60 言霊
状態復元を使い、魔力結晶の羽根が生まれる。
その羽根は地面に落ちる前に、リティが振った槌の勢いに巻き込まれて空へと舞い上がっていった。
俺が呪われている間、ダークエルフ達の攻撃をリティが防いでくれていた。物理で。
「ありがとう。もう大丈夫」
でも、また呪いを掛けられたら同じことなんだよな。【状態魔法】を呪われたらもう解呪ができなくなるし、状況はあまり良くない。
【代償魔法】の発動には名前の通り代償が必要だし、そう連発できないとは思うけれど、実際に何回使えるのかまでは分からない。
また呪われたくないし、【範囲魔法】が使えるようになったのは少しの間隠しておくか。
「一旦下がろう」
「うん」
リティと一緒に味方の後ろに下がる。【範囲魔法】が無いと、俺の属性魔法は大して威力が出ない。
……集団の後ろに行くことで攻撃は飛んでこなくなったけど、その分状況が見えないな。
仕方が無いので、ちょちょいと魔眼で視界を移すことで前線の様子を見る。
ダイキが格闘家とやり合ってるな。
基本的にダイキが優勢のようだけど、大技を撃つと結界使いが格闘家の周りに結界を張って守ることで援護されているみたいだ。
それが鬱陶しかったらしく、ダイキが結界使いに絶え間なく電撃を当て始めた。
電撃は結界に防がれるけど、それで結界使いの視界が塞がれた。
ダイキはそのまま片手間に電撃を放ちながらも格闘家と互角以上の戦いを続けている。
こっちは心配なさそうだな。
呪術師のほうはフェルクが相手をしているようだ。
どうやら相手はまともに戦う気は無いらしく、【土魔法】で壁を作っては距離を取るを繰り返している。
「んー、ダイキはもう少しすれば勝てそうかな。フェルクは呪術師を追いかけてるけど、時間が掛かりそう」
「結界のは?」
「結界使いはダイキが動きを止めてるな。あれなら何もできないだろ」
特殊スキル使いさえ止めれば、あとは三種族の精鋭を集めたこちらの方が有利だ。このまま俺らは動かなくても大丈夫そう。
というか、呪術師がやられるまで動きたくない。
もう暫くは裏に回ろう。
暇になったから、ダイキの電撃で伸びている魔眼使いを転送する。転移先で縛られるだろうから、これで完全に戦線復帰は無くなった。ちゃんと魔眼使いだってメモもくっつけたし。
「あれ、ダイキの電撃が止まった」
ダイキも慌てているし、どうやら【雷魔法】を呪われたようだ。
電撃が止まって結界使いが復活すると思ったが、ダイキは虚空から杖を取り出して、その杖から炎を結界使いに向けて放射した。あの杖は魔道具か。
それから杖を地面へ斜めに突き刺し、足で踏んで魔力を流すことで両手を空ける。
今度は虚空から二本のナイフを取り出すと、格闘家へ投擲。それを繰り返す。
元々追い込まれていた格闘家は、戦法を変えたダイキに対処できなくなってナイフを避けきれずに、やがて倒れた。
これであとは、呪術師と結界使いか。
周りのダークエルフも減って、戦力差も偏ってきた。余った戦力が結界使いへの攻撃を代わり、ダイキがフェルクの援護に回る。
と、フェルクの影が消える。
ダイキが何かを言うと、フェルクは後ろへと下がっていった。フェルクも呪いを受け、ダイキがそのことを教えたのだろう。
「こっちこっち!」
フェルクが後方まで下がって来たので、声を掛けて呼ぶ。
「アカリさん、ここに居たんですか」
「俺も呪いを受けてね。解呪はしたんだけど、一旦下がったんだ」
「スキル封じのやつですよね。勇者さんが、アカリさんなら治せると言ってたんですけど」
「ああ、大丈夫。けど、どこかしら触る必要があるんだけど……」
【状態魔法】を他人に使うには【範囲魔法】の範囲拡張が必要だ。
