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過保護な女神さまによる異世界転生  作者: 枡狐狸
第三章 歯車を回す少年
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55 薄膜の結界

 転移した先は木々に囲まれた空間だった。まあ、恐らくエルフの森だろう。

 正面にはフェルクと数人の魔族。ということは、背後にダイキか。


「来たよ」


 取り敢えず振り返って声を掛ける。


「よく来てくれたな。っていうか二人で来たのか」

「アカリが、心配」

「だそうで」

「なるほど」


 リティも心配しすぎだなと思うが、リティの知らないところで手足を飛ばされたことがある為、強く言えない。


「それで、どうして呼んだの?」

「ああ、その前に一つ言わせてくれ。……この懐中時計、目玉が生えるなんて聞いてないぞ。危うくぶん投げそうになったわ」


 確かに危ない。そんなことされたらその眼球と視界を共有してる俺が大変なことになっていた。


「それに関しては悪かった。そっちの反応まで考えてなかったな」


 うっかりしてました。


「頼むぜホント。フェルクディ嬢を脅かしたせいで、また攻撃されそうになったんだからな」

「す、すいません。つい手が出ちゃったんです」


 また、か。ダイキは既に攻撃された経験があるようだ。

 フェルクは萎縮しながらも近づいてくる。男は苦手だけど、ちゃんと話に入る気はあったようだ。


「それで、結局なんで呼んだの? 急ぎじゃないみたいだけど」

「そうだな、その前にいろいろ話したいこともあるし部屋に入ろうぜ。アカリを召喚する為に一旦出てきたんだよ」


 ダイキにそう言われ、すぐ近くにあった木造の建物に入る。椅子に腰かけたところで、ようやく説明が始まる。


「今の状況を把握してほしいから順序立てて話すぞ。まず、此処はエルフの森のエルフ達が生活している場所だ。俺達は此処に来て最初エルフに話を聞いたんだが、どうやらエルフも現在、ダークエルフと敵対関係にあるらしい。ダークエルフが離反して、クーデターのようなものを起こしている状況だ」

「ふーん。なら、ダークエルフの行動はエルフとは無関係だったのね」

「そうなるな。それで本来ならそのままダークエルフの集落に向かうつもりだったんだが、強力な結界が張られていて近づけないんだ。そんで困ったときのアカリ君かなーっと思って呼んだわけ」

「最後だけふわっとしてんなあ……」

「まあ、手詰まりだったからアカリ呼んでみて何とかならないかなーってのが呼んだ理由だな。それで、何とかできるか?」

「いや、その結界とやらを見てみないことには分からないけど」

「じゃあ早速見に行くか」

「近づいて大丈夫なのか?」

「ああ、近づいていろいろ試したけど無反応だったぜ」


 ダイキが試して大丈夫だったならいいか。ダイキの攻撃はバチバチと派手な方だし、それで反撃されていないなら何も無いのだろう。

 部屋に居る人全員で移動し、その結界のところまで向かう。


 結界は、半透明な膜のようなものだった。ダークエルフの居住区域を丸く囲っているようで、かなり大きい。


「どうだ?」

「そうだなあ……」


 これだけ大きいと【範囲魔法】で囲うのは大変そうだ。……時間を掛ければできなくはないけど。

 ダイキの攻撃力で破壊できなかったとなると、【範囲魔法】で威力を上げたとしても属性魔法では効果が無いだろう。

 【空間魔法】の空間切断ならもしかしたらいけるかもしれないが、俺は普段、空間切断を範囲内で一瞬だけ発動させて使っている。本来は斬撃を飛ばすのだけど、飛ばすと魔力を全部持っていかれる。

