59 技能呪縛
格闘家が下がって、ダークエルフと距離ができたから今のうちに結界の外に居る残りの仲間を召喚する。
全員呼んだことで相手も不用意に近づけなくなり、遠距離攻撃を互いに撃ち合うだけの膠着した状態になった。
維持し続けるのが地味に大変な為、背中に広げた翼を消す。
さて、お互いに牽制の魔法を撃ち合っているうちに、気になったことを確認しておくか。
「ダイキ、さっきのやつ『邪神の加護』なんて持ってたんだけど」
「ああ、見たところ敵の特殊スキル持ちは全員持ってるな。前に王城で戦ったときには無かったんだが」
「最近になって手に入れた加護というわけか。それで、前との違いは?」
「あー、加護を得ると以前より魔力量とかが増えるらしいんだが、俺もそこら辺はよく分かんないんだよなあ。スキルと違って大きな変化が無いって言うか」
言われてみれば、精霊の加護だとその属性が成長しやすいとか、加護持ちは魔力が多いといったことは聞くけど、それで劇的な変化はないのか。
心配し過ぎかな? でも、なんで一斉に加護を手に入れたんだろ?
《アカリ、アカリ、ダークエルフが『邪神の加護』持ってるってホント?》
「うん、ダイキの目で確認したけど」
気になることでもあるのか、ユユが話し掛けてくる。
その声は他の人には届かないので、変な人に思われないように小声で答える。
声に出さなくても頭の中で念じればユユには届くんだけど、それをするには結構集中しなければいけない。逆に声に出せば小声でも聞き取ってくれるから、基本的に俺はユユとの会話は声に出してする。
《うわ、それなら逃げたほうがいいかも》
「え? そんなに強い加護なの?」
《いや、加護自体は他のと大差ないんだけど……》
「それなら、どうして」
《加護持ちが何人もいるなら、そこに邪神も居る可能性が高いの》
え、近くに神様居るの?
加護与えてるなら、当然ダークエルフの味方だよな。
でも神様が干渉してくることがあるか? ……ああ、昔それで国が滅んだことあったんだっけ。
「その神様、やっぱり俺達を攻撃したりする?」
《敵対してるし、たぶん……。それと、邪神は正確には神じゃないよ》
「……邪神なのに?」
《邪神は人が神になり損ねた存在。人よりは上位だけど、神よりは下のどっち付かずなんだよ》
「それでも人より上位なんだ。結構やばい?」
《普通の神より人に近いからね。その分人に干渉するだろうから、下手な神より厄介だよね》
「かなりやばいな……」
ユユが名前を聞いて逃げたほうがいいと言うのも納得だ。
でも、俺だけならともかく、ここに居る全員で逃げるのは難しい。
結界を越えて敵地へ侵入したことで、逆に逃げ場を奪われている。すぐ後ろには結界、これを越えるには俺の転移が必要だ。
それに、いきなり俺が逃げると言い出しても納得してくれないだろうしな。
「まだ邪神は出てきてないし、今は目の前の敵をどうにかするしかないか……」
様子を見ていると、一際威力の高い魔法がこちらの防御を貫通して、仲間のすぐ手前に着弾した。
【連籠魔法】と【代償魔法】はどちらも攻撃の威力を上げることができる。ただ距離を取って撃ち合うだけだとこっちが不利なようだ。それは他の人も気付いているだろう。
ダイキやフェルクは近接の方が得意みたいだしな。
よし、ここは俺が近づく為の隙を作ることにしよう。
「俺が一度でかいの撃つから、そのあとよろしく」
【範囲魔法】で大小様々な輪を作りながら、敵の攻撃を喰らわないギリギリのところを歩く。
こんなところかな。
「――『アクアランス』!」
用意した全ての範囲から、サイズの異なる水属性の槍を飛ばす。
《巨人のシャワーみたいだね》
「言いたいことは分かるけど、シャワーの威力ではないかな」
焦って防御に回るダークエルフの姿がここからでもよく見える。
敵の攻撃が止まったところで近接要員が一斉に駆け出し、そうでない者も距離を詰める。
俺は勿論後衛。前衛で不慣れな剣術を披露するより、後ろから魔法を撃っていた方が役に立つからね。
リティは俺の護衛ってことらしく、俺と一緒に居る。
ダイキ達が頑張っているし、俺は後ろからちまちま魔法を撃つとしよう。
範囲を絞って収縮した魔法は、威力は高いけど射程がそんなにない。この距離だと、絞るより広げて拡大した射出系の魔法の方がいい。
「『アクアショット』!」
直径1メートルを超えるサイズの水球を敵の固まっている場所へ放つ。それをもう一発。更にもう一発。
簡単に高威力な魔法が使えるので、調子に乗って何発も放つ。
撃った場所の中に、一か所だけ小規模な結界で防がれた場所があった。
魔眼補正の効いた視力をもって確認すると、一人のダークエルフの男が球状の結界に包まれている。
あれが結界を張っていたやつか。
あいつを倒せばここら一帯の結界も消える筈。集中して結界使いに魔法を撃ち込む。
すると、ダークエルフ達の反撃の魔法が俺のところへ集中的に飛んできた。
……やべ、ヘイト管理間違えた。
慌てて正面に範囲を作り、【水魔法】を発動して盾にする。
「アカリ、大丈夫?」
集中砲火を浴びる俺を心配してか、リティが声を掛けてくる。リティは俺の後ろで一緒に水の盾に隠れている状態だ。
「防ぐ分には問題無いけど、これだと攻めに出れないな」
まあ、敵の攻撃を引き付けているわけだし、このままでもいいけど。でも結界使いはどうにかしたいな。
ダイキ達が攻めているお陰か、さっきまでよりも相手の魔法の数は少ない。この程度なら暫くの間防ぎ続けることもできるだろう。
念の為に予備の範囲を用意しておく。
未だに切れ味を試す機会が殆ど無い細剣で輪っかを引いていく。せっかくリティに作ってもらったんだし、普通に剣としても使いたいんだけどね。今のところ【範囲魔法】の補助にしか使っていない。
「あれ?」
範囲を引いていると、突然引いていた範囲が消えた。
それだけではなく、周りに用意した範囲も次々と勝手に消えていく。止めようにも、普段頭の中で意識すればできる【範囲魔法】の範囲指定ができなくなっている。
「アカリ!」
リティが俺の前に出て、その手に持っていた槌を振るう。いつの間にか、リティの槌は淡い光を帯びていた。
その槌は激しい音とともに敵の属性魔法を打ち消す。……どうやら、正面に展開していた水の盾も消えたようだ。
【範囲魔法】が使えなくなった?
別に魔力が無くなったわけでもない。まだまだ余裕がある。
体調も問題無いし、理由が全然分からない。
「どうしたの?」
「分かんない。ただ、俺のスキルの一つが急に使えなくなって」
「……何か、された?」
「ああ、そうか。敵に何かやられたのかもしれない」
そう考えると、スキル封じなんてやってのけるのは特殊スキルくらいだろう。
この場に敵の特殊スキル使いは四人。【代償魔法】の呪術師と【連籠魔法】の格闘家、結界使い。あとはそこで伸びている魔眼使いだ。
呪術師。呪い。
一番可能性が高いのはそれかな。
――【状態魔法】状態復元。
阻害スキルの状態異常なら【状態魔法】で治せる。
……これ【状態魔法】を呪われたらやばいな。常時効果の状態維持で、状態異常にはなりにくい筈なんだけど、【代償魔法】で威力を上げた呪いはその上を行くらしい。




