け流すよこの人……!
「それなら客間の準備をしないとねぇ」
リティの母親は、そう言ってリビングを出て行ってしまった。
おおらかな人だなぁ……。
気付いたら手持ち無沙汰になっていたので、椅子に座り直してお茶を口に含んだ。
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部屋の準備をしてもらったら、そこへ荷物を置きに向かった。
その後少し休んでから、夕食。
再びリビングに向かうと、リティの親父さん(たぶん)も席に着いていた。
「お父さん、こちらリティが連れてきたアカリさんよ。リティと一緒に我が家に滞在することになってるから」
「アカリです」
さっき自己紹介に失敗したから、もう自己紹介自体を諦めた。名前と一礼だけに留める。
「そうか」
…………え、それだけ?
全員が席に着いたところで食事を始める。
「アカリさんはどこの出身なの?」
「イトラースです」
「あら、なら学園は地元なのね」
「一応そうなりますね」
この場での会話が俺とリティママとの二人のものしかない。
親父さんは黙々と食べている。リティも喋らない。でも何故か首を傾げている。
「ウトレレは初めてなのねぇ。何か予定はあるのかしら?」
「あー、平原遺跡には行く予定です。他には特に」
「平原遺跡? ああ、あの何もないことで有名な観光名所ね」
「そうなんですか?」
『勇者』の召喚陣、人気ないのかな?
「古いだけが取り柄なところよ」
「そうなんですか……」
まあ、考えてみれば俺はそこの魔法陣を利用させてもらうわけだし、人は居ない方が都合がいい。
あ、ならいっそ夜中とか早朝の方がいいかな。よし、時間掛かるだろうから夜にしよう。
その後も質問責めを受け続け、会話の分だけ長い時間を掛けた夕食を終えた。
リティママが席を立とうとしたところで、不意に親父さんがその重い口を開く。
「……今夜は、家族会議だ」
えっと……議題を訊いてもいいですか?
もしかしなくても俺のこと? ですよねー。
=====
家族会議。
つまりは俺を除いての話し合いだ。
家を出た一人娘がある日、男と一緒に帰ってくる。
……親父さん、許してくれなかったかぁ。
悶々と待っていても仕方がない。あれをやるか。
名前 アカリ・ユミツキ
LV 19
種族 人族
年齢 0
性別 男
【スキル】
状態魔法4
空間魔法4
範囲魔法3
瞳の魔眼3
火魔法2
水魔法2
結晶術2
【加護】
死神の誘い
空間神の加護
空間神の寵愛
【称号】
転生者
祝福されし者
死を招く者
ちょいちょいレベルが上がったくらいで、真新しいものはないな。
いつもならここで、ユユとだらだら喋りながらスキル上げをするのだけど……。
「ユユー……はぁ……」
声をかけても反応はない。
何となく気が削がれてしまい、ステータスを消して布団へ横になった。
そのままごろごろだらだらして暇な時間を過ごす。
暫くして、家族会議を終えたリティが部屋にやってきた。
「家族会議どうだった?」
「ふつう」
「そう……まあいいか」
大丈夫だったということだろう。そう思いたい。
「ところで」
「ん?」
「アカリ、出身、イトラースだったの?」
「……あっ」
ちょっと矛盾が出てるか?
あー、そもそも最初にイトラースへ行ったときに道案内してくれたのはリティだった。道が分からない、入国すらできない状態だった俺が、地元の人間っていうのはおかしいわ。
……いや、まてよ。それはイトラースの王都での話だ。イトラースは王国。あの町以外にも町や村はある。
「国の中でも外れの方に住んでたんだよ」
「……そう」
リティは、それ以上は何も訊いて来なかった。
いつの間にか、随分と嘘を重ねている気がする。……気がするじゃないな。嘘だらけだ。
最初から誤魔化しの嘘を付いていたからなぁ。リティもきっと、どこかで違和感を感じているのだろう。それが表に出たのが今の質問だ。
それでもリティは、深く訊いてきたりはしない。俺はそれに甘えるばかりだ。
――うそつき。
不意に、そんな幻聴が聞こえたような気がした。これは本当に気のせいだろう。
だけど、その声はリティのもので、その責めるような、それでいて悲しそうな声音に俺は一気に心が冷えていく感覚に陥った。
いつか、俺のことをきちんと話そう。そんな遠くない未来に。
……今はまだ心の準備が出来てないから、取り敢えず、ユユのことが片付いてからでいいかな。