 空間切断をまともに結界に当てるには、結界を範囲で囲う必要があるわけだ。それはキツイ。


 結界を破壊するのが難しいとなると、通り抜けるしかないか。有効なのは【空間魔法】の空間転移かな。

 幸い結界自体はあまり分厚くないし、壁一枚分くらいの距離なら【範囲魔法】の補助無しでも余裕を持って転移できる。

 結界に転移を阻害する機能まで付いていたなら空間切断を試して、それで駄目なら俺の手に負えない。


 結界ぎりぎりまで近づく。結界の向こう側に転移先を指定して、転移。

 俺は、その場に羽根を残して一歩先に転移した。普通に成功したな。


「おお! 上手くいったな! 流石、便利召喚人間」


 言い返したいが、俺は今敵地に一人で居る状態だ。早く戻りたい。

 細剣を抜き、剣先に【範囲魔法】の魔力を集中させる。それで地面に魔法陣を描いていく。描くのは転移先に指定するものだ。よし、完成。


「ダイキ、懐中時計に魔力を流してくれ」


 帰りの範囲を引き忘れたので、ダイキに転移先の魔法陣を出してもらう。【範囲魔法】無しでも戻れるんだけど、やっぱりそれだと魔力消費が多いからね。

 ダイキが言われた通りに魔力を流したのを確認して、そこへ転移した。


「今回は目玉が生えなかったんだけど」

「眼球は別の効果で出るんだよ。とにかく、転移先の指定をしてきたからそれなりの人数結界の中に入れることができるよ」

「そうか。やっぱアカリを呼んで正解だったな」


 俺とダイキの二人だけで話が進んでいたので、ダイキが他の人へ改めて説明をする。


「では、一度エルフ達に声を掛け、その後突撃しちゃいましょう」

「あ、やっぱもうダークエルフと話し合いとかしない感じ?」

「そうですねぇ。向こう側も話し合う気は無いと思うですし、完全にエルフとも敵対しちゃってるようですから、ここはエルフと協力するのが良いかと」

「イトラースとしても、エルフの事情に寄るとの事でしたが、国王様からダークエルフと交戦する許可も下りています」


 フェルクと話していると、イトラースからの兵も賛同する形で話に入ってきた。たぶん、この中では偉い人だ。

 男というだけでフェルクの表情が固くなる。いや、この調査団の殆どが男なんだけど、今のでもキツイのか。


 フェルクは少し顔を逸らすと、横に居るイトラース兵が視界に入らないようにした。


「えーっと、それでアカリさんでしたっけ。その転移できる人数とは、具体的にどれくらいなんです?」

「一度に送れるのは詰め込んで10人くらいかな。魔法陣に魔力を込め直せば何度でもいけるよ」

「なら人員を絞る必要は無いみたいですね」

「いや、相手には【裂離の魔眼】がある。あんまり大勢で行っても王城の貴族みたいにまとめて動けなくされるだろうな」


 ダイキが魔眼使いを警戒するように言う。確かに、一発でかなりの人数を戦闘不能にできるあの魔眼は脅威だ。不意打ちならまず喰らうだろう。

 というか強すぎだよなあの魔眼。登場と同時にパーティー会場に居た殆どを潰したんだから。


「なあ、あの魔眼のスキルレベルって幾つだった?」

「うん? 確か3だったな。それがどうかしたか」

「いや、あのとき初撃で使った魔眼、強すぎないかと思って。俺の魔眼は一度に一人ずつしか効果を使えないぞ」


 あの威力で複数人に同時に使えるとか、完全に俺の魔眼が性能負けしてる。いや、俺の魔眼は偵察とかいろいろ使えるけどさあ。


「そういや、最初以外は一人ずつにしか使ってないな。威力に関しては最初以外目を合わせてないから何とも言えないが」


 そう言われてみればそんな気もする。あの場で立ってられてるのが少なかったから気付かなかったけど、俺とダイキが同時に魔眼を受けたりはしていないと思う。


「特別だったのは最初だけってこと?」

「最初だけ【代償魔法】を使ってたのかもしれないな。あのスキル、他人の能力を上げることもできるのかも」

「確かにそれならあの威力も納得できるね。となると、あの二人が一緒に居たら要警戒かな」


 二人とも素顔を見てないけど、それはダイキが鑑定すれば分かるだろう。

 それにしても【代償魔法】って俺の【範囲魔法】と同じ、補助系のスキルだよね。そう考えると、補助系の特殊ユニークスキルは本当おかしな威力を発揮するものばかりだ。俺は心の中の呪術師に対する警戒度をちょっぴり上げた。

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