61 全力
「取り敢えず、全力で当たってみるしかないか」
鑑定による事前情報が無い為、敵の強さがはっきりしない。
ダイキの言うように、取り敢えず当たってみるしかなさそうだ。
邪神が槍を撃ち終わり、音が止んだら木の陰から出る。
「【雷身化】」
ダイキがスキルを発動し、邪神のもとへ瞬間移動で一気に距離を詰めた。
そのまま斬りかかる。その手には刀が握られている。
「゛止まれ゛」
「ぐっ!?」
ダイキの体が不自然に急に止まった。
スキルは使えたようで、ダイキは邪神が次の言葉を紡ぐ前に瞬間移動で離脱した。
ダイキが離れたのを見計らって、準備していた範囲から【水魔法】を発動。複数の範囲から時差別に魔法を放っていく。
お、これは効き目があるか?
邪神の能力は効果範囲が広くないのか、俺の周りに引いた範囲は消されることがない。
撃った魔法は邪神に近づくそばから消えていくけど、足止め程度にはなっているようだ。
ダイキも遠距離攻撃の方がいいと判断したようで、単発の雷を連続して撃ち続ける。
しかし、邪神は魔法を一言で一度に消せるらしく、数が増えても効果が見られない。
……このまま続けていても、勝てる見込みはないな。
でも近づくとさっきのダイキのように動きを止められる。……あれ? これ無理じゃね?
「何か、無かったかな」
有効打になるようなやつ。
ダイキの瞬間移動は、相手が打ち消す間もなく発動して、その効果を終えるから攻めにも逃げにも使えていたな。
俺も転移はできるけど、実戦では範囲を引かないと魔力が持たない。
退避には使えるかもしれないけど、攻めには難しいか。
後は、【瞳の魔眼】が温存してある。
安定の切り札。眼球設置からの瞳合わせなら邪神の視界を奪うことができると思う。
問題はタイミングだな。
ただ視界を奪っても、邪神の能力ならすぐに魔眼の効果を打ち消せるだろう。
視界を奪った一瞬で一気に攻めないと意味が無い。
「というわけでミーティング」
「近づいてくるなり何なんだよ……」
作戦会議のためにダイキのもとへ近寄る。
その間も魔法を撃ち続けているから、ゆっくりと歩いてだ。
「邪神に一発喰らわせる為のミーティングだよ。タイミングを見計らって俺が魔眼で視界を奪おうと思うんだけど」
「ああ、なるほど。それに合わせて飛び込めばいいわけか」
「そういうこと。話が早くて助かるよ」
後はフェルクにも参加してもらいたいんだけど……何処に居るんだ?
「ん? どうかしたか?」
「いや、フェルクにも伝えたいんだけど、居場所が分からなくて」
邪神の不意打ちを喰らったときにはぐれたままだ。
無事だとは思うんだけど。
「一旦身を隠したのなら別行動でいいんじゃないか? あっちはあっちで考えがあるんだろうし」
「まあ、見つからないなら仕方が無いか。……ああそうだ、懐中時計の魔法陣に魔力を流しておいてくれ」
「転移先か。分かった」
転移元の魔法陣も描いておけばよかったかな。
そうすれば、ダイキが危なくなったら呼び戻せるし。
「――アカリ」
リティに名前を呼ばれ、反応すると同時に邪神に向けて放った水属性の魔法が跳ね返ってきた。
俺が何かするよりも早く、リティが一歩前に出ると槌で魔法を打ち潰した。
リティさん、俺の収縮魔法防げるのね……。
振りぬいた槌の軌道には光の粒子が漂っている。
俺のウォーターレーザーもどきに対して普通に武器を振っていたら少なくとも武器が痛むと思うし、何かスキルでも使っているのかな?
