5 情報収集
宿に着き、金を払って部屋を借りる。
朝食込みで銀貨1枚。昼、夕食は別料金。
夕食を食べた後、部屋に向かう。
部屋の中はあまり広くはないが寝る分には不足はない。
桶とタオルを使って体を洗う。
寝支度が整ったところで金策計画を練る。
「ユユ、どうしたらいいと思う?」
《んー、アカリは持ってるスキルは強い筈なんだけど、まだLVが低いから》
そもそもスキルだって他の人と比べたりしてないから、いまいち強さも分からないんだよな。
取り敢えずステータスを開いてみる。
名前 アカリ・ユミツキ
LV 1
種族 人族
年齢 0
性別 男
【スキル】
状態魔法3
空間魔法3
範囲魔法1
瞳の魔眼2
【加護】
死神の誘い
空間神の加護
空間神の寵愛
【称号】
転生者
祝福されし者
死を招く者
【瞳の魔眼】のスキルレベルが上がってる。結構使ったからな。
《スキルレベルは熟練度で上がるからね。練習とかでも上がるよ》
「使ったこともない【空間魔法】とか最初からレベル3なんだけど」
《それは私の加護の恩恵だよ》
基礎LVは魔物や人を殺さないと上がらないらしい。
「【空間魔法】とか使えればなんか凄いことできそうなんだけど」
今のところ完全に死にスキル。
《今一番使えるスキルは【瞳の魔眼】だよね。いろいろなことができるし何かお金稼ぎに使えないかな》
「戦闘で使えるのもこのスキルくらいだしな。魔眼の利用法か」
改めて魔眼の能力を考えてみる。
相手を見ることで使えるのが、視界を盗み見ること。
相手と目を合わせることで使えるのが、視力を奪うことと、特定のものを見えなくすること。
後は常時、視力強化や暗視の効果があるみたいだ。
何か思いつけばと取り敢えずスキルを使ってみることにする。
窓を開け、道を歩いている人を適当に選んで魔眼を発動。相手の視界を覗く。
そのまま歩いてる人の視界で物事を見る。
今の時間は仕事帰りの人でそれなりに人が移動している。
既に日が落ちてきているから酒を飲んでいるのもいる。
ふと試しに他人の視界を見ている状態でもう一度魔眼を発動する。
すると視界が移り変わり、また別の人の視界になる。
どうやら俺が直接見なくても、魔眼で覗いた視界からもスキルを使えるようだ。
「これ使えばいろいろなことを見ることができるな。情報なんかは金策に使えるかも」
魔眼の発動を繰り返し、視界を遠くへと飛ばしていく。
裏路地に入っていく人を見つけたので、そいつの視界に移る。
視界の主は細い道を進んで行き、そこに待っていた顔を隠した人物と何やら会話を始めたようだ。
「なんかすごい怪しいけど、見えるだけだから何言ってるか分かんないな」
《何が見えてるの?》
「ん? ユユは見てないのか?」
《うん。私はアカリの周囲しか見れないの》
俺はさっき手探りでベットに戻ってからは座って休んでいる状態だ。
今ユユは俺の居る部屋しか見れていないのか。
「男が裏路地に入って、フードで顔を隠した怪しいやつと何か話しているみたいだな」
相手は顔を隠しているし、視界の主の口元は当然見えないから会話をしているというのは推測だけど。
「あ、フードに何か渡した」
男は布に包まれた物をフードに渡す。
フードは布をずらし、中身を確認している。
確認が終わったらしくフードが頷いたら、男はその場を離れた。
咄嗟に魔眼の視界をフードに移す。
フードは裏道を幾つか経由してからフードを外して表通りに出ると、一軒家の中に入っていく。
建物の中はごく普通の家で、元フードはリビングの椅子に座るとさっき渡された物の布を外した。
中から出てきたのは、煌びやかな装飾の金色に輝く短剣だった。
その短剣を家の地下に隠した後、着替えをして何事も無かったかのように生活を始めた。
