62 遁走
様子を見ようとして木の陰から顔を出したら、邪神とばっちり目が合った。
――【瞳の魔眼】視界奪取。
「場所がバレた!」
「何やってんだよ! 他に移るぞ!」
「ダイキが先に行って。転移で付いてくから」
「分かった!」
返事と同時に、紫電を残してダイキは姿を消した。
ほぼ反射で魔眼を発動したが、二度目だし単発で使っただけだから殆ど効果はないだろう。
急いで転移元の範囲を用意し、リティと共にダイキの持つ懐中時計の魔法陣へと転移する。
「ふうっ、危なかった」
「ビビらせるなよ全く……。とはいえ、このまま逃げてるわけにも行かないよな」
「下手に攻めてもまた他の特殊スキル持ちに邪魔されるよ。邪神を足止めして、先にあいつらを倒さないと」
「足止めったって、そんな余力ねえよ。他の仲間はあの槍で結構被害を受けたようだしな」
皆、今は邪神の視界に入らないように隠れているが、不意に槍の雨を受けて傷を負った人も少なくはないようだ。
《あれ、アカリ。もしかして結構やばい?》
「ああ、さっきからずっとだけどね」
《うーん……》
この状況を見かねてか、ユユがうんうん唸りだした。
今のところただ唸り声が聞こえてくるだけなので、俺からすれば雑音が混じって集中力が削がれる。
取り敢えず、もう一度邪神の様子を見たいところだ。
今度は視界設置で魔眼越しに見る。設置位置がアバウトになるけど、離れたところでも設置できるのがこのスキルの利点だ。
邪神は動かず何をしているのかというと…………槍を作っていた。
さっきばら撒かれた簡素な槍とは異なり、一本の槍を丁寧に生み出しているようだ。
……ああ、あれを喰らったら胴体が消し飛ぶな。
「あいつ、凄い力を籠めてるように見えるんだけど……」
「何!? 溜め技か!!」
ダイキって、軽くゲーム脳っぽいよな。
というか、ああ、槍がバチバチ発光しだした。
もう、見るからにやばい。
いざとなったら即座に転移できるように、リティとダイキを範囲に入れておく。
……あっ、もう限界。転移。
結界を抜けるのに使った魔法陣を転移先にして三人で転移した。
直後、轟音が鳴り響く。
「あっぶな!?」
邪神が投げた槍の軌道上にあったものは全て消え去り、森の中に直線の道が生まれていた。
逃げるのが遅れていれば、あれに巻き込まれて形が無くなっていただろうな。胴体どころじゃなかった……。
邪神はその結果を見届けると、再び同じサイズの槍を手元に作り出した。
それに魔力を注ぎながら、こっちに振り向く。魔法陣があった場所は特に隠れていたわけでもないから、思いっきり見られた。
「あとはもう、離れた場所にしか範囲が無いんだけど!」
「同じ手は使えないってことか?」
ちょくちょく引いていた範囲は呪われたときに消えてしまい、その後に引いた範囲も転移に使えるものは残っていない。
あるのは足元にある魔法陣とダイキが持つ懐中時計、その他で一番近いのは少し離れた場所にある一つ前の結界を越えるのに使った魔法陣くらいだ。
一度結界の外に出たら、戻ってくるのは難しい。そうなると、結界内から出ることは他の仲間を見捨てるのと同じようなものだ。
しかも、今度はこちらの位置をしっかりと補足されている。
となると――。
「ダイキ、その懐中時計を使うから別々に――」
言い切る前に、邪神が目の前に現れた。
転移、瞬間移動、どういったものかは分からないが一瞬で距離をゼロにされる。
邪神に一番近いのはダイキだった。
邪神はその手に持った槍を、無造作に横に振るう。
ダイキはそれに対し、体全体を隠せる大きさの盾を取り出して防ごうとする。しかし、邪神は盾も、ダイキのことも関係なしに勢い変わらずに槍を振り終えた。
盾の残骸が辺りに飛び散る。
だけどその盾は、辛うじてその役目を果たしたようでダイキは五体満足な状態で邪神の攻撃を凌ぎ切った。……吹っ飛んだけど。
槍の被害はそれだけではなかった。
槍を振った衝撃で近くに居た俺とリティもまた、足が浮いて飛ばされてしまった。
まあ、邪神との距離が取れたのは幸いかな。
そう思ったのも束の間、再び目の前に邪神が。
邪神はただ槍を一振りしただけ。よって、今の攻撃にインターバルは存在しない。
「くっそ、リティ!」
一緒に飛ばされたリティの手を取ると、【範囲魔法】で一気に魔力を流す。
自分の体とリティの体を範囲として指定し、ダイキのもとへ転移する。
「はあっはあっ、きつ……」
転移元をラインじゃなく接触で、しかも指定する時間を短縮したから結構魔力を使った。
そろそろ魔力が半分切ったかな……。
「ごほっ、お前たちも、こっちに来たか」
「ああ、治癒しておくよ」
「悪い」
吹っ飛ばされたダイキは木の幹に当たって停止したようで、すぐにダメージを無くすために状態復元を掛ける。
ただ、この場所は邪神にも把握されているわけで……。
邪神が一瞬で移動してくる。
それを予想していた俺は、再び結界を抜けた魔法陣への空間転移を発動した。
だけど、この鬼ごっこ、今度こそ逃げ場が無くなった。
この場には他に転移先となる範囲は無いし、連続での空間転移は魔力の負担が大きい。急激な魔力減少は肉体にも負担が掛かる。
さっきから、呼吸が乱れている。
それでも容赦なく、邪神は襲ってくる。
一瞬で目の前に現れ、ただ槍を振るう。
――こうなったら、触れたと同時に邪神を転移で飛ばす。
そうすれば攻撃を途中で止めて、この場を凌ぐことができるだろう。
出来れば、だが。
《――『コネクト』》
しかし、邪神の槍は俺に当たる前に『何か』に止められた。
青い紐のような線。それが幾つも連なって出来た柱が地面から生えてきて、邪神の槍を止めていた。
邪神は一度槍を引き、再度振るう。しかしそれも別の柱が出てきて受け止める。
《そこの空間と私のテリトリーを繋げて連動させたの。私が神域で物を作れば、リンクしている場所に同じ形の物が出現するよっ。一時的なものだからか見た目は変だけど》
「゛消えろ゛」
邪神はユユの創造物を破壊できないと見るや、即座に言霊を発する。
しかし、ユユが創り出した柱に変化は無く、そこに在り続けた。
《私の力のほうが上だね! アカリは私が守るんだからっ》
「ユユ……そんなことできたんだ……」
《ほんとは難しいんだけど、魔法を打ち消す能力だと、アカリ、死んじゃうかもしれないから》
ああ、言われてみれば深手を負って【状態魔法】で治癒中に効果を消されたら死ぬか……。
あっぶねぇ……そこまで考えてなかった。
邪神の攻撃をユユの創造物が防いでいく。
衝撃だけで人が浮く威力の攻撃だが、それでも創造物はびくともしない。
今度は、距離を取って槍を投擲してきた。
けれどそれも、四方全体を囲うように出現した物によって防がれる。
「なあこれ、どうなってるんだ?」
「アカリ? 何したの?」
状況が分かっていないダイキとリティが首を傾げている。
でも、どう説明したものかなぁ。
ペース落ちてきたので、取り敢えず新作上げときます。
よかったらどうぞ。