……おっと、驚きで思考が逸れたけど、それどころじゃないな。
「消すんじゃなくて、跳ね返してきたんだけど」
「となると下手に火力があるのも危険だな。俺は【雷身化】で雷無効だけど」
「早いところ攻めに出ないとな。これから準備をするから」
【瞳の魔眼】の視界媒体設置を始める。
魔眼使いにやったのと同じように、あちこちに設置して仕込みをする。
……こんなもんか。
「よし、準備完了!」
「こっちはいつでもいいぞ」
「じゃあ早速……」
――【瞳の魔眼】媒体起動。
ぎょろぎょろぎょろぎょろ。
3桁近い数の眼球が開き、無秩序に動く。
全て、左目にリンクしている。
……やばい、数が多すぎた。気持ち悪い。
視覚情報が滅茶苦茶に脳へ入ってくる。
バグった映像を見ているようで、これに集中してピントを合わせるなど、吐き気を催す作業だ。
どれか一つでも邪神と目が合えばいいんだ。無理に全部を見る必要は無い。
眼球を適当に動かして、幾つもの視界が邪神の姿を捉える。
そのうちの一つ、ふと目が合ったものへ意識を集中させ――――発動。
「――今だ!」
合図と同時に、ダイキの姿がブレて消えた。
「うぅ……」
思わず頭を押さえつつも、視界媒体を消す。
気持ち悪さを状態復元で消し去り、結果を見る為に再び邪神へと視線を向ける。
邪神の片腕が宙を舞っていた。
十分な深手。しかし邪神を仕留めるには一歩足りていない。
ダイキは追撃を加えようとしたようだが、邪神の方が早かったようで剣を振りかぶったままその動きが止まっていた。
動きを止められたダイキはその場で全身からスパークを放ち、次の瞬間にはその場から姿を消した。
邪神がまともにダメージを負った隙を逃さない為にも、俺は再び範囲を引いて【水魔法】を放つ。
放った魔法は消されるか跳ね返されるかだと思ったが、予想に反して邪神は体を大きく逸らすことでその攻撃を躱した。
……お、どうやら電撃が効いているみたいだ。
至近距離で放たれた電撃で痺れているらしく、邪神の挙動に不自然な部分がある。
ここは畳み掛けるべきだと考え範囲を用意していくのだが、そう考えたのは他も同じらしい。
突如、邪神の足元から影が吹き出し、鋭い刃となって邪神に襲い掛かった。
……この攻撃は、フェルクか。
俺もそれに合わせて範囲から一斉に魔法を放つ。
激しい騒音と【水魔法】の余波の飛沫が辺りへと広がり、短い間だけど視界が塞がる。
全力での攻撃だったが、復活した視界の先には未だに邪神が立ち上がっていた。
「ここで、結界かよ……」
邪神の周りには球状の膜が張られている。
結界使いがいつの間にか包囲から抜け出していたみたいだ。……ああ、さっき槍の雨がこっちの仲間全員に向かってきたからか。
くそっ、影が薄くて気付かなかった。
そうでなくても邪神だけで手一杯なのに。
「゛貫け゛」
すぐ目の前で声が聞こえた。
気付いたときには邪神が目の前に居て、その手に持っていたであろう木の槍は俺の胸を突き抜けていった。
「けふっ」
「アカリ!!」
近くで警戒をしていたリティが近寄ってくる。
マズイ、目の前に邪神が居るのに。
俺は駆け寄ってくるリティの方に向かって飛び込むと、ぶつかるようにリティを抱きしめて空間転移を発動した。
――【状態魔法】状態復元。
「ごほっ、ごほっ!」
「うお!?」
転移して即座に傷を癒す。
転移先の指定はダイキの懐中時計だ。転移元は範囲を引く時間が無かった為に魔力を多く使ったが、転移先の範囲があった分そこまで減ってはいない。
「うぐ……」
「あ、ごめん……」
思いっきりリティを下敷きにしてた。
「なあ、今何があったんだ? ここから邪神の様子を見てたんだが、完全に消えたぞ」
「たぶんだけど、あいつ転移か何か使ってきた」
「うげ、真似されたか……」
確かに、ダイキが毎回瞬間移動でヒットアンドアウェイをしていたからな。
同じことができるのなら、やり返してきてもおかしくは無いか。