「凄い高そうな宝剣だったな。闇取引かなんかだったのかな」
その後もしばらく様子を見ていたが、特に変化はなかった。
魔眼を解除しようかと思ったとき、元フードが部屋の窓を閉め、窓硝子にそいつの素顔が映る。
銀髪に褐色肌の線の細い整った顔立ちをした男。
なにより先の尖った耳が特徴的だった。
魔眼を解除して、ユユに今見たことを話す。
《その特徴だと、たぶんダークエルフだね。エルフの亜種みたいなもので攻撃的な魔法が得意な種族なの》
「エルフとかいるんだ。にしても凄い犯罪の空気を感じたな」
《犯罪者なら情報提供でお金を貰えるかもね!》
「ああ、確かにそれはあるかもな!」
犯罪者らしき人を見つけて俺たちははしゃいだ。
まあ、不謹慎かもしれないが金に繋がるかもしれないんだからしょうがない。
情報提供って言っても情報源をどう伝えるか。
あまり自分のスキルは教えたくないしな。魔眼はばれたら引っ掛からなくなるし。
「今日の活動はここまで。もう眠気が限界」
あのダークエルフの観察でもうだいぶ夜が更けた。
明日は朝早いし考えるのは後ですることにした。
「おやすみなさい」
《おやすみー》
=====
扉を叩く音で目が覚める。
「アカリ、起きてる?」
リティが起こしに来てくれたようだ。
「ふぁい」
まだ眠い。
でも一緒に依頼をするからには起きなければならない。
ゆっくりと体を起こし、扉を開ける。
扉の前で待っていたリティはきちんと身だしなみを整えて、出掛ける準備が終わっていた。
俺はうつらうつらとしながらも挨拶をする。
「おはよ」
「おはよう」
朝食を食べに階段を降りて一階へ。
「あっ」
一歩目で足を踏み外す。
がたごとと音を立てながら階段を転がり落ちる。
「いったぁ~」
「だ、だいしょうぶっ!?」
完全に寝ぼけててやらかした。
痛みで一気に目が覚める。
体を起こし、状態復元で怪我を治す。
体全体をうっすらとした光が覆い、あっという間に痛みが消える。
「もう大丈夫」
「昨日も思ったけど、そのスキル、すごい」
「おかげでかなり助かっているよ」
ドジをやっても何とかしてくれる。
これもユユがくれたスキルのおかげだ。
そのまま食事に向かう。
テーブルに行くと、宿屋のおばちゃんが朝食を持ってきながら話しかけてくる。
「なんか今、凄い音したけど大丈夫かい」
「ええ、少し階段を踏み外してしまって」
「危ないねえ。気を付けるんだよ」
心配かけてごめんよおばちゃん。
=====
朝食を食べた後は、魔物を狩るために王都を出るため門に向かう。
だが、門がやけに混みあっている。
「何かあったのかな?」
「時間かかりそう」
しょうがないから後ろに並ぶ。
馬車と徒歩で別々に並んでいて、徒歩のほうはまだそこまで並んでいなかった。
何やら持ち物を厳しく検査しているようで、前のほうで揉めたりもしている。
少し待って、俺達の番になる。
俺の荷物なんて金の入った小袋とナイフ、ギルドカードとそれらを入れた革袋で全てだからな。
すぐに検査が終わる。
リティはまだ検査が終わっていなかったので待っている間、門番の人に話しかける。
「なんでこんなに厳しく取り締まっているんですか?」
「ああ、国王様の宝剣が盗まれたらしくてな。それがどうにも貴重なものらしくて絶対に外に出すなと言われているんだ」
特に秘密にしていないらしく、すんなり教えてくれる。
にしても宝剣か。心当たりあるんだけど。昨日のダークエルフが持ってたやつじゃね?如何にも宝剣って感じだったんだけど。
今からは魔物の討伐があるし、戻ってきても解決してなかったらまた情報を集めてみるかな。
リティも問題なく門を抜けたので、魔物が棲む森へと向かった。