63 串刺し
《アカリ、これ防ぐことはできるけど攻撃に使えないよ》
「じゃあお互いに有効打が無いわけか。負けることは無いけど、勝てもしない」
《あと、アカリの周りは大丈夫だけど他は無理だよ?》
「……散らばってる仲間が危ないままじゃないか」
負けることがないというのは俺とその傍にいる人に限った話だったようだ。
あいつら上手く気配を消して隠れているけど、そもそも無事なのかな?
槍の雨や、さっきの投擲で何人か死んでいてもおかしくはない。
これで全滅していたら頑張って邪神から逃げ回った意味が無いんだけど。そしたらさっさと帰ってたよ。転移で家に。
「なあ、アカリってば」
「ん、ああごめん」
「ブツブツ一人で言ってないで、説明してくれよ。これは何なんだ?」
ダイキはそう言ってユユの創造物を指差す。
ユユの力なんだけど、なんて言えばいいのか。
「なんて言えばいいのかな」
ボソッと、ユユに訊く。
《アカリの魔法ってことでいいんじゃない?》
「こんなことできないし。ダイキは鑑定があるからあからさまな嘘はちょっと……」
《だいじょうぶっ。アカリも【空間魔法】が使えるから丸っきり嘘ではないよ! ……ちょっとだけ、性能が神様レベルなだけで》
「どう考えても嘘じゃん」
どうやら説明は難しいみたいだ。
急ぎじゃない問題は先送りにしてしまおう。
「説明はあとでね。それより今は邪神のことだ」
実際、早いところ何とかしないと隠れた仲間が標的にされかねない。
最優先事項だ。
その次が特殊スキル使い。
結界使いと呪術師は今、他に残っているダークエルフ数人と一緒に小規模な結界に守られている。
結界も呪術も支援系の効果だし、安全な場所から邪神をサポートするつもりなのだろう。こいつらも何とかしないといけない。
でも、邪神の前に結界使いを止めておかないと……。邪神はユユに任せてそっちに集中すればいけるか?
いや、そもそも結界を突破できる手段が殆ど無いし、呪術師も黙っていないだろう。
「ほんと防御面が充実してるなあ……。勝ち筋が見えないんだけど」
結界がなぁ……あれを突破できないと結界使いや呪術師に指一本触れることができない。
俺以外に結界を越えられるのは居ないけど、俺のスキルじゃ相手に連携されると倒すのは難しい。
《んん? ……あれ?》
「ん、ユユ、どうかした?」
《えーっとね、今の私はある程度の範囲でそっちの空間を把握できるんだけど、気になるのを見つけて》
「なにそれ」
《あのね、知ってるのなんだけど、あれ? って感じのなの》
つまり、どういうことだ。
《こんなだっけ? っていうのと、どうして此処に? っていうのが半分ずつ》
「で、それどこにあるの?」
《一番外側の結界の外》
結構距離がある場所だな。
《よしっ、アカリ、あの結界を消せれば何とかなるかもよっ》
「え、ホント?」
《たぶんだけど!》
「曖昧だな……。でも、可能性があるなら十分」
他のことは考えずに、結界使いだけを倒すことならできるかもしれない。
「ダイキ、これから結界使いを倒したいんだけど、邪神を足止めする方法ない?」
「お前のその、よく分からないやつで防げてるじゃないか」
「魔法を撃つとき、邪神に消されたら困るから」
「ああ、それなら、少しの間視界を塞げるとっておきがあるぜ」
「じゃあ、それを頼む」
俺も準備を始めるか。
と言っても、ちょっと位置取りをするだけだけど。
「よし、やってくれ」
「ほいっと」
ダイキが手を上げると、目の前に土の壁が出現した。
この感じは、【物質保存】スキルであらかじめ収納していた物だろう。実物だからか、魔法のように邪神に消されていない。
「空間切断!!」
魔法を細剣に乗せ、横に薙いで飛ばす。
【範囲魔法】無しでの【空間魔法】だ。魔力が遠慮なく持っていかれる。
通常発動の空間切断は、細剣を振った軌道の延長線上へ広がりながら飛んでいき、すり抜けるように木々を切断する。……たぶん、あそこに仲間は居ないはずだ。敵が固まっている場所に飛ばしたわけだし。
空間切断の魔法は結界使い達のもとまで到達して、ダークエルフの周囲に張っていた結界を切断した。
その中に居たダークエルフは地面に伏せて回避している。まあ、目立つ技だしそりゃ避けるか。
「ダイキ!」
「ああ!」
ダイキは即座に瞬間移動で結界使い達のもとへ移動し、電撃をまき散らした。
一か所に集まっていたダークエルフは、それに対処できずに伏せた状態のまま意識を飛ばしたようだ。
俺の意識も飛びそうだ。
空間切断は結界を切断したあとも少しの間維持し続けて、俺の魔力を全て使ってから消滅した。
体が地面に倒れる前にリティが受け止めてくれた。
そしてそのまま、背中に背負われる。
動けなくなった俺をただ支えているだけでは危ないと考えたらしい。
なるほど合理的だ。淀みなく背負ってきた判断力は流石だと思う。……でもリティにおんぶされるのは恥ずかしい。
「とにかく、これで結界は消えたよ」
空を覆っていた薄膜の結界が解けるように消えていく。
ダイキが出した土壁は簡単に邪神に壊されたが、あれはもう十分に役目を果たし終えた。
《これでたぶん――――あっ》
「え?」
邪神の全身が、貫かれていた。
邪神の足元から生えた無数のニードルが、邪神を貫通してその鋭利な先端を晒している。
「何が、起きたんだ?」
「アカリ、俺はもう訳が分からないんだが!」
「あの人、死んだの?」
それは気になるが、今すぐ確認する度胸は俺には無い。背負われている身だし。
「いや、一応まだ生きているみたいだね。流石は『邪神』ってとこかな?」
後ろから声がして、慌てて振り返る。
リティが。それによって俺も振り返る。
「あれ、ディーロ先輩?」
「やあ、奇遇だね。さっきは一人だけ君の家に置いていかれてどうしようかと思ったよ」
数時間前に家に置いてきたディーロ先輩が、そこには居た。
……その節はどうもすいませんでした。
「いやいや、なんでディーロ先輩が此処に居るんですか」
「ちょっと気になったからね。様子を見に」
「イトラースからエルフの森まで数日の距離ですけど」
「頑張って歩いてきたんだ。大変だったよ」
意味が分からん。
というか、邪神を穴だらけにしたのってディーロ先輩なのか?
「ユユ、ヘルプ」
《うん、この人少し前から結界のすぐ傍まで来ていたみたいなの。でも結界を越えられなかったみたいだから、アカリ達が結界を消したお陰で今此処に来れたんだよ》
「その前後も詳しくお願い」
《うーん……それは私も見れなかったから詳しくは分からないんだけど、その人、人じゃなくて神だから。神様》
「えっ」
「どうかした?」
殆ど声を出さないでユユと話していたが、思わず声が出てしまった。
でもこれは、確認せずにはいられない。
「ディーロ先輩、あなた、神様なんですか?」
普通なら突拍子のない質問だが、ディーロ先輩は軽く驚いて見せた後、一拍置いてから答えた。
「――そうだよ。じゃあ改めまして、ミューヴェルの時間を司る神、『時神』ディーロだ。よろしくね」