「うっ……でも、スキルを封じられたままだと困っちゃいますし、お願いするです」
フェルクは男が苦手だけど、それでも手を差し出してきた。その手を握る。
「平気?」
「は、はい。思ったより平気です」
大丈夫そうなので、範囲拡張の為に魔力を流す。
「うひゃあっ!」
魔力を流し込むと、フェルクが軽い悲鳴を上げる。……敏感な方だったようです。
まあ、今更止めるとやり直しになるし、このまま続ける。
「んんっ……ひぁ…………はぁっ」
何と言うか……これ王さまにもやったんだよな。こんな反応されなくてよかった。
――【状態魔法】拡張、状態復元。
「もういいよ。あとなんか、ごめん」
「い、いえ。ありがとうです……」
流石に居心地が悪くなって目を逸らす。
しかし、目を逸らした先にはジト目のリティが。
「アカリ……」
「うぐっ、いや、俺なんも悪いことしてないよ?」
弁解したいけど、何について弁解すればいいのか分からない。ホント、俺悪いことしてないし。なのに罪悪感だけが募る。
というかこんなことしてる場合じゃないな。ダイキに全部任せてる状態だし。
ダイキも【雷魔法】を呪われてるし、早いとこ援護したほうがいいだろう。
結界使いは今では周りを囲まれて身動きが取れないから、ここは皆で呪術師を相手にするか。あいつはさっさと倒してしまいたい。
「よし、三人でダイキの援護に行こう」
そう言ったときだった。
目の前に、何処からか一人の男が現れた。
褐色肌にエルフ耳。
敵だと思った瞬間、細剣をそいつへ向けて収縮した【火魔法】を放つ。
「゛消えろ゛」
敵の言葉に従ったかのように、俺の魔法が消える。
「゛燃えろ゛」
「アカリ!」
ぐふっ。
リティからのタックルを受けて、そのまま抱き着かれた状態で後ろに転がる。ごろごろと。
結構勢いがあって、ようやく止まったときには全身泥だらけになった。
「うえっ、リティ、助かった」
俺がさっきまで立っていた場所には火柱が上がっていた。攻撃直後だったから、一人では逃げ遅れていただろう。
《アカリ、あれ、邪神だよ》
「マジか」
こいつが邪神。ぱっと見普通のダークエルフに見える。
だけど、あいつからは離れていても強い魔力を感じる。だだ漏れなんじゃねってくらい。
結界使いと呪術師がまだ残ってるのに、もう邪神が出てしまった。
「゛木よ、槍となり敵を貫け゛」
言葉通り、邪神の近くにあった木がバラバラに砕けて何本もの槍になる。
細剣で範囲を引き、【水魔法】で盾を作る。
「゛消えろ゛」
言葉一つで、盾が消える。
盾が消えたので、槍はリティが槌で防ぎながら後退して木の陰に隠れた。
魔法を消されるんじゃ、転移して逃げることもできない。
消すには言葉が必要みたいだけど、【範囲魔法】で線を引いている間に範囲を消されてしまうだろう。やっぱりさっさと撤退してればよかったかな……。でも、戦闘中に全員で逃げるなんてできなかったし。
「こっち、どうなってた」
呪術師と戦っていたダイキが俺らのところまでやってきた。
邪神の槍は、俺達だけではなく味方全員に襲い掛かった。ダイキにも飛んできて、呪術師の相手どころではなくなったようだ。
「何あいつ! ステータス見れないんだけど!」
「邪神」
「はあ!?」
話しながら、ダイキに状態復元を使って呪いを解いておく。
「『邪神』ってあの、過去に暴れた『魔王』がそうだったっていうやつか」
え、そうなの?
「その魔王って、『勇者』が倒したんでしょ? ダイキ何とかならない?」
「俺だってこの世界に来たの最近だぞ。いきなりラスボスは無理だって」
戦う前から弱気な発言。
もう、なんか駄目な気がしてくるから、もっと前向きに頼むよ。




